76 / 97
最終章 ~ 掌 ~
掌②
しおりを挟む
それだけはっきりと聞こえた。
暫くして肩に掛けていたカバンから携帯電話の振動が伝わってきた。…電話だ。
その時俺は焦って指を引いてしまった。途端にドアの閉まる音がして大慌てで廊下の曲がり角まで移動した。
歩く音が近づいてくる。別に見つかってもおかしなことはない。それなのに俺はやましさから身を隠した。夕夏ちゃんは通り過ぎていきエレベーターの方へ歩いて行った。それから時間を空けて自分も1階へ下りた。
何だったんだ、あの会話は……
呆然としながら駅へと歩いた。最後に唯一聞き取れたのは“記憶喪失”という言葉だった。所々に出てくるタケルという名前が頭から離れない。タケルって誰だ?蓮はいつ話せるようになったんだ?
それに“蓮はこの病院で初めて会った時”って、蓮と話してるんじゃないのか?ーーーーーー
あれからずっと考えてる。後日ヘッドフォンを渡しに行った時、蓮は文字ボードを使って話してきた。どうして話せないふりをしているのか謎だ。あの時聞き取った言葉からいろんなパターンを想像してみた。すると今流行っている映画の物語が浮かんでくる。あまりにも非現実的なことを考える自分の思考回路につい笑ってしまった。
「まさかな…」
2人の距離感は気になりつつも、あの日聞いたことへの疑問は段々と薄れていった。盆休みが過ぎてまたこれから頑張ろうと張り切っていた矢先、蓮の兄貴から知らせが入った。蓮が外出中に転倒して緊急手術を受けたという内容だった。かなり重症だったらしく、手術後はICUに入ったと聞いた。毎日気になって仕方なかった。なんであんないい奴にこんなんばっかり…
そして数日後、一般病棟の個室に移ったと知らされた。俺は仕事が休みで出掛けてぶらぶらしてた。蓮の兄貴は夕方に連絡したみたいだけど、携帯の充電が切れていて夜帰ってから折り返した。まだ面会可能時間に間に合う、そう思い電話を切ってすぐ家を出た。
病院に着くと夜間出入口のところで夕夏ちゃんと会った、それで話しながら一緒にエレベーターに乗り病室を訪ねた。
ぱっと見た感じ、蓮の顔色は思ったよりも良かった。俺は一気に安心して色々話したくなった。台に文字のボードがあるのが見えて蓮に渡した。蓮はボードはいらないと口で言った。その瞬間あの時のことを思い出して動揺した。「話せるようになったのか」とわざとらしいけど言ってみた。もし俺が盗み聞きしてたことを蓮が気付いてたとしたら結構恥ずい。でも蓮は普通な顔で返事をした。
暫くして肩に掛けていたカバンから携帯電話の振動が伝わってきた。…電話だ。
その時俺は焦って指を引いてしまった。途端にドアの閉まる音がして大慌てで廊下の曲がり角まで移動した。
歩く音が近づいてくる。別に見つかってもおかしなことはない。それなのに俺はやましさから身を隠した。夕夏ちゃんは通り過ぎていきエレベーターの方へ歩いて行った。それから時間を空けて自分も1階へ下りた。
何だったんだ、あの会話は……
呆然としながら駅へと歩いた。最後に唯一聞き取れたのは“記憶喪失”という言葉だった。所々に出てくるタケルという名前が頭から離れない。タケルって誰だ?蓮はいつ話せるようになったんだ?
それに“蓮はこの病院で初めて会った時”って、蓮と話してるんじゃないのか?ーーーーーー
あれからずっと考えてる。後日ヘッドフォンを渡しに行った時、蓮は文字ボードを使って話してきた。どうして話せないふりをしているのか謎だ。あの時聞き取った言葉からいろんなパターンを想像してみた。すると今流行っている映画の物語が浮かんでくる。あまりにも非現実的なことを考える自分の思考回路につい笑ってしまった。
「まさかな…」
2人の距離感は気になりつつも、あの日聞いたことへの疑問は段々と薄れていった。盆休みが過ぎてまたこれから頑張ろうと張り切っていた矢先、蓮の兄貴から知らせが入った。蓮が外出中に転倒して緊急手術を受けたという内容だった。かなり重症だったらしく、手術後はICUに入ったと聞いた。毎日気になって仕方なかった。なんであんないい奴にこんなんばっかり…
そして数日後、一般病棟の個室に移ったと知らされた。俺は仕事が休みで出掛けてぶらぶらしてた。蓮の兄貴は夕方に連絡したみたいだけど、携帯の充電が切れていて夜帰ってから折り返した。まだ面会可能時間に間に合う、そう思い電話を切ってすぐ家を出た。
病院に着くと夜間出入口のところで夕夏ちゃんと会った、それで話しながら一緒にエレベーターに乗り病室を訪ねた。
ぱっと見た感じ、蓮の顔色は思ったよりも良かった。俺は一気に安心して色々話したくなった。台に文字のボードがあるのが見えて蓮に渡した。蓮はボードはいらないと口で言った。その瞬間あの時のことを思い出して動揺した。「話せるようになったのか」とわざとらしいけど言ってみた。もし俺が盗み聞きしてたことを蓮が気付いてたとしたら結構恥ずい。でも蓮は普通な顔で返事をした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる