花びらは掌に宿る

小夏 つきひ

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赤⑫

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「安西さん朝の芸能ニュース見ました?」
「あー見た見た。あの俳優でしょ?」
「それです!びっくりですよね、まさかあの人がするなんて」
「真面目そうなのに、人ってわからないよね」
安西と橋詰の会話がはっきりと聞こえる。
午前中、橋詰が指定のものと違う書類を大量にコピーした事を叱った。橋詰は俯いて謝っていたが、こうして休憩時間になればあっけらかんとテレビの話題で盛り上がっている。表面上の反省に過ぎなかったのだとわかり苛立ちを募らせた。
「最近不倫のニュース多いね」
「ほんと多いですよね。不倫って誰が一番悪いと思いますか?」
「うーん、男も悪いと思うけど、結婚してるってわかってるのに相手する女のほうが悪いと思うな。だって誘いに乗らなかったらそもそも始まらなかった話でしょ」
「そうですね~。結婚してるってわかっててするんですもんね」
「私も気をつけないと」
「え、安西さん…」
「逆だよ、幸人もいつかそうなるかもしれないと思って」
「柳瀬さんは不倫なんてしないですよ。安西さんのこと超好きじゃないですか」
「結婚前だから気持ちが盛り上がってるだけだと思うよ」
「そんなことないですよ」
トタン屋根に雨粒が落ちる音がする、雨音は段々と強くなっていく。室内に移動しようと鉢を持ち上げた、突然指先に痛みが走り思わず鉢を落とした。プラスチックの淵が割れていたのに気が付かず、鋭利になっている箇所で指を切ってしまった。指に赤い血が滲んでいく。
赤、私を奈落の底に突き落とした色――――――
「あ、雨降ってる音しませんか?」
「ほんとだ」
「窓閉めよーっと。…あれ、あそこに観葉植物なんてありましたっけ?」
「ん?」


手を洗おうとトイレに入った。水で血を洗い流し、痛みが染みるのを我慢した。傷が意外に深い。悔しさと怒りが入り混じり、涙で目の前が霞む。鏡に映る自分があまりに惨め過ぎる……
私がどんな思いでここまで来たのか、その気持ちが誰にわかるというのだろう。


帰宅してからも気力が落ちたままソファに座って宙を見ている。携帯電話は充電せず放置した。安西と橋詰の会話が頭から離れない。
柳瀬 幸仁、安西 沙織、結婚を控えているからといって本当に想い合っているというのか。傍から見れば幸せそうな人間でも、必ず裏はあるはずだ。不倫がどうこう偉そうに語るなら、そっちの絆がどれほどのものなのか試してやろう。
放置していた携帯電話に充電コードを挿し、弟の祐大にメールを打った。

あんたのパソコンで合成写真って作れる?

5分ほど経つと祐大から電話が掛かってきた。
「なんだよ急に」
「頼みたい事があるの」
「合成は出来るけど、なんの写真?」
「これから撮るの。あと、撮るのも協力して」
「俺、結構忙しいんだけど」
「ただでやってとは言わないわよ。ちゃんと代金払うから」
「代金?」
詳細は実家に帰った時に言うと伝えると祐大は小さく返事をした。

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