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学園祭編

学園祭1日目④

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「ま…まあ……あげはさんの言った通りでしたね」

「だね……」

 腕を擦りながら言う一ノ蔵さんに同意する。あげは姉ぇが「理事長の甥ならやりかねない」と今回生徒会と風紀に弁当と飲み物を差し入れしてくれたんだよね。だからさっき一ノ蔵さんが配ったペットボトルはインペリアルあげは姉ぇからの差し入れだ。それ以外は学園祭の最中口にするなと厳命されている。

 まあ、いくら番っていて抑制剤を飲んでても口内摂取してしまえばどうしようもないからだ。特にαは発情ラットになってしまえば番じゃなくても襲う可能性があるからな。

「やっほー休憩終了したよー」

「お腹すいたー」

「「………ん?」」

 番の子を構い倒してきた双子が部屋の空気がおかしい事に気付く。実行委員が持って来たお弁当をジップロックに入れ赤い字で「食べるなキケン」と書いていた裕司が説明すると「やべーあいつ」「ボコッてくる?」なんてヤバいこと言って拳をにぎにぎし始めたからめっちゃ止めた。即戦闘態勢ってあの双子戦闘民族か?

「それより少し早いですがお昼にしましょう」

 オレ達が双子を止めるのを頑張っていた傍らで一ノ蔵さんが弁当を配っていた。冷静だな。

「「わーい」」

 余程お腹が空いていたのかあっさりと席に座り双子が弁当の蓋を開ける。切り替えが早いのは唖然としたけど助かった。オレ達も席に座り早めの昼食にする。普通の弁当より大きいと思っていたら懐石弁当だった。花の形の人参や蓮根と里芋の煮物、ブリの照焼、細切り大根のたらこ和え、ローストビーフ、海老しんじょ、こごみの天ぷら、松茸ご飯……学園祭の差し入れにしては豪華じゃね?

「うまーい」

「「夕凪」の懐石弁当ですか。豪勢ですね」

 皆んな口に合ったようで幸せそうに食べている。うん、美味しいよな。ここたまに撮影でケータリングするけどどれも美味しいんだよな。まあ、この前そこに高野豆腐にイチゴソースかけたの置いといてあげは姉ぇに追いかけられたけどな!その後佳兄ぃにお仕置きされたのは………思い出したくない。ブルリ

「……ところでお弁当なんですが、かなり余ってるんですよね」

 そう言われて見ると弁当が山積みになっている。ひーふーみー……30個くらいある。

「風紀に持って行ってないんじゃないの?」

「いえ、風紀分は椿さんが持って行かれました」

「えー、じゃあ何だろ?注文し過ぎたのかな?」

 あげは姉ぇが個数間違えたのか?あの人きっちりしてるから無さそうだけどなぁ。スタッフが注文したのかな?

「残してても仕方ないから食べたい人が食べればいいんじゃない?」

「「やった、食べる!」」

「俺も」

 言い切るより早く双子と裕司がいそいそと弁当を取る。おい裕司、3個も取って食べ切れるのか?食べ盛りだから大丈夫?まー若いわねぇ。

 さすがに全ては消費できないからと残りは風紀と廊下の入口にいる親衛隊に持って行くことに。風紀は体を使うだろうし、親衛隊は学園祭の時まで出入りする生徒をチェックしてくれてるから差し入れの差し入れだ。

 食べ終え双子が弁当を持って行っている間に午後の見回りの確認をしていく。実行委員がやれればいいんだけど、講堂や体育館での催し物の裏方をやったりするのでそこまで手が回らないらしい。まあ、見回りといっても風紀と違いパトロールではなくクラスや部活の催し物の不備が無いかの確認なので主に教室を巡回する。午前中は特にトラブルは無かったみたいだけど毎年何かしらはあるらしい。

「くれぐれも1人で行動するなよ。特にマナ」

「うえっ?」

 やだー、信用されてませんことよ奥様!体育館倉庫の事もあるし心配してるのも分かるから真面目に頷いておく。裕司が引っ付いているだろうし今回は大丈夫だろう。

「愛加様、おれが…むぐ……ついてるから…モグ…だいじょうぶれふよ」

 うおぉぉぉい、裕司お前まだ弁当食べてたんかい!腹壊すぞ!よくそんなちっこい(本人には言えない)体でそんなに入るな!

 1個目を食べた時の勢いのまま3個目に突入した裕司を呆れながら見ていると、チカの携帯が鳴る。普段この時間帯に鳴らない携帯が鳴るという事は大体が悪い知らせである。

「何だ。……分かった」

 誰から来たのか分からないけど相手に言われたんだろう、通話をスピーカーに切り換える。

「……聞こえるか?吉永だ。今実行委員から電話があって実行委員数人が発情期ヒートを起こしたらしい」

「「「ええっ⁉」」」

「連絡が来たばかりだから原因は不明だが、交代で休憩していたらΩの生徒が次々とヒートになってαの生徒も発情ラットを起こしかけているらしい」

 うわっ、ヤバいじゃん!実行委員が使っている部屋は確か中央棟の4階、2、3階が部活の催し物とかで使われていたハズ。バリケードで上がれないようにしてるけどフェロモンが下の階まで来てしまったら意味をなさない。

「既に椿やβの風紀を向かわせて保険医にも連絡済みだが人手が足りん。そこに八重樫の弟いるんだろ?そいつを寄越せ」

「ふぁ~い、いきま……むぐっ!」

「……何だ今の間抜けな声は」

 お前呑気に弁当食ってるから喉に詰まらせるんだぞ!しかも吉永さんの声がワントーン低くなったし!

「分かった、裕司を向かわせる」

「頼む」

 通話が切れたと同時に双子が慌てて戻って来る。どうやら風紀に弁当を持って行った時に連絡が来て聞いたようだ。

「まずいな……αが発情ラットを起こしかけてるならβじゃ押さえきれないかもしれん」

 そうなんだよな。ただでさえ力が強いαがラットを起こすと同じαでも押さえ込むのが大変らしい。

「俺が行こう。五月雨さみだれ兄妹、宏太、相沢もだ。一ノ蔵はΩのヒートにあてられるかもしれないからここで待機、マナもだ」

「いや、オレも行く」

「ダメだ。ラットのαは危険だ」

「分かってる!でも同じΩが急なヒートで苦しんでいるんだ!一緒に行く!」

 集団発情期ヒートなんて聞いた事がない。多分強制発情期ヒートだ、パニックを起こしてるかもしれない。それなのにαやβに触られるなんて辛いはずだ。ここは譲れない。

「……裕司、マナを守れ」

「まかふぇてくらさい」

 まだ食ってんのか!ほっぺパンパンにして敬礼すんな。

「行くぞ」

「「おー」」

 腕を振り回しながら駆け出す双子を追いかける。止めるんだ、戦いに行くんじゃないんだぞ。って聞かないか。

 さて、大変な事になったぞ。
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