戯け者の独り言

バルサミコ酢3世

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台風の目

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ある地域に台風が来た。それもかなり強いもの。それはこの小さな村にも襲いかかってきた。しかししばらくした後、ふと天候が安定してきたのだ。

「おっ。終わったのか。」

と、村長が顎の髭をさすりながら戸を開ける。すると目の前には、蓑笠を身にまとい、奇抜な色使いの天狗の面のようなものをかぶっている、四方八方に白髪が跳ね上がった低身長の男がいた。村長は目を丸くし、

「台風の目か…!!?」

白髪の男は、この地域に伝わる、台風の目という妖怪であった。彼が現れると辺りはたちまち雲と風と雨で覆われ、台風となり村々を襲うという。村長の声に、他の村人達も家から飛び出してくる。そして次々に声を上げる。

「お前さんがいっから台風が来ちまうんでぃ!さっさと帰ってくれ!」

「あんたのせいで田畑がめちゃくちゃよ!どうしてくれるのさ!」

「みなが迷惑しとるだ。さっさと消えてくれんかこの妖めが。」

台風の目はそれを黙って聞くと、ひとつ、コクンと頷いて山奥へとトボトボ歩いていった。村人達はホッと胸をなで下ろすが、二分もしないうちに辺りはまた暴風雨に覆われてしまった。パキパキと家が悲鳴を上げる。恐怖と寒さでガタガタと震える村長の耳元で、ハッキリとしつつも透き通っていて、どこか悲壮感を漂わせる声が流れた。

「私を追っ払わなければ、凍える事は無かったはずだったのですがね。」
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