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命の危機

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王宮の使用人達は、夜会が終わったばかりで、まだ忙しそうに動き回っている

私達は、案内係のメイドの後ろを歩き食堂へ向かっている
ヴィル様は、何度も私を覗き込むようにして微笑んでくれる

「ヴィル様?」

「ん?」

「ありがとうございました」

「俺は自分のやりたい事をやっただけだよ。これからは、来年の結婚式に向けての準備をしよう。アリーも王妃教育が始まるけれど、大丈夫かい?」

「はい。精一杯努力致します」

「ああ。アリーなら大丈夫だよ。これからは、いつでも側に居るからね」

「はい。ヴィル様」

あんな断罪式が終わったばかりなのに、私はとても幸せで、心が軽くなっていた
今まで重苦しかった全てから解放された様な気がした
これからは、自分の生きたいように自由になれるのではないかと思っていた



王宮は、とても広い
離宮とは比べ物にならない、長い廊下だった

私の隣にはヴィル様がいて、私の後ろにはリベール様がいる
その後ろには、ルドルフ様とラウル様
一番後ろには、キーラ様とサアラが続いている

廊下の向こう側からもメイドが歩いて来る
まだ仕事が終わらず、皆忙しいのだろう

メイドは、中央を歩く私達を避けるように端に寄って歩いて来る

私の横を通り過ぎるその瞬間
歩いて来たメイドが突然ぶつかって来た

「あっ‥‥」

思わず痛みを感じて足を止めた
ぶつかって来たメイドを見ると、私を睨みつけている
見たこともない人だった

脇腹が熱い

「おい!気をつけろ!何処を見て歩いている!」

ヴィル様が言うと同時に、後ろのリベール様がメイドを引き離した

「何をしている!」

リベール様が女性を引き離すと、また脇腹に激痛が走った

思わず手で押さえる
温かいものを感じる

「アリー!アリー!どうなってるんだ!アリー血が‥‥侍医を呼べ!離宮に居る俺の侍医を連れて来い!早く‼︎」

「はい!」

キーラ様が急ぎ走って行く

「キャァーお嬢様ー!」

サアラの悲鳴が聞こえる

ガクッと足の力が抜ける

初めて見る女性なのに何故?
誰なの?

「アリー!」

ヴィル様に抱えられる様に倒れ込む

押さえた手が熱い
せっかくのドレスが赤く汚れてしまう

「ヴィル様、ドレスが‥‥ごめんなさい」

「何を言ってる!しゃべっちゃ駄目だ!今すぐに侍医が来る!大丈夫だから」

周りの声が遠くに聞こえる気がした
ルドルフ様の声もリベール様の声もする
怒鳴っているようなのに、声が小さい
皆が大声で話しているように見えるのに、何故だか私にはほとんど聞こえなくなる

私は大丈夫だと伝えなきゃ‥‥
心配ばかり掛けてしまう皆には、謝らなければいけないわ


‥‥急にきちんと思いを伝えなければいけない様な気がしてきた
早く言わなくちゃいけない‥‥



「ヴィル様、心配ばかり掛けてごめんなさい。私を愛してくれてありがとうございました。私もヴィル様を愛しています」

ヴィル様の目からは涙が零れた

何かしゃべっているのに、聞こえない

「ルドルフ様?」

私の声は聞こえているようで、すぐにルドルフ様の顔が目の前に見えた

「ずっとあなたに救われてきました。私を助け出してくれてありがとうございました」

ルドルフ様も焦った様に何か言っている

「リベール様?‥‥せっかく来てくださったのに、ご迷惑ばかり掛けてすみません。お許しください」

リベール様は、切なそうに顔を歪めて何か言っている

「ラウル様?‥‥お屋敷でいつも気遣ってくださっていたのはラウル様でした。私を守ってくださり、ありがとうございました」

ラウル様も目の前に来ると涙を流していた

私、大切な人を忘れているわ‥‥

「サアラ?サアラ?ありがとう」

サアラの顔は見えなかった
見えなかったというより、目の前が黒くて見えなかったのだ

急に何も見えなくなった
聞こえなくて見えなくて‥‥
私、どうしてしまったのかしら‥‥


「アリー!しっかりしろ!アリー頼む!アリー‼︎」

ヴィルドルフが何度も声を掛ける

アリアンが目を開けることはない

アリアンの手がドレスから滑り落ち、脇腹から血が滲む
エメラルドのドレスがみるみるうちに色を変える
その範囲が広がる

「侍医はまだか?キーラ!早く連れて来い!」

ヴィルドルフは、流れる涙もそのままにアリアンを抱え込んでいる
ドレスが赤く染まっていく
滑り落ちた手も血に染まっている

ヴィルドルフは、アリアンを床に寝かせると、上着を脱ぎアリアンの脇腹に当てると強く押さえた

「頼むアリー、俺から離れないと約束した筈だろう?お願いだアリー、もう少し頑張ってくれ!侍医はまだか?」

「殿下ー!殿下ー!」

遠くから叫びながら走って来るのはキーラだった
周りには騎士達も連れている

「早く来てくれ!」

キーラの後ろには、懸命に走る侍医がいた
そして、やっとヴィルドルフの所に来ると、真っ赤に染まったドレスを見た侍医は、

「出血が多い。早く処置しましょう!処置できる所は何処ですか?」

と青くなりながら言った

「私が案内します!こっちに付いて来てください」

ラウルが声を上げ、騎士達は担架にアリアンを乗せた
ヴィルドルフは、後ろを振り返った

「リベール、ルドルフ、そっちは頼んだぞ!」

「わかりました兄上!早くアリアン王女を!」

「ああ、大丈夫だ!必ずアリーは助ける」

ラウルを先頭に、処置室に向かい走って行った




























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