ゴールドレイン

小夏 つきひ

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3つの星

3つの星④

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掛ける言葉を考えるが何も浮かばない。そのうちカップ麺を食べ終えてしまい、汁を何口かすすってからそれを台所に片付けに行った。瑠香は袋に入っているもうひとつの容器を取り出し蒸し鶏を食べている。
拓人は手をタオルで拭いて部屋に戻った。瑠香が黙々と食べ続けているのを見て床に座りテレビのチャンネルを変えていく。
「ねえ」
小さな声が聞こえて振り向くと瑠香は持っていた容器をテーブルに置いた。
「…なんで何も言わないの」
怒りを露わにした声だ。
「何を話せばいいかわからなかったから」
そう答えたが瑠香は全く納得がいかないという顔で睨みつけてくる。
「合鍵」
「…」
「合鍵作って」
「ここのですか?」
「当たり前じゃん。作るって約束するなら帰る。彼女なんだから合鍵持ってて当然でしょ」
拓人はまた困った要求を突き付けられた。
「あんまり人が家にいるの好きじゃないんです」
「住むとは言ってないでしょ?あたしだって忙しいのにそんな頻繁に来ないわよ」
「でも、また暫く休みがないからすぐに作りに行けるかわからないし」
「ネットで頼めるでしょ」
「そうなんですか」
「じゃあ作っといてね。明日の撮影朝早いの、あたしもう帰る」
「…」
瑠香は立ち上がり鞄を手に引っ提げた。もうその時には機嫌が直った様子で、玄関で振り向くとにこやかな表情で言った。
「作らなかったら今日のこと許さないから」
玄関の扉が閉まった。拓人は鍵を掛け、深く大きな溜め息をついた。
一時機嫌を直したように見えた瑠香だったが抑え込んだ怒りが帰り道でふつふつとこみ上げてきたのは言うまでもなく拓人のせいだ。
今までの男なら誰もがたいてい瑠香が家に来るのを喜んだ。泊まっていけと引き止められることがほとんどだ。それに、見るからに態度を悪くすれば必ず機嫌を取りにくる。プレゼントを送り続ける男もいた。別に物が欲しいわけではなく、こちらの気を引こうと必死になっているその姿を見るのが面白いのだ。
しかし、拓人にはその姿勢が見えない。それどころか連日この有様だ。腹の底から怒りが湧いたのは久しぶりだと瑠香は思った。
拓人は合鍵を作るか悩んだ。疲れ切っているとき部屋にいられるのは精神的に参る。それでも、鍵は作らないといえば作るまでしつこく迫られるだろう。ただ、休みはほとんどなく朝早く出て夜は遅いのだから自分が家にいるのはほんの数時間だ。疲れているときはもう寝ると言って相手をしなければいい。そう考えると断る面倒よりも合鍵を渡してしまうほうが楽な気がした。


    
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