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サマフォート公爵家

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会った日から三週間後、夜会の一週間前になった日
王太子ヴィルドルフがサマフォート公爵家にやって来る日である

朝から屋敷は異様な緊張感に包まれていた
私はレイとサリーと一緒に調理場の隅の方で野菜の皮むきをしていた

「朝からピリピリして何だか息が詰まるわね」

「ここ最近ずっとそうよ。あちらの客室や給仕のメイド達なんて顔がずっと引き攣ってるわよ」

「可哀想ね。私達はこの中だけだから気楽なものね」

私とレイとサリーは、平民なのでメイドの中でも下位で厨房内の洗い物をしたり、掃除をしたり、洗濯などの雑務を担当していた
公爵家のメイド達は身分によって仕事内容も分けられていた
私は下位なので屋敷の中を歩き回ることはない
そのおかげでリリアーナやエリナに会うこともない
仕事はきついが仲間達は皆優しく親切だ

「王太子が来られるのは昼過ぎだったかしらね?」

「菓子作りがバタバタ忙しそうにしてるからアフタヌーンティーの頃じゃない?」

「あー王太子に会ってみたいわぁ。きっと素敵なんでしょうね」

「そりゃあ大国アルンフォルトの王太子よ!きっと見たこともないほど格好良いんでしょうね」

「一目でいいから見たいわね」

「私達には無理な話よ」

「そうよね。でも、王子様と下働きのメイドの恋なんて夢があるじゃない?
庭にでも出て立ってようかしら!もしかしたら目に留まるかもしれないじゃない」

レイは手を止めその手を組むと「あー素敵」と何かを想像するようにニヤニヤと笑った

「もぅレイったらおとぎ話じゃあるまいし」

サリーはテキパキと仕事をしながら横目で呆れたようにレイを見た

「でもアリーなら王太子だって一目惚れよ!きっと」

「確かにアリーなら王子様も好きになっちゃうわね」

「そっそんな‥」

心臓がドクンと鳴る

「どうせ私は無理ですよー」

レイがぷくっと頬を膨らます

「レイは本当に可愛くてステキな人よ!」

私がレイに顔を近付けて言うと

「アリーったら何て可愛いのー。私が結婚したいわ」

「ちょっと、私のアリーを取らないで」

何故かレイとサリーの取り合いが始まってしまい厨房内の男性陣まで参戦しだす始末

「オレがアリーと結婚したい」

「オレの方がアリーを大切にする」

「オレの方が苦労はさせないよアリー」

話題がいつの間にか私に変わっている

「アリーは皆の人気者だなぁ」

「皆優しいですね。私を気遣ってくださるのですね」

きっと両親がいないと言っている一人ぼっちの私が寂しくならないように気遣ってくれてるのだ
ここの人達はなんて優しいのだろう



アリーは全く解ってないようだ
自分がどれだけ人を惹きつける魅力があるのか知らないでいる
こんなに疎い事は罪ではないのだろうか?とダンはいつも思うのである
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