ゴールドレイン

小夏 つきひ

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3つの星

3つの星⑨

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その音は“あれ”に似ていた。風に吹かれ、1人佇んでいるといたずらに聞こえてくるあれだ。
草が揺れ、桃色の可憐な花が広がる景色ーーーーー
昨日雑巾を拾ってくれた店員の声はあの子を思い出させるような声だった。拓人はそう考えつつも、こんな東京で会うことがあるのだろうかとも思った。
早川 咲と最後に言葉を交わしたのは小学4年の頃だった。はっきりと覚えている。
理科の授業で豆電球を使った実験をした。同じ班になったことで話すチャンスができたのが嬉しかった。
雨が降る夜の草原で知らない女が早川 咲を無理やり引きずっていったあの夜以来、また話せるきっかけがないものか毎日考えていた。彼女は皆の前ではいつもこちらと接点を持とうとしなかった。
実験は赤と緑の導線を乾電池に繋ぎ豆電球を光らせるというものだった。なぜか自分の班の豆電球だけ光らず、早川 咲と互いに導線を持ったまま首を傾げた。
「もう1回やってみよう」
そう言って乾電池をケースから抜いて入れ直し、再度試すと豆電球は輝いた。その小さく温かな光を見つめながら、今だけは彼女と心がつながっている、そう思ったのだったーーーーー
子供がラムネを吹くのを母親が注意した。
拓人はフロアを一周してから階段を降りてトイレチェックに向かった。
12階から順に見てまわり、3階に着いた。拓人は子供服売場の方を見た。
今日は店員が2人いるが、やはり階段からでは売場の店員の顔はよく見えない。あまり見すぎるのも変に思われるだろうと考え確認するのを諦めた。

仕事が終わり、拓人はある場所へ向かった。それは6階建ての大型書店で都内では最も広く、すべてのフロアが端から端まで大きな本棚でいっぱいになっている。
最近は仕事が変わって退勤後の時間に余裕が出来た為、撮影の技術について学ぶ意欲が沸いている。
自分が撮りたい写真がどういうものなのか再認識するためにも様々な写真集を参考にしたいと思いこの書店を訪れた。大型書店なだけあって技術的な参考書は勿論、写真集もかなりの品揃えだ。景色、花、動物、人々、目を見張る程たくさんの種類が並べてある。
拓人は1冊ずつ中身を見ながらいつのまにか集中していた。
フロアが広く人も多く居るものの、皆がその空間を大切にしているかのように静かで落ち着いている。
静けさの為か、拓人は隣に人が立っていることになかなか気が付かなかった。女性は自分の立っている辺りにある本の陳列を眺めている様子だった。拓人はその場から少し左に退いた。すると女性は会釈をして本棚に一歩近付いた。

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