ゴールドレイン

小夏 つきひ

文字の大きさ
上 下
74 / 77
3つの星

3つの星⑱

しおりを挟む
「おっ、先に食べてるぞ」
車のドアを開けるとサンドイッチを片手に晴喜が言った。助手席に柊の姿はなく、両親の元へ戻った様子だった。
「遅くなってすみません」
拓人は後部座席に乗り込んだ。
「1時間様子を見ることになった。それで雨が止まなかったら午後の撮影は中止して後日に延期する」
「わかりました」
「なにかあったのか?」
「え」
「落ち着きないから」
「…コンビニの帰り知り合いに会って、ちょっと話してたんです。走って戻ってきたんで息が切れて」
「知り合いってさっきボール飛んでった時の子?」
「あ、はい」
「へえー」
晴喜は呑気な相槌を打った。拓人は鼓動がいつまでも落ち着かないのを感じている。
「知り合いって、こっちで知り合ったのか?」
拓人はおにぎりのフィルムを剥がしていたが手を止めた。
「小学校の時の、同級生です」
「静岡?」
「いえ、高知です」
「高知ね」
「こっちで会うなんて思わなくて。実は、清掃で行ってるデパートで働いてて」
「ああ、今の職場な」
「はい」
「それで落ち着かないのか」
晴喜は笑った。拓人は心の内を見透かされているようで気恥ずかしくなった。そして止めたままになっていた手を動かしフィルムを剥がしきると海苔のおにぎりにかぶりついた。


昼食を食べ終わり小さな画面でテレビを見ていた。もうすぐ1時間が経つという頃、窓には雨粒がついたままだったが陽が差し空は晴れ渡った。
撮影を再開することになり、車に積みなおした小道具類を再び台車に乗せた。
「地面が濡れてるからピクニック風のセットはできないな。これとこれは置いていって、こっちを持って行こう」
「はい」
2人は芝生の広場へと向かった。真ん中あたりまで来ると大き目のブルーシートを広げて固定し荷物を置いた。小道具の準備をしているとやがて柊と家族がこちらにやってきた。
「お待たせしました」
「いえいえ。お昼ご飯ゆっくり食べられましたか?」
晴喜が聞いた。
「おかげさまで」
そう言った柊の母親は紡を抱いている。しかし、紡は眠っているようだ。
「紡ちゃん寝てるんですね」
「そうなんです。それで、申し訳ないんですけど私はこの子を抱っこしてるので先に柊と父親を撮ってあげてもらえませんか?」
「わかりました。そこのブルーシートに荷物置いてください。あとベンチも拭いておいたので座れますよ」
「拭いてくださったんですか」
拓人はブルーシートの荷物からブランケットを取り出した。
「ブランケットも用意してあるので、よかったら使ってください」
「ありがとうございます」
「午後の撮影もよろしくお願いします」
晴喜と拓人は両親に頭を下げた。柊は父親の隣で少し戸惑ったような顔をしている。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...