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3つの星
3つの星⑳
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「次は向こうの紅葉が綺麗な場所に移動しましょうか」
晴喜が言った。
「はい。その前にちょっとそこのトイレで手洗ってきます」
「わかりました」
父親は柊と共にトイレへ向かった。晴喜はその間、撮影した写真のチェックをした。
拓人がシャボン玉の道具を片付けていると傍に立っていた母親が言った。
「今日は本当にありがとうございます。あの子の伸び伸びした姿、久しぶりに見ました」
母親は安堵したような笑みを浮かべている。
「いえ、僕は近くで見ているだけで何も」
「そんなことありません。きっと温かく見守ってくださっているなかで父親と遊べたことが嬉しかったんだと思います。それに、午前はボールで遊んでいただいて」
「少しでもお役に立ててよかったです」
紡が腕のなかでよく動くため、母親は紡を地面に下しすぐさま小さな手を掴まえた。
「この子から目が離せなくて柊には我慢ばかりさせてるんです。あの子が反発するのはうまく甘えられないもどかしさからだってわかってはいるんですけど、私も自分に余裕がなくなってしまっていて。撮影をご依頼したのは、柊と仲直りするきっかけになればいいなっていう思いもあってのことなんです」
そう聞いて拓人はハッとした。
「そうだったんですね。聞かせていただいて、ありがとうございます」
「なんか、勝手に話しだしちゃってすみません」
母親は笑いながら言った。
「いい写真、たくさん撮れてると思います。この後もきっと…」
「はい。楽しみにしてます」
暫くして父親が1人で戻ってきた。使っていたハンカチをズボンのポケットに入れると、紡が空いた手を掴もうと両腕を延ばしているのに気が付いた。
紡は片手を繋いでもらうと、もう片方の手を母親に伸ばした。両親の手を掴まえた紡は満足そうにして地面を勢い良く蹴った。何を求めているのかわかっている両親は紡の小さな体重を持ち上げた。
写真をチェックしていたはずの晴喜はいつのまにかカメラを構えその瞬間にシャッターを切っていた。拓人はその素早い反応に驚き憧れた。憧れによって胸は高鳴ったが、ふと振り向くと小さな少年が不安げな表情でそれらを見ていたため動揺した。
「柊君、おかえり」
皆、柊の表情を見てその心情を察した。彼の心にまた小さな壁ができてしまったのがわかったのだ。
拓人はどう声をかけていいのか迷った。ただ、このまま何も言わないままでは余計に彼が孤独になってしまうと思った。一歩も動けないままでいる柊から目を離せないでいると、パンっとひとつ手を叩く音が聞こえた。
「さっ、柊君も戻ってきたので次の場所へ行きましょうか」
晴喜が爽やかにそう言った。すると、タイミングを計ったように父親が続けた。
「紡、パパが肩車してあげよう」
紡は言葉の意味がわからないようだったが、父親から両手で胴を抱えられるとすぐに喜んで母親の手を離した。
父親は紡を肩に乗せて歩き出した。
残った母親は目を逸らした柊に柔らかな声で言った。
「柊、おいで。お母さんと行こう」
一歩踏み出せないでいる小さな姿を見守っていた拓人だが、頃合いを見て彼の後ろに立ち、気持ちを込めて肩に両手を置いた。
やがて少し押し出される形で前に進んだ柊は、母親に迎えられて手を繋ぎ歩きだした。
晴喜が言った。
「はい。その前にちょっとそこのトイレで手洗ってきます」
「わかりました」
父親は柊と共にトイレへ向かった。晴喜はその間、撮影した写真のチェックをした。
拓人がシャボン玉の道具を片付けていると傍に立っていた母親が言った。
「今日は本当にありがとうございます。あの子の伸び伸びした姿、久しぶりに見ました」
母親は安堵したような笑みを浮かべている。
「いえ、僕は近くで見ているだけで何も」
「そんなことありません。きっと温かく見守ってくださっているなかで父親と遊べたことが嬉しかったんだと思います。それに、午前はボールで遊んでいただいて」
「少しでもお役に立ててよかったです」
紡が腕のなかでよく動くため、母親は紡を地面に下しすぐさま小さな手を掴まえた。
「この子から目が離せなくて柊には我慢ばかりさせてるんです。あの子が反発するのはうまく甘えられないもどかしさからだってわかってはいるんですけど、私も自分に余裕がなくなってしまっていて。撮影をご依頼したのは、柊と仲直りするきっかけになればいいなっていう思いもあってのことなんです」
そう聞いて拓人はハッとした。
「そうだったんですね。聞かせていただいて、ありがとうございます」
「なんか、勝手に話しだしちゃってすみません」
母親は笑いながら言った。
「いい写真、たくさん撮れてると思います。この後もきっと…」
「はい。楽しみにしてます」
暫くして父親が1人で戻ってきた。使っていたハンカチをズボンのポケットに入れると、紡が空いた手を掴もうと両腕を延ばしているのに気が付いた。
紡は片手を繋いでもらうと、もう片方の手を母親に伸ばした。両親の手を掴まえた紡は満足そうにして地面を勢い良く蹴った。何を求めているのかわかっている両親は紡の小さな体重を持ち上げた。
写真をチェックしていたはずの晴喜はいつのまにかカメラを構えその瞬間にシャッターを切っていた。拓人はその素早い反応に驚き憧れた。憧れによって胸は高鳴ったが、ふと振り向くと小さな少年が不安げな表情でそれらを見ていたため動揺した。
「柊君、おかえり」
皆、柊の表情を見てその心情を察した。彼の心にまた小さな壁ができてしまったのがわかったのだ。
拓人はどう声をかけていいのか迷った。ただ、このまま何も言わないままでは余計に彼が孤独になってしまうと思った。一歩も動けないままでいる柊から目を離せないでいると、パンっとひとつ手を叩く音が聞こえた。
「さっ、柊君も戻ってきたので次の場所へ行きましょうか」
晴喜が爽やかにそう言った。すると、タイミングを計ったように父親が続けた。
「紡、パパが肩車してあげよう」
紡は言葉の意味がわからないようだったが、父親から両手で胴を抱えられるとすぐに喜んで母親の手を離した。
父親は紡を肩に乗せて歩き出した。
残った母親は目を逸らした柊に柔らかな声で言った。
「柊、おいで。お母さんと行こう」
一歩踏み出せないでいる小さな姿を見守っていた拓人だが、頃合いを見て彼の後ろに立ち、気持ちを込めて肩に両手を置いた。
やがて少し押し出される形で前に進んだ柊は、母親に迎えられて手を繋ぎ歩きだした。
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