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使用人の日常

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昨日ヴィルドルフ様に再会した私は興奮して眠れないまま朝を迎えた

まだ薄暗いうちから使用人達は働きだす
この屋敷に来るまでは知らなかった世界だ

私はお世話される側だったのだ
私はこの国ブルボマーナの第二王女、側妃の娘として育った
離宮に閉じ籠った生活とはいえ、使用人達がいてくれて生活の不自由はなかった
そんな私が今は使用人アリーとして洗濯をしているのだ

「アリー、洗濯も上手になったわね」

声を掛けてきたのはレイだ

「おはよう、レイ
あなたのおかげで一通りの仕事は覚えられたから一人で何でもできるわ」

「アリーは器用だから助かる」

「ありがとうございます」

「もう友達なんだからもっと気安くていいって」

「ふふっ、そうね。ごめんなさい」

ふふっとレイも笑った
私に初めて友達ができた
ここに来るまでは離宮に閉じ籠ってばかりで友達などいなかった
上流階級が通う学園にも第一王女のローズの嫌がらせで通うことは出来なかった
教育は離宮で受けていたが学園生活で友達と過ごすことは出来なかった
けれど、いつも側には侍女のサアラがいてくれた
サアラは8才年上で姉のような存在だった
いつも辛い時は守り慰めてくれる大切な侍女
今はどうしているかしら

「ねぇ、アリーは元は貴族の娘なんでしょ?それなのに、平民の下働きと同じ仕事をやるなんて大変よね。せめて他の貴族の使用人みたいに屋敷メイドなら良かったのにね」

「いいえ、今は没落してただの平民ですから下働きで十分です」

「ご両親は亡くなったんだって?」

「ええ、2人ともいません」

「そっか、私と同じだね。
まぁ私は元々平民だけど、両親がいない寂しさはわかるわ」

「レイのように強く生きていかなきゃだって思ってます」

「でもこんなに綺麗なアリーが使用人じゃ勿体ないよ。
どこぞのお姫様でもおかしくない美人なのにね」

ゴホッゴホッ
大丈夫?と背をさすられる

「ちょっと風邪気味で‥」
慌てて咳き込んでみる

「やだアリー無理しないでね。辛かったら言ってよ」

「ありがとう」

動揺してしまうなんて教育係のキャシーに怒られてしまうわね
淑女たるもの顔や態度に動揺を出してはいけないと何度も怒られたけれど、私にはやっぱり難しいようだ

「アリー?アリー?調理場の手伝いも頼む」

「はい、わかりました!」

今度は厨房から声が掛かる
私に出来るのは皮むきや洗い物くらいだ
私は平民の使用人なので調理は出来ない
使用人にも階級があるとは働いてみるまで知らなかった
ここは四大公爵家のひとつなので、貴族の娘の使用人も多い
貴族筆頭の公爵家のメイドをしていたとなれば、貴族の娘には良い縁談の話がくるという
それほどに四大公爵家の力は大きい

「もう皆んなアリーに会いたいだけで呼び出してるでしょ」

厨房に着くとサリーが皮むきをしながら男性陣を睨んでいる

「朝にアリーを見ると皆んな頑張れるんだ!そう焼くなよ!」

コックのダンが笑う

「焼いてないわよ。アリーがあちこち駆り出されてかわいそうなだけ」

「アリーは皆んなの目の保養なんだよ」

そう!そう!と声が揃っている

「まったくもう」

サリーは姉ように私を可愛がってくれている
王族から平民に落とされて唯一良かった事は、レイとサリーと友達になれた事だと思っている

「アリーあっちは大丈夫?」

「ええ、もうほとんど終わってるし、あとはレイがやってくれてるから」

「そう、なら良かった」
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