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封筒
封筒①
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次々と配達業者がやって来てあっという間に一日が過ぎて行った。段ボールが部屋を占領しているのを見渡して、どっと疲れた。ベッドの組み立て、電子レンジを箱から出す、やることは山ほどあるけど出来ればもう今日は何もしたくない。とは言っても明後日から会社に行かなければならない。コンビニに行く気力もない私は出前を取ることにした。近くの店のメニューを携帯電話で検索すると美味しそうな蟹玉の写真が目に入った。店はかなり近所だ。天津飯とから揚げを注文しようと電話を掛けた。
「はい、唐風軒(とうふうけん)です」
若い男の人の声だ。
「出前お願いしたいんですけど」
「出前ですね、住所からお願いします」
「…ちょっと待っててもらえますか」
まだ住所を覚えていない。冷蔵庫の設置をしてもらった時の書類に住所が書かれていないか確認しようとした、けれど電話越しにお店の賑やかな声が聞こえてきて探すのをやめた。
「すみません、食べに行きます」
「え?」
「今日引っ越してきて住所を覚えてないんです、ほんとすみません」
「じゃ、お待ちしてますねー」
軽やかな声が返って来た。もう一度謝って電話を切った。
店に入ると丁度カウンターの席が1つ空いていた、座ってメニューを見ているとお冷を持ってきた店員が訊ねた。
「もしかしてさっき電話くれた人ですか?」
明るい茶髪がお店の白い制服に対してかなり目立っている。高校くらいの年に見える。
「あ、はい」
「ここの店、常連さんが多いから初めて見る人だなーって思って」
「さっきはすみませんでした」
「いえいえ~全然問題ないっす。何にしますか」
愛嬌のある笑顔になんだか少しほっとした。後ろのテーブル席は4人掛けが3つあり、すべてお客で埋まっている。店内は常連らしき人が互いに世間話をしながらビールを味わっている。
帰ったらどの作業から始めるか考えながら料理を待った。暫くして注文した天津飯と唐揚げが出てきた。
「お待ちどおさま!」
出された料理を見ると、メニューの写真より唐揚げが2つも多かった。
「あのー、3つ入りをお願いしたんですけど」
「引っ越し祝いらしいです」
お兄さんは厨房の方を見た。店長らしきおじさんが力強く中華鍋を振って炒飯を炒めている。
「いいんですか、ありがとうございます」
「どーぞどーぞ」
お兄さんは笑ってレジの方へ行った。テーブル席にいた親子が会計をしようとレジの前で待っていた。店員のお兄さんと同じ年くらいの女の子と母親らしき人だった。
女の子が言った。
「今日も美味しかった~、後でメールしてね」
「あいよー。おばさんもいつもありがとう」
知り合いみたいだ。その後も他のお客さんに話しかけられたりとお兄さんは忙しそうだった。しっかりした子だなと思った。もしかしてこの店の息子だったりするんだろうか。そんな事を考えて天津飯を頬張った。味は絶品で、常連が多いのも納得がいった。唐揚げを食べる時、一瞬厨房を見ると隣で調理をする奥さんらしき人と目が合って会釈をした。
新しい生活を始める事に不安はあまりなかった、むしろ重荷が取れてすっきりした気分でもあった。地元にいるとどうしてもあの2人の事を考えてしまうし、偶然会った時に話す言葉に迷う事もこれでほとんどなくなる。これでいいんだと自分に言い聞かせて、唐揚げの最後の1つを口にした。
家に着くと日が落ちて部屋の中は真っ暗だった。電気をつけて携帯電話の履歴を確認するとお母さんの名前があった。心配しているだろうと思って電話を掛けると長いコールのあと案の定、不安そうな声が聞こえた。
『もう~心配してたんだから!ご飯はもう食べたの?』
「うん。近くにいい中華屋さんがあって、天津飯食べたよ」
唐揚げをおまけしてもらったことを話すと母は喜んでいた。
『そういう親切なお店があって良かったじゃない。夕夏がちゃんとそっちに着いたかお父さん心配してたわよ』
「わかってる、社長さんに会ったら挨拶するからって言っといて」
『そうね、でも社長さんとうちのお父さんが知り合いだってこと周りに言っちゃ駄目よ。嫌がらせとかされたりするかもしれないじゃない』
「そんな事起こらないよ、ドラマじゃないんだし」
『わからないわよー、嫉妬深い人もいるんだから』
「はいはい。じゃ切るよ」
『暫くは小まめに電話しなさいよ』
「わかった」
電話を切り、今夜寝るところを用意しようとベッドの組み立てに取り掛かった。まだ段ボールがいくつも未開封のままだったけど明日整理しようと部屋の隅に寄せた。シーツと掛け布団のカバーをセットし気が付くと深夜零時を過ぎていたので慌ててお風呂を沸かした。寝る前は中華屋の事を思い出しながらまたあの店に行こうと思い眠りについた。
「はい、唐風軒(とうふうけん)です」
若い男の人の声だ。
「出前お願いしたいんですけど」
「出前ですね、住所からお願いします」
「…ちょっと待っててもらえますか」
まだ住所を覚えていない。冷蔵庫の設置をしてもらった時の書類に住所が書かれていないか確認しようとした、けれど電話越しにお店の賑やかな声が聞こえてきて探すのをやめた。
「すみません、食べに行きます」
「え?」
「今日引っ越してきて住所を覚えてないんです、ほんとすみません」
「じゃ、お待ちしてますねー」
軽やかな声が返って来た。もう一度謝って電話を切った。
店に入ると丁度カウンターの席が1つ空いていた、座ってメニューを見ているとお冷を持ってきた店員が訊ねた。
「もしかしてさっき電話くれた人ですか?」
明るい茶髪がお店の白い制服に対してかなり目立っている。高校くらいの年に見える。
「あ、はい」
「ここの店、常連さんが多いから初めて見る人だなーって思って」
「さっきはすみませんでした」
「いえいえ~全然問題ないっす。何にしますか」
愛嬌のある笑顔になんだか少しほっとした。後ろのテーブル席は4人掛けが3つあり、すべてお客で埋まっている。店内は常連らしき人が互いに世間話をしながらビールを味わっている。
帰ったらどの作業から始めるか考えながら料理を待った。暫くして注文した天津飯と唐揚げが出てきた。
「お待ちどおさま!」
出された料理を見ると、メニューの写真より唐揚げが2つも多かった。
「あのー、3つ入りをお願いしたんですけど」
「引っ越し祝いらしいです」
お兄さんは厨房の方を見た。店長らしきおじさんが力強く中華鍋を振って炒飯を炒めている。
「いいんですか、ありがとうございます」
「どーぞどーぞ」
お兄さんは笑ってレジの方へ行った。テーブル席にいた親子が会計をしようとレジの前で待っていた。店員のお兄さんと同じ年くらいの女の子と母親らしき人だった。
女の子が言った。
「今日も美味しかった~、後でメールしてね」
「あいよー。おばさんもいつもありがとう」
知り合いみたいだ。その後も他のお客さんに話しかけられたりとお兄さんは忙しそうだった。しっかりした子だなと思った。もしかしてこの店の息子だったりするんだろうか。そんな事を考えて天津飯を頬張った。味は絶品で、常連が多いのも納得がいった。唐揚げを食べる時、一瞬厨房を見ると隣で調理をする奥さんらしき人と目が合って会釈をした。
新しい生活を始める事に不安はあまりなかった、むしろ重荷が取れてすっきりした気分でもあった。地元にいるとどうしてもあの2人の事を考えてしまうし、偶然会った時に話す言葉に迷う事もこれでほとんどなくなる。これでいいんだと自分に言い聞かせて、唐揚げの最後の1つを口にした。
家に着くと日が落ちて部屋の中は真っ暗だった。電気をつけて携帯電話の履歴を確認するとお母さんの名前があった。心配しているだろうと思って電話を掛けると長いコールのあと案の定、不安そうな声が聞こえた。
『もう~心配してたんだから!ご飯はもう食べたの?』
「うん。近くにいい中華屋さんがあって、天津飯食べたよ」
唐揚げをおまけしてもらったことを話すと母は喜んでいた。
『そういう親切なお店があって良かったじゃない。夕夏がちゃんとそっちに着いたかお父さん心配してたわよ』
「わかってる、社長さんに会ったら挨拶するからって言っといて」
『そうね、でも社長さんとうちのお父さんが知り合いだってこと周りに言っちゃ駄目よ。嫌がらせとかされたりするかもしれないじゃない』
「そんな事起こらないよ、ドラマじゃないんだし」
『わからないわよー、嫉妬深い人もいるんだから』
「はいはい。じゃ切るよ」
『暫くは小まめに電話しなさいよ』
「わかった」
電話を切り、今夜寝るところを用意しようとベッドの組み立てに取り掛かった。まだ段ボールがいくつも未開封のままだったけど明日整理しようと部屋の隅に寄せた。シーツと掛け布団のカバーをセットし気が付くと深夜零時を過ぎていたので慌ててお風呂を沸かした。寝る前は中華屋の事を思い出しながらまたあの店に行こうと思い眠りについた。
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