上 下
58 / 97
追憶

追憶⑯

しおりを挟む
実は今日、理久に晩飯誘われてるんだけど橋詰さんも行く?
宮園さんがトイレで化粧直しをしている間、柳瀬さんは冷蔵庫の前で言った。
行くならきっと車で送ってもらうことになると思って断った。
昼休憩が終わって柳瀬さんが再び外回りのため事務所を出ていくと、宮園さんは花火の相手とはどんな関係なのかと聞き始めた。楽しそうにしている宮園さんに経理の山下さんが視線を送っているけど本人は気にも留めていない。
みんな花火を見に行くことを騒ぎ立てるけど、私と理久君はそういう仲じゃない。
タケルに長野の山の中で何をしているのかメッセージで聞いた。夜に電話で話をして、その時に真由那さんが読んでいた本のことや恭也さんとのことを教えてもらった。真由那さんが病気だということは2年前タケルが長野を発った後に遥人君から聞いたけれど、その後の状況は想像していた以上に複雑だった。タケルは2人の夢を叶えるため頑張っているのに自分がタケルとのことばかり考えていたことを恥ずかしくも思った。
あっという間に週末が来て、深く関わりのある私達はやっと全員で顔を合わせることになった。


午前9時、遥人君に車を出してもらい莉奈ちゃんと一緒に病院から少し離れた場所で待機してもらった。私は病院へ青谷蓮こと倉前恭也さんを迎えに行った。
車椅子を押して待ち合わせ場所へ向かった。遥人君の車を見つけて近づくと、ドアが両方開いて2人は降りてきてくれた。
「夕夏さん、大丈夫でしたか?」
「ありがとう莉奈ちゃん。誰にも会わなかったよ」
「よかった」
恭也さんが2人に会釈した。遥人君は眉を顰め口をあんぐりと開けたまま恭也さんの顔を見ている。
「遥人!早くしないと誰かに見られちゃうかも」
「あ…うん」
莉奈ちゃんに促されて遥人君は後部座席のドアをスライドして開けた。
「どうぞ」
「ありがとう」
恭也さんはドアに掴まり勢いをつけて立ち上がった。私は補助をするため傍で胴を支えた。車体が高いことを心配したけど恭也さんは腕に力を入れてうまくシートに座った。車椅子を畳むと遥人君がそれを車のトランクに入れてくれた。
全員車に乗り込むと遥人君はすぐにエンジンをかけた。
「じゃ、出発しますね」
「ありがとう、お願いします」
恭也さんは落ち着いた柔らかな声で言った。
はじめてのうちは車内でみんな黙り込んでいた。社交的な莉奈ちゃんさえ戸惑っている。それはたぶん青谷蓮の容姿があまりにもタケルと瓜二つだからで挨拶する言葉に迷っているんだろうと思った。2人はバックミラー越しに恭也さんを度々見ると、やっとタイミングを掴んだかのように切り出した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

処理中です...