60 / 95
疑惑
疑惑22
しおりを挟む
あの男とは切れたとわかった俺は開放的な気分になっていた。翌日の休みは久しぶりに1人遠出のドライブをした。行った先の風景をカメラに納めるのが趣味だ、でもカメラを構える気にはなれなかった。
その帰り、あゆみさんから頼まれた封筒をメールの住所へ投函しに行った。ポストには名前が書かれていない、マンション名と部屋番号をもう一度確かめてから投函した。封筒は中身が入っているのかと思うほど軽く、重要なものが入っているとは思えなかった。
このところあゆみさんから誘われる事が増えた。会ってもほとんどはドライブだ。でも、会話なくただただ夜の景色を見ながら車を走らせる静かな時間が結構好きだ。あゆみさんが少しでも俺といる時間を必要としてくれているならそれだけで嬉しい。
道端智香から再び合コンに誘われたのは7月に入ってからだった。前に断ってから大人しくなったと思っていたが諦めていなかったようだ。
「長谷川先輩、出会いの夏ですよ!これから海とかたくさんイベントあるんだし楽しまないと!」
目を輝かせて迫る様子に負けて合コンを組むのを約束した。
「嬉しい~!高校の時の同級生も連れてくので仲良くしてあげてくださいね」
「同級生?」
「はい。ところで先輩、今日こそランチ一緒にどうですか?」
「ああ…」
生半可に返事をして昼食を共にすることになった。
道端はこれまでに相談したいことがあると何度か言ってきた、でも結局悩みを打ち明けられる事はなく、合コンの店をどこにしようだとか今度連れて来る同級生との思い出なんかを語っていた。その同級生はハシヅメ ユウカという名で今年の4月、長野に引っ越してきたらしい。今度の合コンがきっかけで彼氏ができれば新しい環境でも楽しくやっていけるんじゃないかと道端智は言っているが、私って思いやりのある親友でしょ?というアピールをしているように見えた。
その2週間後に合コンをした。道端の同級生、ハシヅメ ユウカは話してみると想像していたよりもさっぱりとした性格で、ただの付き合いで参加した俺にとっていい話し相手になった。道端が他の男と盛り上がってはこちらをチラチラ見たり体を妙にくっつけてくる事で目的がわかった。俺はハシヅメ ユウカに興味があると見せかけるため、帰りに携帯番号を目の前で聞いた。これで道端も諦めるだろう、合コンはいい機会だったかもしれないと思った。
あゆみさんとの進展を望んだ俺は、ドライブ以外にも何かしようと言って映画に誘った。約束した日は近くで花火大会が予定されていた。花火を一緒に見るという望みもあったけど人混みを嫌うあゆみさんが行くとは思えなかった、それで映画にした。
仕事帰りに車でいつもの駅前へ向かい、ロータリーに車を止めてあゆみさんが来るのを待っていた。メールを受信して確認するとあゆみさんからだった。急用が出来たから映画に行けないと断られた。残念だが仕方ないと受け止めて車を出そうとしたその時、外に見覚えのある顔を見つけてそれが誰なのかを思い出した。ハシヅメ ユウカだ。
「ユッカちゃん!」
窓を開けて声を掛けるとハシヅメ ユウカは振り向いた。あゆみさんとの予定がなくなった俺は空虚を埋めるためハシヅメ ユウカを誘った。そしたら花火を見に行くことになった。花火を見ている間、あゆみさんを想った。以前に比べと順調なはずなのに、俺があゆみさんの心を捉えられる日はこの先いつまでも来ないのではないかという気がした。傍にいることは出来ても、あゆみさんが宙を見る先にはいつも俺ではない誰かがいる、そんなふうに思うからだ。それが誰かというのは明白だ。
ハシヅメ ユウカとはその後もあの駅で何度か出会った。彼女は次第に俺の心の隙間を埋めていった、でもそれは恋愛感情ではなかった。あゆみさんとの思い出を話す事で不安を紛らわしたこともあった。そんなある日、彼女を家に送り届けた後、暫くしてから車内に鍵が落ちているのを見つけた。翌朝、職場へ鍵を届けに行くと彼女の後ろにはあゆみさんが立っていた。2人は同じ職場に勤めているとわかった、こんな偶然があるのかと驚いた。後日、あゆみさんがまた写真を撮るよう言ってきた。何故その対象がハシヅメ ユウカになったのかわからない。以前も増して癇癪を起こすようになったあゆみさんを止められず、俺は再び覚悟を決めた。
その帰り、あゆみさんから頼まれた封筒をメールの住所へ投函しに行った。ポストには名前が書かれていない、マンション名と部屋番号をもう一度確かめてから投函した。封筒は中身が入っているのかと思うほど軽く、重要なものが入っているとは思えなかった。
このところあゆみさんから誘われる事が増えた。会ってもほとんどはドライブだ。でも、会話なくただただ夜の景色を見ながら車を走らせる静かな時間が結構好きだ。あゆみさんが少しでも俺といる時間を必要としてくれているならそれだけで嬉しい。
道端智香から再び合コンに誘われたのは7月に入ってからだった。前に断ってから大人しくなったと思っていたが諦めていなかったようだ。
「長谷川先輩、出会いの夏ですよ!これから海とかたくさんイベントあるんだし楽しまないと!」
目を輝かせて迫る様子に負けて合コンを組むのを約束した。
「嬉しい~!高校の時の同級生も連れてくので仲良くしてあげてくださいね」
「同級生?」
「はい。ところで先輩、今日こそランチ一緒にどうですか?」
「ああ…」
生半可に返事をして昼食を共にすることになった。
道端はこれまでに相談したいことがあると何度か言ってきた、でも結局悩みを打ち明けられる事はなく、合コンの店をどこにしようだとか今度連れて来る同級生との思い出なんかを語っていた。その同級生はハシヅメ ユウカという名で今年の4月、長野に引っ越してきたらしい。今度の合コンがきっかけで彼氏ができれば新しい環境でも楽しくやっていけるんじゃないかと道端智は言っているが、私って思いやりのある親友でしょ?というアピールをしているように見えた。
その2週間後に合コンをした。道端の同級生、ハシヅメ ユウカは話してみると想像していたよりもさっぱりとした性格で、ただの付き合いで参加した俺にとっていい話し相手になった。道端が他の男と盛り上がってはこちらをチラチラ見たり体を妙にくっつけてくる事で目的がわかった。俺はハシヅメ ユウカに興味があると見せかけるため、帰りに携帯番号を目の前で聞いた。これで道端も諦めるだろう、合コンはいい機会だったかもしれないと思った。
あゆみさんとの進展を望んだ俺は、ドライブ以外にも何かしようと言って映画に誘った。約束した日は近くで花火大会が予定されていた。花火を一緒に見るという望みもあったけど人混みを嫌うあゆみさんが行くとは思えなかった、それで映画にした。
仕事帰りに車でいつもの駅前へ向かい、ロータリーに車を止めてあゆみさんが来るのを待っていた。メールを受信して確認するとあゆみさんからだった。急用が出来たから映画に行けないと断られた。残念だが仕方ないと受け止めて車を出そうとしたその時、外に見覚えのある顔を見つけてそれが誰なのかを思い出した。ハシヅメ ユウカだ。
「ユッカちゃん!」
窓を開けて声を掛けるとハシヅメ ユウカは振り向いた。あゆみさんとの予定がなくなった俺は空虚を埋めるためハシヅメ ユウカを誘った。そしたら花火を見に行くことになった。花火を見ている間、あゆみさんを想った。以前に比べと順調なはずなのに、俺があゆみさんの心を捉えられる日はこの先いつまでも来ないのではないかという気がした。傍にいることは出来ても、あゆみさんが宙を見る先にはいつも俺ではない誰かがいる、そんなふうに思うからだ。それが誰かというのは明白だ。
ハシヅメ ユウカとはその後もあの駅で何度か出会った。彼女は次第に俺の心の隙間を埋めていった、でもそれは恋愛感情ではなかった。あゆみさんとの思い出を話す事で不安を紛らわしたこともあった。そんなある日、彼女を家に送り届けた後、暫くしてから車内に鍵が落ちているのを見つけた。翌朝、職場へ鍵を届けに行くと彼女の後ろにはあゆみさんが立っていた。2人は同じ職場に勤めているとわかった、こんな偶然があるのかと驚いた。後日、あゆみさんがまた写真を撮るよう言ってきた。何故その対象がハシヅメ ユウカになったのかわからない。以前も増して癇癪を起こすようになったあゆみさんを止められず、俺は再び覚悟を決めた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】
霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。
辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。
王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。
8月4日
完結しました。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる