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入学編
姫と王子
しおりを挟む「おっ、姫、王子おはー」
「おーう」
「おはよう」
教室に入ると朝からテンションが高い井上が声をかけると教室にいる同級生の視線が一気に集中する。入学当初は戸惑ったけど馴れた。
視線が集中する先にいるのはオレら、姫川愛加と北大路宏太。あまり目立ちたくないんだけどなぁ。
目立ってしまったのは入学当日からだ。
◇◇◇◇◇
「二宮中出身、北大路宏太です」
宏太の自己紹介と同時に聞こえる女子の黄色い声と見た目を羨む男子の声。
だろうな、宏太は顔面偏差値バリ高の超絶イケメンだからな。でも中身はただの世話焼き少年だぞ。
こんなざわめきの中でも本人は涼しい顔をしている。いつもの事だし周りの評価を気にしないんだよね、アイツ。
「ちなみに姫川愛加は僕の運命なので」
そして爆弾発言である。
先ほどとは違う女子の黄色い悲鳴と誰だと騒ぐ男子の驚きの声。普段隠してないけどあからさまな牽制。ホントαって無駄に周りを威嚇するのな。
ざわつきが収まらない中、次々と自己紹介が進みオレの番になる。
「姫川愛加、二宮中出身」
「ウソだろ……」
「マジで⁉」
「初恋が一瞬で砕けたーーー!!」
男共の叫びが教室内に響き渡る。なんでや。何故オレの時はこうなる?確かにオレは女顔だが普通メンやぞ?あ、超絶イケメン・宏太の運命が普通のオレだからか?納得。しかし同中のヤツら面白がってニヤニヤしてやがる。後で覚えてろよ。
◇◇◇◇◇
ここは宮中学園、山の中腹に広大な敷地を有する全寮制の私立高校である。世の中には男女の性からα、β、Ω性に分かれ、6種の性差がある。ゆえに性が幼い頃に分かった時点でバース専門の学校へ行ったり、小6で受けるバース判定を基準に学校を決めたりする。この学園は一宮・二宮・三宮・四宮という4つある小等部から間違いが起きないように徹底管理されている為、世間では珍しい全てのバースを受け入れている学園だ。ただし、高等部は小中等部と違い政府の補助が出ない為、格段に授業料と設備費が高く、必然的に良い家庭の子息子女が集まっている。
オレ、姫川愛加と北大路宏太は4つある小中等部の1つ二宮出身で家も隣同士、幼稚園からの幼なじみで運命だ。
宏太は多数の病院を束ねる巨大総合病院の息子でふんわりとした茶色いクセ毛、優しそうな目元の超絶イケメン。身長だって185cmの細マッチョだ。勿論αで文武両道ときている。
オレの家は世界的有名なファッションブランドの創始者一族で家族は全員そのブランドに携わっている。両親と姉はαだけど兄とオレはΩで宏太の姉(α)と兄は番っている。宏太曰く「あそこほど需要と供給がマッチしているカップルはいない」らしい。
◇◇◇◇◇
朝のHLが終わり各クラス毎に講堂へ向かう。各学年1クラス30人の9クラス。4つの中等部から60人前後入学し、30人はスポーツ推薦や外部受験生になっている。クラスの内訳はスポーツ推薦生や外部進学生が孤立しないように1年の時だけ内部進学と言われる4つ中等部と一緒に均等に振り分けされている。
「なあなあ、姫川と北大路はもう番ったの?」
「まだだけど?」
講堂へ向かう途中の廊下でデリケートな話題を振ってくる馴れ馴れしい奴をジロリと睨みながら答える。睨まれても気にしないコイツは井上というらしい。
中等部が4つに分かれているといってもこの学園へ来る奴らは親の仕事で繋がっている事が多く、結構顔見知りだったりするが井上は知らないなぁと思っていたら三宮中出身で鉄鋼会社の息子だった。うん、さすがに仕事の接点か無いから知らなかったわ。
「ちょっと愛加にあんまり馴れ馴れしくしないでくれる?」
はい、過保護が服を着て歩いていると定評のある宏太が来ましたよっと。他からもお願いされているから余計過保護なんだよね。
「メンゴメンゴ。でも番ってないなら気をつけろよ~。優良物件なら運命がいても気にしないって名家のヤツら結構いるからな」
「…中学で経験済み」
「やっぱりー?そういうの聞くと俺βで良かったって思うよ」
βと聞いて警戒を解く宏太に「わーお、あからさま~♡」とケラケラ笑う井上はさっぱりした性格のようだ。
「まあ大丈夫じゃね?オレみたいに普通のΩに寄って来るヤツなんてバースじゃなく家柄に寄って来るんだよ」
「「…………」」
「おん?」
「北大路大丈夫かアイツ」
「……お願いだから単独行動するなよ」
指で丸をつくり分かってると意思表示をしていると講堂へ着き、出席番号順に椅子に座る。周りを見渡すとα然としているヤツ、平々凡々しているヤツ、ネックガードをしているヤツ色々だ。何か中学の時よりもバースがはっきり分かる気がする。
ぼーっと周りを見渡しているとざわざわと騒がしくなる。周りから「あれが会長様…」「相変わらず素敵」「抱いてほしい」「番にして」など男女共に黄色い声が聞こえてくる。ああ、中等部でもそうだった。理事長や校長の挨拶が終わった合図。花が溢れている壇上を見上げると1人の生徒が1年生に向け話ている。
生徒会長だ。
中等部高等部の生徒会は名家の子息子女で固められており、成績優秀、容姿端麗の者から選ばれる生徒憧れの集団である。その中で特に人気があるのが壇上にいる人物、帝惟親だ。艷やかな黒髪に意思の強さが見える瞳、彫りが深めでワイルド感があるが薄い唇の左下にある黒子が色気をプラスしている。背も高く制服の上からもしっかりと筋肉が付いているのが分かる。さすが万年「抱かれたい男」NO.1である。
宏太とは違う系統の超絶イケメンは声もイケメンなんだなぁと壇上を見ているとバッチリ目が合っていた。というか壇上に上がってからずっと見てた?気まずくてへらりと笑うと気づくのが遅いと言わんばかりに目を細め口端を上げる。途端、オレの周囲が悲鳴に似た歓声が上がる。「帝様がこちらに向かって笑われたわ!」「私に微笑んでくださったのねっ」「いいえ、私によ!」「素敵、帝様抱いてくださいっ!」と五月蝿い。あまりの五月蝿さに耳を塞ぐ。
「五月蝿い、黙れ」
壇上から放たれた低い声とα特有の威圧に一瞬で講堂全体が静かになる。さすが会長。
「お前ら入学式くらい静かにできないのか。ここは宮中学園高等部、名家や名だたる企業の子息子女が集まる場所。言わば社会の縮図を模す場だ。己の行動が身内に影響があると思え。中等部のように緩いと思うな」
良く通る凛とした声に騒いでいた生徒の顔が強張る。きっと中等部の卒業時に言われた注意と親から言われた事を思い出したんだろう。特にオレらの学年前後は名家や企業の御曹司が集中しているのは有名な話だ。
「以上だ。学園生活の詳しい注意点は風紀委員長の吉永から聞け」
1年生全体を一瞥し壇上を降りる生徒会長。相変わらず現実をピシャリと突き付ける様は中等部の時と変わらない。会長はそのまま他の生徒会役員と一緒に講堂を出て行くがもう騒ぐ生徒はいない。
「あー、風紀委員長の吉永だ。これから学園生活における必要事項を………」
◇◇◇◇◇
「ひゃー、生徒会長怖ぇ」
「ん?中等部でもあんな感じだったぞ。懐かしかった」
身震いする井上にこてりと首を傾げ一昨年も中等部で同じ事があったよと教える。
「うわー、三宮とは違うなぁ。三宮は地味だったよ生徒会」
「へぇ、中等部が違うと変わるもんなんだな。二宮は華やかな役員が多かったな」
「何か分かるわ。北大路と姫川は生徒会だったろ?」
「何で分かった?」
「顔が派手だから」
「なんでやねん」
つい関西弁で突っ込んでしまった。
「愛加は派手じゃないよ、清楚系だから」
「頭の上にチュッチュすんな」
後ろから腰を抱き寄せ10cmほど低いオレの頭にキスをするのヤメレ。オレΩにしてはデカイから目立つんだよ。
「王子が高等部になっても通常運転でウケる」
「姫の事好きすぎでしょ」
「王子?姫?」
「そっ、北大路と姫川だから王子と姫。見た目もなー」
「なー」
「何それ似合いすぎる…」
この時の同中だった貴島と白畑の発言が次の日には学年全体に広まっていると誰が思っただろう。
オレと宏太以外皆んな思ってたとさ!
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