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東京
東京⑨
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翌週の休日、拓人は瑠香との待ち合わせ場所へ向かった。
瑠香が指定してきた待ち合わせ場所は「ルクブル」という代官山にある大きなヘアサロンの前だった。
5分前に着き待っていると店から出てきた男に話しかけられた。
「瑠香と待ち合わせしてる人?」
「はい」
「入って」
「え?」
男は扉を開けたまま拓人に目で合図した。
訳がわからずとりあえず入ったものの、瑠香が来るのか気になり店前に目をやった。
「あそこの椅子空けてあるから座って」
そう言って男は受付のカウンターに入った。言われた通りひと席だけ空いている椅子へと歩いていき腰掛けた。
暫くしてから男が来た、名札には「Akira」と書いてある。美容師らしい。
美容師は拓人の髪をつまんだりして触り始めた。何か考えた様子で髪を見つめると少しして先ほど目の前に置いた本のようなものを開いて見せた。様々な色をした髪のサンプルが並んでいる。
「トーン、どのへんまでだったら大丈夫そ?」
美容師の質問に驚いた。この椅子に座るということはそういうことなのだろう。
「染めるんですか?」
「そう。瑠香から頼まれてる」
「瑠香さんが?」
「もちろんカットもする予定。なんか君が地味だから変えてほしいって言ってたけど」
「でも、僕そのつもりで来てないんですけど」
「あ、金ならもう瑠香からもらってるよ」
拓人は戸惑った。瑠香がどういうつもりなのかよくわからない。
「君の後も予約続いてるからサクサクいくよ。で、トーン決めらんないならこのへんので一旦やるから」
返事しかねていると美容師はケープを巻いてバックヤードへと消えていった。数分待つと美容師がカラー剤を持って戻ってきた。それを後ろにあったラックに置くと拓人の両耳に透明のカバーをかけて手際よくカラー剤を塗り始めた。
「瑠香さんは来ないんですか?」
「来ないらしいよ」
「そうですか…」
「君、瑠香にめっちゃ気に入られてるみたいだけど大丈夫?」
「大丈夫ってどういう意味ですか?」
「あ、瑠香のことあんま知らない感じ?」
「はい」
「じゃあ知らないでいたほうが無難かも。どこで知り合ったの?」
「僕がカメラ技術習ってる人のアシスタントしてるときに撮影現場で」
「へえ、カメラね」
そう言うと美容師は会話に興味がないという感じでカラー剤を塗る手を早め店内の様子を観察しだした。
拓人は身動きが取れなかったが美容師がラップを頭に巻いて機械を取りに離れたのを見計らいポケットに入れていた携帯電話を取り出した。
瑠香が指定してきた待ち合わせ場所は「ルクブル」という代官山にある大きなヘアサロンの前だった。
5分前に着き待っていると店から出てきた男に話しかけられた。
「瑠香と待ち合わせしてる人?」
「はい」
「入って」
「え?」
男は扉を開けたまま拓人に目で合図した。
訳がわからずとりあえず入ったものの、瑠香が来るのか気になり店前に目をやった。
「あそこの椅子空けてあるから座って」
そう言って男は受付のカウンターに入った。言われた通りひと席だけ空いている椅子へと歩いていき腰掛けた。
暫くしてから男が来た、名札には「Akira」と書いてある。美容師らしい。
美容師は拓人の髪をつまんだりして触り始めた。何か考えた様子で髪を見つめると少しして先ほど目の前に置いた本のようなものを開いて見せた。様々な色をした髪のサンプルが並んでいる。
「トーン、どのへんまでだったら大丈夫そ?」
美容師の質問に驚いた。この椅子に座るということはそういうことなのだろう。
「染めるんですか?」
「そう。瑠香から頼まれてる」
「瑠香さんが?」
「もちろんカットもする予定。なんか君が地味だから変えてほしいって言ってたけど」
「でも、僕そのつもりで来てないんですけど」
「あ、金ならもう瑠香からもらってるよ」
拓人は戸惑った。瑠香がどういうつもりなのかよくわからない。
「君の後も予約続いてるからサクサクいくよ。で、トーン決めらんないならこのへんので一旦やるから」
返事しかねていると美容師はケープを巻いてバックヤードへと消えていった。数分待つと美容師がカラー剤を持って戻ってきた。それを後ろにあったラックに置くと拓人の両耳に透明のカバーをかけて手際よくカラー剤を塗り始めた。
「瑠香さんは来ないんですか?」
「来ないらしいよ」
「そうですか…」
「君、瑠香にめっちゃ気に入られてるみたいだけど大丈夫?」
「大丈夫ってどういう意味ですか?」
「あ、瑠香のことあんま知らない感じ?」
「はい」
「じゃあ知らないでいたほうが無難かも。どこで知り合ったの?」
「僕がカメラ技術習ってる人のアシスタントしてるときに撮影現場で」
「へえ、カメラね」
そう言うと美容師は会話に興味がないという感じでカラー剤を塗る手を早め店内の様子を観察しだした。
拓人は身動きが取れなかったが美容師がラップを頭に巻いて機械を取りに離れたのを見計らいポケットに入れていた携帯電話を取り出した。
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