花びらは掌に宿る

小夏 つきひ

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封筒

封筒⑮

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まだ月曜日が終わったところだなんて信じられない、あと4日も仕事に行かなければいけないことに溜め息を漏らしながら冷蔵庫のドアに手を掛けた。中にはほとんど何も入っていない、買い物に行かないといけないのをすっかり忘れていた。腰が重くなってベッドにもたれ掛け、休憩しようと目を閉じた。
携帯電話の震える音がする、確か鞄に入れたままだ。長い音で3回鳴って、電話が掛かってきているんだと気付いた。重くなった瞼を開き、鞄を置いてあるテレビの前までずるずると移動した。
着信画面には智香(ともか)の名前が出ている。
「はい」
つい気怠い声が出た。
「もしもし、寝てた?」
「うん。ちょっとだけ」
「久しぶりだね~!てか寝るの早くない?まだ9時過ぎだよ」
9時?・・・
思わず立ち上がってカーテンを開けた。外が真っ暗になっている。買い物に行くのを諦めてテレビのリモコンを手に取った。
「今週の木曜日に合コンするんだけどさあ、夕夏来ない?女子が1人足りないんだよねー」
「行かない」
チャンネルを切り替え続け、月9ドラマが流れているところで手を止めた。
「えー、行こうよー!結構いいメンツ揃ってるみたいだよ。私の職場の先輩が企画してくれてさ、夕夏と一緒に行けたらいいなーって」
智香の声が徐々に小さくなった。
「もしかして先輩って、男?」
「そう」
「前に言ってた人?」
「そうそう!」
「なるほど。普通のテンションでいいなら参加するけど」
「嬉しいーありがと!詳しい事は後でメールするね」
智香は高校からの友達で、大学に入ると一時疎遠になった。智香が親の転勤で長野県に行く事になったからだ。私の就職先が長野に決まった時、智香を思い出して連絡を取った。引っ越した翌月に一度智香と食事をした。彼氏がいるかどうかの話になった時に職場の先輩が好きだと言っていた。
電話を切ってから5分も経たないうちにメールが来た。場所、時間、人数、一番詳しく書いてあるのはその先輩と智香のフォローについてだった。
「なるほど」
また1つ、人の恋愛事情に関わる事を面倒に思った。
テレビドラマに目をやると、主人公が意中の男を「タケル!!」と大声で呼び止めた。莉奈ちゃんはきっとこのドラマを観ていたに違いない。

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