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学園祭編
学園祭2日目③
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AM10:00
Side 理事長
私は秘書と理事数名を伴い正門脇にある来賓用の駐車場にいる。今日の来賓はアメリカの企業のCEO。今度日本にスクールを作るとかでこの学園の視察に来る。
時間通りに黒のロールスロイスが駐車場に入って来て私の前で停まり、運転手が後部ドアを開けると夏に見たαが降りてくる。
前と違い輝く金髪を撫でつけ逞しい肉体をスーツで包み柔らかな笑顔で手を差し出してくる。
「お久しぶりですMrスガワラ。今日は宜しくお願いします」
流暢な日本語で挨拶する耳触りの良い声と顔面の破壊力で一瞬止まってしまう。
「Mrスガワラ?」
ああ……綺麗な顔で首を傾げる姿もイイ……
「すみません、Mrイーストがあまりにも素敵で惚けてしましました。ようこそ、我が学園へ」
「ありがとう。……ここは緑が多くて素敵な所ですね」
がっしりと握手をすると辺りを見回し褒めの言葉を言う彼は、後ろに控える理事達も頬を染めるほどの笑顔を見せる。
はっきり言って緑しかない山の中でウンザリしているが、彼が気に入るならそれは僥倖だ。
「お気に召したのであれば幸いです。この前も話したように私の事は瑞希、と読んで下さい……ヨハン」
「……そうしたいのは山々ですが、今日は視察に来たので変に詮索されたらあなたが困るでしょう。なのでスガワラと呼ばせて下さい」
「……分かりました。ではプライベートでは呼んで下さいね。では行きましょうか」
困った顔で胸に手を当て軽くお辞儀をされ仕方なく引く。そんな真面目な所もイイ。
並びながら駐車場を出て正門から校舎の方へ歩いて行く。広く長い道だが学園祭で外部からの客で中々混み合っている。その中を悠然と歩くヨハンは周りからの視線をひとり占めだ。
「すみません、仕事を一つ忘れてました。少しだけメールを打っていいですか?」
そう言うと脇に寄り、さっと取り出したスマホを滑らかな手つきで操作していく。それは1~2分で終わり、再度歩き始める。
「早かったですね」
「大事だけどちょっとした事だったので」
にっこり微笑むヨハンに周囲から黄色い声が上がる。おい、お前達に微笑んでないからな。私だけに向けた笑顔だぞ、羨ましいだろう。
そんな優越感を顔に出さないよう引き締めヨハンの隣を歩きながら微量なフェロモンを出す。ゆっくりとじんわり私が染み込むように。
◇◇◇◇◇
AM10:10
Side 愛加
「おっ、ヨハンからメールがきた」
ヨハンは公にしていないけどあげは姉ぇの婚約者だ。今日うちの学園に視察に来るって言ってたな。
「なになに……ブフォ!『理事長臭い、ムリ』だってwww」
何ヨハン笑わせてくれてんの⁉今一緒にいるのにメール打つくらい臭いん?
机に突っ伏しひーひー言っているオレの携帯に宏太が目を通す。
「ヨハン大変だな。あの人Ωフェロモン苦手でしょ?結構辛いんじゃない?」
そうだった!ヨハンってば昔フェロモンにあてられまくって気持ち悪くなるようになってるんだっけ。
「これあげは姉ぇが知ったら殴り込みに行っちゃうかな?」
「さすがに今はしないと思うけど。でも機嫌は余計悪くなるかもね。だから愛加にメールしてきたんじゃない?」
デスヨネー。さっきチカからLINEで「あげはさんがレポート読んで威圧してスタッフ死屍累々」ってきたもんね。そこに追加爆撃はさすがに出来ない。チカとスタッフの命が危ない。
「とりあえずヨハンが頑張れるように祈っておくか」
そう言うと手を握り合わせ、ヨハンがこれ以上理事長のフェロモンにあてられ気持ち悪くならないように祈り始めると、相沢さん達も訳が分からないのに同じ様に祈り始める。
うん、皆んなヒマだったんだなー。
◇◇◇◇◇
AM10:35
Side 風紀委員会室にて
「香苗様、実行委員の部屋を警備している風紀から問題なしと連絡がありました」
「ご苦労」
淡々と書類に目を通していた顔を上げ、眼鏡を外し目の間を揉む吉永にあげはから差し入れられたお茶のペットボトルを脇に置く。
「昨日はお疲れ様でした」
椿が言う"昨日"という言葉の意味を理解し、吉永は深くため息を吐く。
確かに昨日は色んな事が起こり過ぎた。弁当の発情促進剤から始まり実行委員である生徒の促進剤からの発情期、菅原の会長である帝に向けてのヒートテロ。それらの収拾、情報統制は一応全て風紀が行ったのだ。いや、風紀の人数が足りなくて八重樫に頼み空手部を臨時で借り受けやっと回ったといってもいい。
「ここにきて風紀の人数に悩まされるとは……」
「仕方ありません、今年は特別な年ですから。でもそれも今日で終わりです」
「そうだな。三家に任せよう。元々我々は"影"だ、邪魔立てするものを事前に排除するのみ。風紀と散らばっている者に徹底しろ」
「御意」
恭しく礼をするとマイク付きのイヤホンを耳に装着し、椿は指示を飛ばす。
「こちら椿、生徒会の催し物を邪魔しようとする者は即刻確保、フェロモン対策に配られた抑制剤を必ず飲んで行動する事、何か怪しい動きがあれば報告を。昨日の事がある、気を抜くな」
Side 理事長
私は秘書と理事数名を伴い正門脇にある来賓用の駐車場にいる。今日の来賓はアメリカの企業のCEO。今度日本にスクールを作るとかでこの学園の視察に来る。
時間通りに黒のロールスロイスが駐車場に入って来て私の前で停まり、運転手が後部ドアを開けると夏に見たαが降りてくる。
前と違い輝く金髪を撫でつけ逞しい肉体をスーツで包み柔らかな笑顔で手を差し出してくる。
「お久しぶりですMrスガワラ。今日は宜しくお願いします」
流暢な日本語で挨拶する耳触りの良い声と顔面の破壊力で一瞬止まってしまう。
「Mrスガワラ?」
ああ……綺麗な顔で首を傾げる姿もイイ……
「すみません、Mrイーストがあまりにも素敵で惚けてしましました。ようこそ、我が学園へ」
「ありがとう。……ここは緑が多くて素敵な所ですね」
がっしりと握手をすると辺りを見回し褒めの言葉を言う彼は、後ろに控える理事達も頬を染めるほどの笑顔を見せる。
はっきり言って緑しかない山の中でウンザリしているが、彼が気に入るならそれは僥倖だ。
「お気に召したのであれば幸いです。この前も話したように私の事は瑞希、と読んで下さい……ヨハン」
「……そうしたいのは山々ですが、今日は視察に来たので変に詮索されたらあなたが困るでしょう。なのでスガワラと呼ばせて下さい」
「……分かりました。ではプライベートでは呼んで下さいね。では行きましょうか」
困った顔で胸に手を当て軽くお辞儀をされ仕方なく引く。そんな真面目な所もイイ。
並びながら駐車場を出て正門から校舎の方へ歩いて行く。広く長い道だが学園祭で外部からの客で中々混み合っている。その中を悠然と歩くヨハンは周りからの視線をひとり占めだ。
「すみません、仕事を一つ忘れてました。少しだけメールを打っていいですか?」
そう言うと脇に寄り、さっと取り出したスマホを滑らかな手つきで操作していく。それは1~2分で終わり、再度歩き始める。
「早かったですね」
「大事だけどちょっとした事だったので」
にっこり微笑むヨハンに周囲から黄色い声が上がる。おい、お前達に微笑んでないからな。私だけに向けた笑顔だぞ、羨ましいだろう。
そんな優越感を顔に出さないよう引き締めヨハンの隣を歩きながら微量なフェロモンを出す。ゆっくりとじんわり私が染み込むように。
◇◇◇◇◇
AM10:10
Side 愛加
「おっ、ヨハンからメールがきた」
ヨハンは公にしていないけどあげは姉ぇの婚約者だ。今日うちの学園に視察に来るって言ってたな。
「なになに……ブフォ!『理事長臭い、ムリ』だってwww」
何ヨハン笑わせてくれてんの⁉今一緒にいるのにメール打つくらい臭いん?
机に突っ伏しひーひー言っているオレの携帯に宏太が目を通す。
「ヨハン大変だな。あの人Ωフェロモン苦手でしょ?結構辛いんじゃない?」
そうだった!ヨハンってば昔フェロモンにあてられまくって気持ち悪くなるようになってるんだっけ。
「これあげは姉ぇが知ったら殴り込みに行っちゃうかな?」
「さすがに今はしないと思うけど。でも機嫌は余計悪くなるかもね。だから愛加にメールしてきたんじゃない?」
デスヨネー。さっきチカからLINEで「あげはさんがレポート読んで威圧してスタッフ死屍累々」ってきたもんね。そこに追加爆撃はさすがに出来ない。チカとスタッフの命が危ない。
「とりあえずヨハンが頑張れるように祈っておくか」
そう言うと手を握り合わせ、ヨハンがこれ以上理事長のフェロモンにあてられ気持ち悪くならないように祈り始めると、相沢さん達も訳が分からないのに同じ様に祈り始める。
うん、皆んなヒマだったんだなー。
◇◇◇◇◇
AM10:35
Side 風紀委員会室にて
「香苗様、実行委員の部屋を警備している風紀から問題なしと連絡がありました」
「ご苦労」
淡々と書類に目を通していた顔を上げ、眼鏡を外し目の間を揉む吉永にあげはから差し入れられたお茶のペットボトルを脇に置く。
「昨日はお疲れ様でした」
椿が言う"昨日"という言葉の意味を理解し、吉永は深くため息を吐く。
確かに昨日は色んな事が起こり過ぎた。弁当の発情促進剤から始まり実行委員である生徒の促進剤からの発情期、菅原の会長である帝に向けてのヒートテロ。それらの収拾、情報統制は一応全て風紀が行ったのだ。いや、風紀の人数が足りなくて八重樫に頼み空手部を臨時で借り受けやっと回ったといってもいい。
「ここにきて風紀の人数に悩まされるとは……」
「仕方ありません、今年は特別な年ですから。でもそれも今日で終わりです」
「そうだな。三家に任せよう。元々我々は"影"だ、邪魔立てするものを事前に排除するのみ。風紀と散らばっている者に徹底しろ」
「御意」
恭しく礼をするとマイク付きのイヤホンを耳に装着し、椿は指示を飛ばす。
「こちら椿、生徒会の催し物を邪魔しようとする者は即刻確保、フェロモン対策に配られた抑制剤を必ず飲んで行動する事、何か怪しい動きがあれば報告を。昨日の事がある、気を抜くな」
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