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学園祭編

学園祭1日目②

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「末姫様八重樫裕司、兄の恭司の代わりに護衛に参りました!!」

 皆んなが注目する中、爽やかに言ってのけた瞬間皆んなの目がオレに集まる。やだ、ちょっと恥ずかしいんですけど⁉

「だーーーーーっ!!ユウおまえぇぇぇ!!」

 ダッシュして裕司をヘッドロックしこぶし旋毛つむじをぐりぐりする。

「お前目立ち過ぎなんだよ!」

「あでででででで末姫様すいません~!!」

「だから末姫言うな!」

 ぐりぐりぐりぐり

「ハゲるーあぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!!」

「愛加止めてあげて。ハゲの護衛なんて嫌でしょ?」

「宏太さん優しい!」

「いや、愛加に抱き込まれてるのが気に食わないだけだから」

「αの独占欲だった!」

 ぱっと放すと涙目になりながら旋毛を押さえている。目立ちすぎてざわざわと周りが騷ぎ出してしまった。

「実行委員、時間だから上がるね。ほら、こっち来い!」

「うん、ありがとね~」

 腕を掴み裏に連れて行く。調理担当が忙しく作業している後ろを抜け着替えスペースに裕司を押し込む。キョロキョロと見回している裕司を放っておいて宏太と一緒に学校の制服に着替えていく。

「お前派手に来すぎじゃないか?」

 ウィッグを取ってボサボサになった髪を手櫛で直しながらちょっと責めるように言う。

「あー……すみません。兄ちゃんに末姫様に護衛が付いてるのを分かるようにしろって言われたので」

 キョンちゃん先輩の指示って……「護衛は目立たず周囲に分かるように」の人なのに珍しい。

「今回兄ちゃんが護衛出来ないし、親衛隊もクラスや部活の出し物で手が回らないから俺がする事になったんですけどまだ中学生だし顔が知られてないからって……」

 オレが意外で驚いてるのが分かったのか頬を掻きながら経緯を話す。確かにオレと廊下を歩いてても中等部の制服を着てる裕司じゃ兄弟か知り合いを連れてると思われるな。

「だから腰に着けてるの?」

 そう宏太が指摘したのはホルダーに挿しているトンファー。制服に不釣り合いすぎる。

「はい、あ、でも来る時はリュックに入れてました!」

 持ってきた手段はどうでもいいんだが物騒だな。

「物騒とか思ってるでしょ!これ俺の相棒だから!これで末姫様に不埒な事をする輩を打ちのめすんですから!」

「お前はエスパーか。あと学校では名前で呼べ」

「はい!愛加様!」

「様付けぇ……」

 そういえば小さい頃から様付けだったと脱力する。何度様を取れって言っても「愛加様は愛加様です!キリッ」と言われて諦めてたの忘れてたわ。

 そんな裕司はワンコ系男子。イメージは柴犬だ。身長も170cmと八重樫家にしては小柄で、パワータイプのキョンちゃん先輩と違い体格を活かしたスピードタイプ。笑顔で相手を容赦なく打ちのめす姿には引くよね。

学園ここでは狂戦士バーサク状態になるなよ」

「はい!保証しません!」

「潔いな!」

 不安だ。不安すぎる。小さい頃はてちてちオレの後ろを付いて来て可愛かったのに。どうしてこう育った?

 クスクスと笑う宏太が「その時は宜しく」とか言うもんだから「お任せ下さい!キリッ」ってしてんだけど⁉ヤメロクダサイ。

 元の制服に着替え終わり腕に「生徒会」の腕章を付け裕司を伴い生徒会室へ向かう。
 腕章は普段付けないんだけど外部から来たお客さんにアピールする為に付ける事になっている。要は学園の顔って事だな。

「護衛はありがたいけど学園祭を見て回ったりしなくていいのか?」

 すれ違う中等部の制服を着た生徒見て裕司に問う。
 学園祭の1日目は一宮~四宮中の生徒と保護者のみに開放している。それはここともう一つの高等部どちらに進学するか見学する意味合いも持っていて、毎年かなりの生徒と保護者が学園祭に来る。大体は在校生の家柄を見て自分達に利がある方を選ぶんだけど今この学園には帝家や吉永家、姫川家うちのような大きな家の子息子女が在席していて、さらに系列の家が多数いるから繋がりを求めてどんな所か見学しようと学園祭に来る人数がいつもより増えるだろうと予想が立てられていて、風紀が警備に力を入れている。
 それにどうやら2日目に理事長が賓客を案内するらしく、余計に風紀がピリピリしている。

 オレと宏太は既にチカが通っていたここに入ると決めていたので、去年来た時は何も考えず楽しんだけど迎える側は大変だと今回知ったよ。

「去年兄ちゃんに案内してもらって見たので大丈夫です!」

 キョンちゃん先輩の事だ、今回こうなる事を予測して去年案内したんだろうな。だったらここの事も色々叩き込まれていそうだ。

「そっか、じゃあ見回りの時に好きな食べ物買ってやるよ」

「わーい、ありがとうございます!」

 素直に喜ぶところは子供っぽいんだけどなぁ。
 何を買って貰おうか意識を飛ばしていた裕司がピクリと反応してサッとオレの前にトンファーを構える。目線の先にはチカと相沢さんがいて菅原と委員長も一緒にいる。見ていると菅原が何かを渡そうとしてチカが断っているみたいだ。

 断るチカ、渡そうとする菅原。何度もそれの繰り返しでしまいには押し付けて走って行ってしまった。それを慌てて追いかける委員長。ありがちな光景を見てしまった。
 ちょっと不快に思っていたら宏太に頭なでなでされた。うん、落ち着いた。もっとやってくれ。

「チカ!」

 振り返ったチカの顔は困っている顔だ。手には菅原から渡された紙袋がある。

「押し付けられた」

 まあ見てたから知ってるけど番としては気分は良くない。

「さっきの人、凄く嫌な匂いがしました」

 むむっと不機嫌な顔をしていると裕司が顔を顰めて言う。
 裕司は物凄く鼻が利く。βだけどαやΩのフェロモンを嗅ぎ分ける事が出来るんだよな。本当ワンコだよ。

「これ食べない方がいいですよ。弱いですが発情促進剤が入ってます。それにこの紙袋、さっきのΩの匂いがべったり付いてます」

 紙袋を開いてくんくんと匂いを嗅いだ裕司が顔をのけ反らせて告げるのに皆んなで「うへぇ」という顔になる。

 生徒会やオレ達が渡される物を受け取らない理由がコレ。手作りだけではなく市販の物でも入れられている事がある。今回みたいに発情促進剤もそうだし唾液や指紋が付いている時もある。血液入りってのもあったなぁ。髪の毛や爪は最早ホラーだ。

 渡してきた本人に問いたい。

 好きで渡してんの?嫌がらせか?

 好きで渡してるなら人間性疑うわ。

「それ俺が鑑定に回しておきますね」

 そう言ってリュックから大きなジップロックを出して密封し、入れる。
おい、そんなでっかいジップロックどこに売ってんだ?
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