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五がんばり目~ヤンデレ君にご注意~
第54話 電話
しおりを挟むガチャッ
「どーもー」
颯人はドアを開けると軽い口ぶりで松城と菊地に挨拶をした。
見たことのない若い男に松城は少し怪訝そうな顔をして会釈する。
「…あの、小野寺くんの親御さんは?」
「あぁ、ちょっと立て込んでて。俺が代わりに出てきました」
「そう、ですか。小野寺くんの様子を伺いに来たのですが…」
「様子も何も、いつも通り引きこもってますよ」
「部屋の前には通してくれないんですか?」
のらりくらりとした返答に菊地は手早く用事を済ませたいと切り出した。
「あ?」
「だって、森本くんはいつも部屋の前で話してるって言ってましたよ?」
「あー、涼真はここにいないよ。別の場所で森本空汰と一緒にいるから」
「その理由をお聞きしても? 小野寺くんはともかく、森本くんが学校をお休みしている原因がそこにあるなら教師として見過ごせませんが」
小野寺に頼まれたといえど、二人相手に追及されることにウンザリした様子の颯人。
髪をかき上げながらため息交じりに答える。
「一応名目はセラピーだよ」
「セラピー?」
「そ。あいつの引きこもり、その森本クンのおかげで軽くなってきてるみたいでさ。誰とも会いたがらなかったくせに森本クンなら顔見て話せそうって言うから協力してもらってんの」
「…それは、森本くん合意の上でしょうか?」
「そうだよ。本人の協力がなきゃ、こんなこと出来ないじゃん?」
ペラペラと顔色一つ変えず平然と嘘をつく。
颯人はそういう男なのだ。
しかし突然出てきた人間にそんなことを言われても信用など出来ないと菊地が詰める。
「そうかな?じゃあわざわざ部屋を変えた理由は?どうして学校へ正直に申告しないの?」
「…そんなの絶対止められるからに決まってるだろ?
学校ってそういうとこじゃん。センセイが1番よく分かってるだろ?」
めんどくせぇー。
早く帰ってくんないかな。
「確かに、生徒の引きこもりを治すために別の生徒を数日間登校させずに利用するという提案は受け入れるわけにはいきません。そこまで踏み込んだ治療というのは専門家に任せるべきです」
「そう、センセイの言う通り。でも知ってる?専門家とやらに頼んでどのくらいの子供が外に出られるようになるか」
「…」
確かにその割合は多くないだろう。
「それぐらい難しいー問題なわけ。相性悪いカウンセラーなんかに当たったら、一生引きこもりになる可能性もあるよな。…だったら無理矢理にでも本人が希望してるやり方で治してやりたいと思うのが家族だろ?」
「しかし」
「あんまりしつこいと、学校側を訴えたっていいんだぜ?不登校の原因を作ったのはそっちだって」
「………分かりました」
そこまで言われてしまうと大きな問題にしたくない松城は口出しできなくなってしまう。
「さすが、センセイってやつは物分りがいいや」
「しかし本人と連絡がとれないというのはやはり心配です。電話でも良いので森本くんを通じて2人の様子が知りたいです」
「それくらいなら仕方ないか。ほんじゃこの番号にあとでかけてみてよ」
そう言うとスマホを取り出し小野寺の番号を見せた。
菊地はそれを写真で保存し折戸に代わって念を押す。
「本人の声じゃなかったら、警察に行くから」
「はいはいー」
もういいだろうと言わんばかりな返事をしながら家に戻っていく颯人だった。
「もしもーし」
颯人は1人になると小野寺へ電話をかけていた。
「なに…」
「案の定、センセイとお友達が来たぜ」
「………それで」
「まぁ、一応それとなく言っておいたけどお前の番号教えることになっちった」
「…」
「仕方ねーだろ!警察なんか呼ばれたらもっと面倒なことになるんだぞ」
「分かってる…。お金、用意したから」
「お!サンキュー!今度取りに行くわ。電話来たら、ちゃんと森本空汰を出せよ?」
「うん…」
電話が切れると苦しそうな表情でスマホを握る小野寺。
彼にとっては森本が誰かと会話を交わすことすら忌々しかった。
森本を監禁することで安心できるどころか、そんな小さな事すらも許せなくなってしまっていた。
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