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本編

姉兄も過保護

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 会長に顔バレしたっぽい俺だがその後智也が心配するようなことも無く、殆ど平和に過ごせていた1ヶ月。たまたま会うと話しかけられはしないけど、チラチラ見られるのはうん、仕方ない。
 時たま知らない生徒に嫌味を言われたりするくらいで騒がしくない生活を送っていた。

 むしろ智也の方が騒がしかった。下駄箱にラブレターが入っていたり、部活で黄色い声援が送られたりここ男子校だよね?って確認してしまうほどだ。部長の奏さんがここは男同士の恋愛が多い学校だって言ってたけど、どノーマルな智也は恋愛のあれこれを向けられても完全スルーだった。
 しかし俺といつも一緒にいることで付き合っていると勘違いされてしまっている。だから見た目陰キャの俺なら勝てると余計に頑張っているのではないかと推測している。

 そんな折に智也から告げられたのは今週の土曜に俺の姉と兄が遊びに来るという話だった。

「え?何で来んの?」

「それはゴールデンウィークに空手の大会で帰らなかったからじゃない?」

「つーか、何で智也の方に連絡してんのさ」

「それはお前が返信しないからだろ」

 だって毎日2人からどうでもいいメールが来るんだよ。しかも一日何通も。だから毎回返さず一日一回返信してるんだけどそれが不満らしい。来る度に返信するほど俺はヒマじゃないっつーの!
 まあ心配してくれてるのは分かってる。なんせここに入学するのを一番渋っていたのはこの2人だからな。

「来るのいいけど顔バレしないように変装してって言っといて」

「もちろん」

 あの2人派手だからなー。待ち合わせどこにするんだろ?ふもとの駅かなー?久しぶりだから美味しいの奢ってもらおう。


 ◇◇◇◇◇


「げっ、マジで⁉」

 寮の部屋に設置してある電話から内線で家族が来ていると連絡があり、急いで智也と下に降りると談話室の隣にある家族面会用の部屋の前に人だかりができていて、開いているドアの中から久しぶりに見る2人が見えた。

「姉さん!兄さん!」

「「志摩!」」

 人集りをかき分け部屋に入ると、2人にぎゅうぎゅうと抱きしめられ苦しくなる。その前に智也がドアを閉めたからこの光景は見られてないはずだけど、この年での抱擁は恥ずかしい。

「ぐるじぃ~」

「あっ、ごめんね」

 パッと離れてくれたが、それでも俺を囲うようにしている。
 そんな2人は注文していたように変装を……変装?

「ねえ、それで変装?」

「どう?志摩とおそろーい♡」

 アホか?アホなんだな。オシャレな服を着ているスタイル抜群な男女が俺と同じようなカツラを被り同じメガネをかけている。そりゃ目立って人集りもできるってもんだ。

「変装って言うからぁ、水樹と話してお揃いにしたのぉ」

姉弟きょうだいでオソロっていいじゃんね。ね、智也」

「えっ、はぁ…」

「ええぃ、智也に振るなぁ!つーか、カツラは取れぇぇぇ!」

「「ああっ!」」

 自分より背の高い2人にぴょんとジャンプしてカツラを剥ぎ取るとミルクティ色のサラサラなロングヘアとシルバーのツーブロックヘアが出てくる。

「変装が怪しすぎて目立ってる!メガネだけにして!」

 メガネだけだと美貌が隠せていない2人だけどあのカツラはダメだ。しかし同じなはずなのに俺は陰キャとして馴染んでいる。グッジョブ俺。

「あーん、お揃いだったのにぃ」

 ぶーぶー言う姉・はなとにこにこしている兄・水樹は4つ上の双子の姉兄でかなり有名なインフルエンサーだ。だからこそ変装しろと言ったのに。いくら山奥の学校とはいえ顔バレしそうだからな。

「何でここまで入り込んだんだよ」

「えー、志摩の学校が見たかったんだもん」

 口を尖らせながら姉さんが俺を椅子に座らせ髪をいじる。兄さんは智也の髪を弄っている。

「あー久しぶりの志摩の髪ぃ。こんなもっさりおさらばじゃ~」

 俺の陰キャヘアに何てことを言うんだ!と抗議をする俺をスルーしながら左側を編み込んでいく。その間に渡されたカラコンをつける。

「これでいつもの志摩だぁ」

「パパとママに送らないと。あと千尋母と洋二父にも」

 兄さんに髪をセットされた智也と一緒に2人が鬼のようにスマホで写真を撮っていく。知ってるか?あれ全部親に送られるんだぜ。
 因みに兄さんが言った千尋母と洋二父は智也の両親のことだ。

 智也と遠い目をしながら2人が満足するまで撮ったらやっと外出である。俺はメガネをかけパーカーのフードを目深に被り部屋を出る。時間も経ってたのもあって部屋の前の人集りも無くなっていて、そそくさと管理人さんに挨拶をし寮を出る。

「そういえば2人の車って2シーターじゃないっけ?」

「パパの借りてきたから大丈夫だよぉ」

 車に乗り込むとメガネとフードを取る。目的地を聞くと2つほど隣の市に行くらしくホッとする。うん、それくらいなら同じ学校の奴もいないだろう。

 今回2人が来たのは俺の様子見とインスタの企業案件らしい。

 目的地に着き撮影をしているとちらほらと人が集まってくる。地方とはいえ都心に近いからかそれなりに有名な2人だし歩いていればすぐ声をかけられる。2人は好き勝手きゃいきゃいしているが、撮影係の智也がいるから誰も近寄って来ない。

「ほらシーマおいでよぉ」

 ちょいちょいと姉さんに呼ばれちょこちょこと2人のトコへ行く。こうやって時たま2人のSNSに顔を出すのだが、そうすると爆発的にイイネが増えるらしく、ホクホクしているがこちらは迷惑である。
 今日はちょっとした嫌がらせに黒いつなぎで地味に来てやったのに何もこたえてねぇし。

 そして何の企業案件か分からないまま撮影が終わり、後にCMで撮影の一部が使われていたことをテレビで流れてきたので知り、智也と一緒に飲み物を吹くことになる。
 もちろん速攻2人に抗議の電話をした。

 撮影したその日は近くのホテルに泊まり、次の日ゆっくりと観光しながら夕方前に学校の校門脇にある停車場まで送ってもらう。

「じゃ」

「たまに帰ってきてよぉ。呼んだら迎えに来るしぃ」

「智也、志摩のことよろしく」

「はい、もちろん」

 名残惜しそうにする2人に別れを告げ寮生が通る校門の通用口に歩き出すと背後から姉さんの「志摩メガネ忘るてるよぉ」という声で自分がメガネをかけていないことを思い出す。

「いけねっ、メガネメガネ」

 車まで走って助手席の姉さんからメガネを受け取っていると、かなりのスピードで走ってきた黒塗りの車がうちの車の後ろに停車すると凄い勢いでドアが開き、これまた凄い勢いで飛び出してくる人物に驚く。

「お前その顔、荒木志摩だな!」

「ぎゃー会長!!」

 叫ぶ俺を急いで走ってきた智也に抱き隠され、慌てて車を降りてきた姉さんと兄さんが会長の前に手を広げて立ちふさがる。

「そこのお前、今見たことは忘れなさい」

 いつもの間延びした話し方ではない姉さんの声が響く。その話し方は母親と同じだ。

「なにをっ……」

「志摩の安寧な生活を守るためだ。それが出来ないならこちらも考えがある」

 普段とは違う重い声色こわいろの兄さんの声も続く。

 智也に抱きしめられている俺からは見えないが一発触発の雰囲気が漂っている。

「何か穏やかじゃないな」

 コツリと車から降りてきたその人物は艶のあるバリトンボイスでその場を支配する。

「事情があるなら風紀で対応してやる。場所を移して話を聞かせろ」
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