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入学編

チワワ軍団ボス南城ここは

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「南城やめろ」

 オレに飛びかかろうとしてキョンちゃん先輩にアイアンクローをされている人はやはり会長の親衛隊長らしい。
 170cmに満たない身長に華奢な体つき、大きな黒目で可愛い顔。おっとりとした見た目によらず沸点低いって怖い。

 会長に止められスンと無表情になり大人しくなったのが余計恐ろしいぞ。

「そこにいる1年の姫川と北大路は今日から俺の傍にいるから手出し無用だ。親衛隊の奴らに伝えておけ」

「帝様!!」

「反対意見は聞かん。まあ手を出そうにも、すぐ親衛隊の結成許可が出るから出すなら覚悟しておけ」

 鋭く見つめ威圧を込めた言葉に怯んだ南城さんが、オレ達にをひと睨みして乱暴に扉を閉めて生徒会室から出て行った。すれ違いざまに「覚えてろよ」の一言に顔が強張る。

 見た目チワワ系なのにキョワイ。

「すまないね、彼はちょっと行き過ぎたトコがあるんだ。気にしないでくれ。……北大路、姫川久しぶりだね。君たちが親衛隊結成か、まあ納得だね」

「お久しぶりです野田さん」

 宏太が挨拶をすると、眼鏡をクイッと持ち上げ口だけで笑うこの人は副会長の野田満也、二宮にのみやでも副会長をしていた人だ。腹黒なのに自分以外の腹黒を嫌う、同族嫌悪ってやつだ。

惟親これちかは知ってるから紹介は飛ばすけどそこのチャラいのが会計の相沢、そっちの双子っぽいのが五月雨さみだれ姉弟、書紀だ。でっかいのが庶務の柚木」

「ちーっす、チャラい相沢でっす。親衛隊は全員セフレ、ヨロ」

「ちょっと副会長、ぽいって何?紹介雑すぎない?」

「ホントだよねー。きちんと双子だよねぇ有喜ゆき

「ねー、登喜とき

「柚木だ」

 なんとも個性的なメンバーだ。俺様会長、腹黒副会長、チャラい会計、無邪気な双子書紀、無口な庶務。それにさっきの会長の親衛隊長……最近流行りのドラマでやってた王道学園っぽいなぁ。

「ねーねー、姫川くんってかいちょーのイイ人なの?」

「んえ?」

「だって食堂でかいちょーがあんなことするの見たことないしぃ」

 そういえば生徒会の人達はその場にいたんだけっけ。

「中等部の後輩だ。北大路が会長、姫川が副会長だった」

 だから気にするなと。それで納得しないだろと思ったら納得してた。チョロいな会計。

「でもかいちょー、そんなんじゃかいちょーんトコのチワワ軍団は納得しないじゃない?」

 どうやら会長の親衛隊はチワワ軍団って言われてるようだ。なんでも名家である帝家の伴侶になりたいΩと抱かれたいΩの集団で、華奢でちっこい生徒ばかりが揃っているらしい。
 その代表が親衛隊長の南城ここはなんですと。

 えー、Ωばっかりって大丈夫なのか?ヒートテロとかされそうで怖い。

「自分に合わせた特殊な抑制剤を飲んでるから大丈夫だ。勿論生徒会のαは皆んな対策を万全にしている」

 そうなんだとホッと胸を撫で下ろす。望まない番契約なんて不幸でしかないからな。

むしろ目の前で発情ヒート起こしたら蹴り上げてやればいいのよ♡」

「さすが有喜、最高か」

 蹴り上げるのはやめたげて!今オレの息子がキュッとなったわ!

「そもそもチワワばっかってかいちょーの趣味?」

 会計の相沢さんの質問に会長が露骨に顔をしかめる。

「趣味ではない。勝手に集まっただけだ」

「じゃあどんな子が好みなの?」

「…………」

 急におし黙った会長に気まずい雰囲気が流れる。それを打破するかのようにキョンちゃん先輩が咳払いをする。

「コホン、それよりこっちはこれから風紀に提出しに行かなきゃいけないんだ、挨拶だけさせてくれ」

「ああ、すみません。どうぞ」

「ん、ここにいる姫川の親衛隊を本日付けで結成させる。親衛隊長は俺、八重樫だ。彼はΩだから幹部はβとΩで揃えている。それと北大路の親衛隊も本日付けで結成する。隊長は鹿島、幹部はαとβ。そして2人の親衛隊は連携を取るのが決定している」

「そーなの?番?」

「まだ番ってないけどその予定です」

「そっかぁ、じゃあここちゃんもそこまで絡まないかもね」

「だねー」

 よかったよかったと言い合う双子にキョンちゃん先輩は顎を撫でながら唸る。

「そうだとありがたいがなぁ。でも帝、危害を加えるようなら(物理的に)容赦なく返り討ちにするぞ」

「ああ、そうしてくれ。寧ろそうしろ」

 GOサイン出しちゃうんだ。でもさっきのしかめっ面見ると自分の親衛隊を毛嫌いしてるっぽいよな。

「それじゃあこれから風紀に書類を出しに行くから失礼する」

「分かりました。そうそう惟親から聞いてますよね、北大路くんと姫川くんはそれが終わったら話があるのでまた生徒会室ここに来てくださいね」

「了解です!」

 しまった、つい中等部のノリで振り向きざまにウインクして敬礼してしまった。もう高校生だもんな、落ち着きある行動をしないと。

「……あーかわい。孕ませてぇ」

 どこからか不穏な音が聞こえたが中等部と一緒相変わらずなのでスルーしておく。

 次に向かった場所は風紀室。親衛隊の承認や管理は風紀委員会がやっているらしい。

「たのもー」

 道場破りの如くノックもせずに扉を開けたキョンちゃん先輩に注意が飛ぶ。

「八重樫先輩、ノックしてくださいと何度も言ってるんですけどね。いつになったら言う事を聞いてくれるんでしょうか」

「諦めろ椿。この人には何言っても聞かない」

「そーそー」

「シャラップ!」

 悪びれもしないキョンちゃん先輩に椿と言われた生徒は一喝する。ちょっとは申し訳ない顔をしてほしい。

 風紀室は生徒会室と違い、教室くらいの広さで机も長机にパイプ椅子といったごく普通の学校にある視聴覚室のような感じで1つだけ違う机は委員長用みたいだ。
その机に座している人は入学式で話していた女性だった。風紀委員長は厳つい男性のイメージだったから意外すぎて印象に残ってる。

 女子生徒なのに男子生徒と同じ制服で背筋がピンとしていて格好良い。立ち回る時スカートだと不便だからかな?髪を1つに束ねていて男装の麗人のようだ。

「親衛隊結成の書類を提出しに来た。本日付けで承認してくれ」

「この間話していた2人ですね。食堂の騒動もありましたから即、承認しましょう」

 受け取った書類を捲りながら不備を確認し、承認の判子を委員長の吉永さんが押していく。捺印された書類をファイルに入れる。

「承認が完了しました。只今から正式に親衛隊としての権限の発動を認めます。明朝には寮と校舎の入口にある掲示板に親衛隊結成の紙が貼り出されますから確認ください」

「ありがとうございます」

 次晴さんがお礼を言うとそれまで黙っていた吉永さんがオレと宏太に向けて話し出す。

「お前達は運がいい。2人が入学前から親衛隊結成の準備をしていたから早く対応ができた。これが入学してからだと結成に1週間かかる。それまでは無防備で悪意にさらされるからな、なあ椿」

「そうですね、風紀としても助かります」

 そう言って頷く風紀副委員長の椿さんは何かあったらご連絡を、と名刺をくれた。そこに書かれているIDを登録して連絡すると風紀が即対応してくれるらしい。

 風紀室を出てキョンちゃん先輩と次晴さんにお礼を言い生徒会室に戻る。

「ああ、来ましたか」

 書類を整理しながら野田さんが口を開く。

「2人共生徒会役員の補助をしませんか?」

「へあっ?」

 やべ、変な声出ちゃったよ。
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