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マドレーヌが部屋を出て行くと、俺はニヤリと笑みを浮かべた。
「シフォン。これで堂々と君と一緒にいられる」
シフォンを見ると、彼女も微笑んでいた。
「はい。嬉しいです、ブッシュ様」
「君に出会えて本当に良かった。そうだ、今からご両親の所へ挨拶に行こう」
「本当!?」
シフォンの目がキラキラと輝く。
まるで欲しいものを貰った子供のように。
それが可愛らしくて、俺も嬉しくなる。
「ああ、その場で夫婦の契りを交わそう」
家を出ると、俺達は馬車に乗った。
二人で隣り合って座り、手を繋いだ。
もう八年も一緒にいるのに、俺達は今でも初々しい恋人のようだった。
馬車がシフォンの家へと到着した。
男爵家である彼女の家は、俺のものよりも数段小さいが、男爵家の屋敷にしては大きい方だった。
門が開き、こじんまりした庭に馬車を停める。
二人で馬車を降りると、玄関の所で数人の男が何やら口論をしていた。
「ん? シフォン。彼等は知り合いかい?」
シフォンに顔を向けるが、彼女は真っ青になっていた。
俺の言葉も聞いていないみたいで、心ここにあらずといった感じだ。
「シフォン。聞いているのか?」
少し大きな声を出すと、彼女は「あ」と我に返る。
「す、すみません……それより、今日はどこか外へお出かけしませんか? わ、私海が見たいなぁ」
「何を言っているんだい? 俺が両親と会うことをあんなに喜んでいたじゃないか」
「あ、えっと……それは……」
その時だった。
玄関に集まっていた男たちがこちらに顔を向け「シフォンだ!」と叫ぶ。
俺が再び彼等へ顔を向けた時には、こちらに向かって走ってきていた。
全部で四人の男がいた。
皆どこかの貴族らしく、綺麗な服を身に纏っている。
彼らは俺たちの目の前で歩を止めると、はあはあと息を整えた。
大柄な男がシフォンを睨みつけて叫んだ。
「シフォン! 貸した金を返しやがれ!」
それに続き、ほかの三人も声をあげる。
「俺の財産を盗んだだろ! この泥棒!」
「僕との結婚は嘘だったのかい!?」
「お前にいくら金を貢いだと思っているんだ!」
俺の頭は混乱していた。
口々に男たちがシフォンへと叫ぶ。
まるで地獄のような光景だが、なぜかシフォンはヘラヘラと笑みを浮べていた。
「皆、落ち着け」
低い声で俺は言った。
男たちが驚いたように、口を閉じる。
「俺は侯爵家のブッシュ。申し訳ないが、俺が言うまで発言を控えてくれ」
男たちを順番に睨むと、彼等は緊張したように頷いた。
俺はシフォンへと顔を向ける。
「シフォン。どういうことか説明をしろ。この男たちとはどういう関係なんだ?」
「えっと、それは……」
シフォンの顔は真っ青だった。
何かを胸の内に隠しているのは、明白だ。
「正直に話せ」
厳然な態度でそう言うと、諦めたようにシフォンは頷いた。
「わ、私は……結婚詐欺を働いておりました」
「は?」
予想外の答えに、自分でも顔が強張るのが分かる。
シフォンは更に顔を青くしながら、掠れるような声で言葉を続ける。
「彼等とはその……体の関係で……結婚費用として幾らかお金を支援して頂きました……わ、私はそれを……私的に使って……」
「もういい」
世界がぐらりと揺れた。
嫌な記憶を思い出し、最悪の気分だった。
「シフォン。もう二度と俺の前に顔を見せるな。この様子だと、息子も本当に俺の子か分からないからな。勝手に育てろ」
俺は踵を返した。
シフォンの泣きだす声と、男たちの乱暴な声が同時に背中に飛んできた。
だが、俺はそれを無視して、馬車に戻った。
「シフォン。これで堂々と君と一緒にいられる」
シフォンを見ると、彼女も微笑んでいた。
「はい。嬉しいです、ブッシュ様」
「君に出会えて本当に良かった。そうだ、今からご両親の所へ挨拶に行こう」
「本当!?」
シフォンの目がキラキラと輝く。
まるで欲しいものを貰った子供のように。
それが可愛らしくて、俺も嬉しくなる。
「ああ、その場で夫婦の契りを交わそう」
家を出ると、俺達は馬車に乗った。
二人で隣り合って座り、手を繋いだ。
もう八年も一緒にいるのに、俺達は今でも初々しい恋人のようだった。
馬車がシフォンの家へと到着した。
男爵家である彼女の家は、俺のものよりも数段小さいが、男爵家の屋敷にしては大きい方だった。
門が開き、こじんまりした庭に馬車を停める。
二人で馬車を降りると、玄関の所で数人の男が何やら口論をしていた。
「ん? シフォン。彼等は知り合いかい?」
シフォンに顔を向けるが、彼女は真っ青になっていた。
俺の言葉も聞いていないみたいで、心ここにあらずといった感じだ。
「シフォン。聞いているのか?」
少し大きな声を出すと、彼女は「あ」と我に返る。
「す、すみません……それより、今日はどこか外へお出かけしませんか? わ、私海が見たいなぁ」
「何を言っているんだい? 俺が両親と会うことをあんなに喜んでいたじゃないか」
「あ、えっと……それは……」
その時だった。
玄関に集まっていた男たちがこちらに顔を向け「シフォンだ!」と叫ぶ。
俺が再び彼等へ顔を向けた時には、こちらに向かって走ってきていた。
全部で四人の男がいた。
皆どこかの貴族らしく、綺麗な服を身に纏っている。
彼らは俺たちの目の前で歩を止めると、はあはあと息を整えた。
大柄な男がシフォンを睨みつけて叫んだ。
「シフォン! 貸した金を返しやがれ!」
それに続き、ほかの三人も声をあげる。
「俺の財産を盗んだだろ! この泥棒!」
「僕との結婚は嘘だったのかい!?」
「お前にいくら金を貢いだと思っているんだ!」
俺の頭は混乱していた。
口々に男たちがシフォンへと叫ぶ。
まるで地獄のような光景だが、なぜかシフォンはヘラヘラと笑みを浮べていた。
「皆、落ち着け」
低い声で俺は言った。
男たちが驚いたように、口を閉じる。
「俺は侯爵家のブッシュ。申し訳ないが、俺が言うまで発言を控えてくれ」
男たちを順番に睨むと、彼等は緊張したように頷いた。
俺はシフォンへと顔を向ける。
「シフォン。どういうことか説明をしろ。この男たちとはどういう関係なんだ?」
「えっと、それは……」
シフォンの顔は真っ青だった。
何かを胸の内に隠しているのは、明白だ。
「正直に話せ」
厳然な態度でそう言うと、諦めたようにシフォンは頷いた。
「わ、私は……結婚詐欺を働いておりました」
「は?」
予想外の答えに、自分でも顔が強張るのが分かる。
シフォンは更に顔を青くしながら、掠れるような声で言葉を続ける。
「彼等とはその……体の関係で……結婚費用として幾らかお金を支援して頂きました……わ、私はそれを……私的に使って……」
「もういい」
世界がぐらりと揺れた。
嫌な記憶を思い出し、最悪の気分だった。
「シフォン。もう二度と俺の前に顔を見せるな。この様子だと、息子も本当に俺の子か分からないからな。勝手に育てろ」
俺は踵を返した。
シフォンの泣きだす声と、男たちの乱暴な声が同時に背中に飛んできた。
だが、俺はそれを無視して、馬車に戻った。
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