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舞踏会場

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王宮には続々と馬車が乗り入れられていた

舞踏会場の大広間は、既に大勢の貴族が集まっている

大きなシャンデリアが幾つも天井から下がり、会場をより華やかにしている

大広間の正面には、王族が下りて来る階段が見える
階段の中央には、広い踊り場があり、そこに国王が立てば何処の位置からも国王の姿を見る事が出来る
その踊り場からは、王族席に繋がっている
下から数段上がったところには、四大公爵家の為の場所が設けられている


王家主催の夜会が開かれる事は滅多になく、皆、王家の祝い事がある事を暗黙のうちに理解していた


宮廷舞踏会は、令嬢令息にとっては見合いの意味もあり、可能な限り有望な夫や妻を見付けようと目を光らせる貴重な出会いの場でもあった
その為、女性達は今日の夜会の為にあつらえた豪華なドレスで着飾り、誰よりも目を引こうと必死である

当主達にとっては、少しでも身分の高い上流階級と繋がりを作ろうと皆あちらこちらで挨拶を交わしている



会場には一人の令嬢が、父親のエスコートのもと到着した

「ほら!見て!ルドルフ様との婚約解消は本当だったのね!」

「ええ、やっぱり噂は本当でしたのね」

「父親にエスコートされてるものね!」

「ルドルフ様は、ご病気だったそうなのに、支えて差し上げなかったのかしら」

「あのナタリス様が、人の為に何かをしてあげるなんてしないわよ!」

「そうよねぇ。今まで自分の気に入らない令嬢をどれだけ苛めてきたことか‥」

「あの方は自分よりも身分の低い者は人として扱わないものね!」

「今もナタリス様から受けた心の傷が癒えずに、屋敷に籠ったままの令嬢が一人や二人じゃないそうよ!」

「まぁ、お可哀想に‥‥。ルドルフ様は、ご結婚されなくて良かったわね」

「ええ、そう思うわ。どれだけ彼女が恨まれているか、男性は知らない事ですものね」

「ご結婚されてたら、ルドルフ様の評判まで下がるところでしたわね」

「本当よねぇ」


令嬢達は、いつの時代も噂話が大好きだ
良い事も悪い事も、瞬く間に広がってしまう
女性が6人も集まっていれば、噂話に花が咲くのは世の常だ


「あなた達!」

ひっ‥‥‥この声は‥‥
恐る恐る振り返る
そこには、本人が立っていた


「下位貴族は噂話しか頭の使い道が無いようね!あなた達の様な身分の低い者は、もっと会場の後ろにでも下がっていなさいよ」

「も‥‥も‥申し訳ありません、ナタリス様」

「私より前に立たないで!目障りだわ」

「はい。申し訳ございません」

仲良し令嬢6人組は、慌てて会場の後ろの方に移動した


その姿に、父親は娘を心配する

「ナタリス、大丈夫か?人前に出るのは久しぶりだから、人目が気になるだろうが、気にする事は無いよ」

「ええ、お父様。大丈夫ですわ。あんな下位貴族の者達は眼中にもありませんから。ご心配なく。私に落ち度など無い事ですから」

「そうだよ。お前は何も悪くないのだから、堂々としていなさい」

「はい、お父様。もちろんですわ」


ナタリスが夜会に来た目的はただひとつ
あの離宮の女を探す為
あの女をルドルフ様と一緒にさせるわけにはいかない
人生を狂わせた女に対して、黙っているわけにはいかないのだ‥‥


大広間には、まだ王族は現れていない
会場の盛り上がりとは裏腹に、王族の控え室では今また、一悶着が起きていた



「ちょっと!ヴィルドルフ殿下は、どちらにいられるのかしら?私のエスコートをしてくれる筈なのに、どうなってるの?」

「そうよ!肝心の王太子が来てないんじゃ話にならないわ!」

ローズとシェルリーンの声は部屋の外まで響いていた


コンコン

ガチャ‥


扉を開けたのは、宰相の息子のルドルフだった


「あなた!王族でもないのに、この控え室に入らないでよ!出て行きなさい!」

ローズの癇癪は収まらない

「ヴィルドルフ殿下は少し遅くなりそうですので、私がローズ王女のエスコートをさせていただきたく思い参りました」

「何言ってるの?私は国王の血を引く第一王女よ!宰相の息子のエスコートなんて受けないわ。早く王太子殿下を連れて来なさいよ。それがあんたの仕事でしょ!」

「ですが、王太子殿下はまだ」

「うるさいわね!私の言う通りにさっさと呼びに行きなさいよ!いつまで待たせるつもりなのよ!」

ルドルフを怒鳴り付ける姿を、スペンサーは何も言わずにただ見ているだけだった‥‥

「ちょっと陛下!ヴィルドルフ王太子殿下は、何をなさっているのよ!ローズが困っているじゃないの。早く連れて来るように言い付けてくださいませ!」

王妃シェルリーンが王に向かって強い口調で言ったその時‥‥‥


ガチャ‥

また扉が開いた


全員が一瞬止まって扉の方を向く

そこには、見たこともない品の良い男性が一人立っていた


「あなた誰?」

ローズが開口一番睨み付けるように言った

「失礼。扉の外にまで声が響いていたもので、気になりまして」

男性はニッコリと笑顔を見せた

「あなた、ここが王族専用の控え室だと知らないの?」

「知っていますよ。だから開けたのです」

「あんたなんて知らないわ。早く出て行って」

「失礼、レディ。お初にお目に掛かります。私はアルンフォルト国、第二王子リベール・アルンフォルトと申します。王族のエスコートがご希望なら、兄の代わりに私がさせていただきますよ」

「まぁ!第二王子殿下でいらっしゃいましたのね!大変失礼致しました。お恥ずかしいところをお見せしてしまって、申し訳ございません」

「いえ、お気になさらず。兄は今忙しいようですので、私が務めさせていただくことをお許しください」

「ええ、リベール殿下にでしたらお願いしようかしら」

ローズは、急に人が変わったように笑顔で自分の手を差し出した

リベールは、作り笑顔を崩さないまま、その手を腕に絡めた



















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