花びらは掌に宿る

小夏 つきひ

文字の大きさ
上 下
40 / 95
疑惑

疑惑②

しおりを挟む
「もしかして夕夏と隆平って、知り合い?」
「一応、幼馴染」
隆平は眉を下げて言った。
「大丈夫ですか?」
ウェイトレスがテーブルの上に布巾を数枚掛けた。
皆が見ている、何か言わないと。
「すみません、あの、続けて下さい」
「続けるって何を?」
智香が少し笑った声で聞いた。
「だから、それは・・」
「ちょっと御手洗い行って来まーす」
智香が私の手を引いて連れ出す。柳瀬さんは気にしなくていいという意味なのか小さく手を上げた。


「あーあ、スカート派手に濡れちゃったね。これじゃお漏らしじゃん」
智香が足元を見る。確かに前が全体的に濡れているうえにストッキングにまで染み込みだしている。
「友達いたのにごめん。びっくりして」
「びっくりどころじゃないでしょ。どう見ても訳アリって感じだったよ」
自分が今どんな顔をしているのかと鏡を見た。汚れてもいない手を洗ってみる。
「幼馴染の再会か~、恋愛絡みの問題だったりして」
智香は悪戯に私の顔を覗く。私はつい動きが止まった。
「気にしないで、大した話じゃないから」
「ごめんごめん、今はスカートが先だね。こっち向いて」
智香は壁に装着してあるペーパータオルを引き出してスカート拭いてくれる。
「あ、そういえばあの合コン以来長谷川先輩から連絡って来た?」
ぱっちりメイクの目元で智香が見上げる。
「メールは来たけど、気を付けて帰ってねってだけだったよ」
花火大会に行ったなんて言えば大きな誤解を生む。ナオさんに特別な感情があるわけじゃない。
「そうなんだ。なんかさあ、長谷川先輩って誰か好きな人いる気がするんだよね」
「そうなんだ?」
「うん。話掛けても時々心ここにあらずって感じで、虚しくなる」
「仕事の悩みじゃなくて?」
「ならいいんだけどね~。勘っていうのかな、他の誰にも踏み込めない何かがある気がしてさ」
智香と同じような気持ちになった経験がある。その相手はまさに今、戻ればあの場にいる。
「あんまり気にしなくていいんじゃないかな、傍にいられる時間を大切にした方がいいと思う」
「え?」
智香はペーパータオルを丸めるとゴミ箱に捨てた。
「拭いてくれてありがとう。あと、連れ出してくれて」
「いいよ。よくわかんないけど隆平と話したくないんなら夕夏の話題は出さないようにするから」
「うん」


席に戻って柳瀬さんと店を出た。智香に手を振った、隆平はこっちを見ているようだったけど目を合わせなかった、いや、合わせられなかった。
柳瀬さんは家まで送ると言ってくれた。でもさっき散々待たせてしまったことで遠慮して、駅まででいいですと断った。
「変な感じにしてしまってすみません、ご馳走様でした」
「いいよ、こっちこそ巻き込んで悪いね。また相談させてもらう事があると思うけど、嫌だったら断ってくれていいから」
「嫌なことないです、安西さんと戻って欲しいんです。だから私に手伝える事があるならどんな事でも言って下さい」
助手席に座ってシートベルトを締めた。
「ありがたいな。俺、沙織との結婚を諦めきれないんだ」
柳瀬さんの顔を見て益々熱が入った。
「さっき話そうとした事なんですけど、合成写真をポストに入れた人は多分横山さんだと思います」
エンジンが掛かった音と重なった。柳瀬さんはハンドルを握り、暫く無言でフロントガラスの向こうを見つめた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

シリウスをさがして…

もちっぱち
恋愛
月と太陽のサイドストーリー 高校生の淡い恋物語 登場人物 大越 陸斗(おおごえ りくと)  前作 月と太陽の  大越 さとしの長男    高校三年生 大越 悠灯(おおごえ ゆうひ)  陸斗の妹    中学一年生 谷口 紬 (たにぐち つむぎ)  谷口遼平の長女  高校一年生 谷口 拓人 (たにぐち たくと)  谷口遼平の長男  小学6年生 庄司 輝久 (しょうじ てるひさ)    谷口 紬の 幼馴染 里中 隆介 (さとなか りょうすけ)  庄司 輝久の 友人 ✴︎マークの話は 主人公  陸斗 と 紬が 大学生に どちらも  なった ものです。 表現的に  喫煙 や お酒 など 大人表現 あります。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...