花びらは掌に宿る

小夏 つきひ

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花絵

花絵⑨

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湯浅動物病院―――
茶色いレンガが特徴の看板と白い木製のドアが温かみのある戸建ての住宅だった。ドアに貼られた紙に書いてある内容を見て愕然とした。
“お盆休みのお知らせ 8月14日から17日の間はお休みとさせていただきます”
「……今日、16日だよな」2階の窓は真っ暗だ、きっと誰もいない。
花絵はインターホンを鳴らした、3回押しても反応は変わらなかった。ポロシャツの彼は携帯電話をカバンから取り出しどこかへ電話を掛け始めた。病院の電話番号だろうか。
「あっ、おじさん?今どこにいるの?」
彼が話し出したのを聞いて、病院に電話したんじゃないのかとがっかりした。
「……うん、いま仔猫抱えた子供がいて困ってるんだ」
花絵は疲れてしまったのかその場に座り込んだ。俺も壁に背を向け体重を預けた。今から家に帰ったとしてもこんなに弱った仔猫をどうにかするのは無理なんじゃないかと考えた。でもそれは言えない。
彼は何度か相槌を打つと、それじゃあ待ってると言って電話を切った。
「あと30分くらいでここの先生が帰ってくるから、それまで我慢できる?」
「え?」
俺は背筋を伸ばした。
「僕の叔父さんなんだよ、ここの院長」
彼は得意げに笑った。
「花絵、良かったな。みーちゃん診てもらえる」
花絵に話しかけると様子がおかしいことに気が付いた。もたげている頭を起こすように肩を引くと唇は肌と同じ色をしていた。
「やばい、兄ちゃん、花絵が」
体が冷たい。目はうっすらと明いているが焦点が合っていない。彼は花絵の額に手を当てて熱を確かめた。
「熱はないみたいだけど心配だね、腕、怪我してるし。家が近所なんだ、待ってる間この子を先に手当てしよう」
「でも…」
「家には母親がいるから大丈夫、叔父さんにはうちに来てもらえるように言うよ」
仔猫を俺が抱えて花絵を彼に背負ってもらった。
「傘、俺が持つ」
「大丈夫、仔猫落とさないように持ってて」
「うん…」
仔猫はぐったりとしている、痙攣しているのを手に感じてもう駄目かもしれないと思った。
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