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一章 5人の婚約者
聞きたいこと
しおりを挟む「こんにちは」
そう言って私が入ったのはレイラ・ユバースの自室だった。
今日は影の日。今は11時。レイラの自宅を訪ねたのは彼女に聞きたいことがあったからだった。
影の日だからもしかすると彼女の両親がいるかもしれないと思ったけれど、どうやら出かけているようでいなかった。仕事は休みであっても、明日の準備などがあるために出かけているのかもしれない。
出てきたメイドにレイラが退学してしまい心配で会いに来たと伝えれば、笑顔で案内をしてくれた。部屋の前でメイドが私が来たことを伝えると、レイラが部屋の扉を開いた。
私が部屋へ入るとメイドはお菓子と飲み物を持ってくると言って部屋から離れて行った。そうして漸く私はレイラに挨拶をしたのだ。
レイラと話をするのはこれが初めてかもしれない。それなのに、突然部屋に来られても困るだろう。けれどレイラは私を追い返そうとはしなかった。
それどころか部屋の真ん中に置かれたテーブルへと向かい、床に座ってしまった。私は彼女の向かい側に座った。
「話すのははじめましてだけれど、どうして私のところに来たの?」
「貴方に聞きたいことがあったの」
そう言うと驚いた様子もなく、「何を聞きたいの?」と問いかけてきた。ハイイログマということもあり、正直2人きりの空間は怖い。
でも、何もされることはないとわかっているので私は聞くつもりだったことを聞くことにした。
「まず聞きたいのは、あの時どうして私を見て笑ったの?」
「あの時のことね。だって、私漸くあの学園から離れられるかもしれなかったんですもの」
嬉しそうに話すレイラに首を傾げた。入学したくてあの学園の入学試験を受けたのではないのだろうか。入学できたのだから、魔法も使えるのだろう。
それなのにどうして離れたかったのか。問いかける前に顔に出ていたのだろう。レイラが先に口を開いた。
「私はエルセント学園に残っていたかった。私の魔法は風魔法。でも、力が強くないからガラウェルド学園に入学するつもりはなかったの。それなのに、フレイが必ず入学しろって言うから。逆らえなくて。でも、退学になれば離れることができる。彼女の命令を聞かずに済むじゃない」
「でも、退学になったら」
「心配しなくても大丈夫。エルセント学園に編入できるようにしてもらったの」
入学した理由をベルディア先生に話したところ、どうやらエルセント学園に連絡を入れてくれたようだ。
2週間は自宅謹慎となったけれど、それからエルセント学園への投稿を許可されたとのことで、退学してからの多くは勉強をしているとのことだった。
教科書は両親が学校へ向かい、購入してその時にクラスも聞いて来たとのことだった。
「エルセント学園に戻れるとは思っていなかったのだけれど、戻れてよかった」
そう言うレイラは本当に嬉しそうだった。
「お菓子と飲み物を持ってきました」
扉の外から先程のメイドの声が聞こえた。どうやら両手が塞がっていているようだ。レイラが立ち上がり、扉を開けるとメイドが部屋へと入って来てお菓子と飲み物をテーブルに置いた。そして「ごゆっくり」というと静かに部屋を出て行った。
レイラがメイドの置いて行ったクッキーを食べるので私も1つ手に取った。それを食べると程よい甘さで私の好みのものだった。
「それで、まだ聞きたいこともあるんでしょ?」
「鋭いわね」
私は一度、メイドが持ってきた飲み物――紅茶を一口飲んだ。すぐ話さないことにレイラは気にしていないようで私と同じように紅茶を飲んでいた。
フレイ達がいないからなのか、レイラはとても落ち着いて見える。私を階段から突き落とすような人には見えない。犯罪をする人は周りからはこんなことをする人には見えなかったと言われるのだから、同じことなのかもしれない。
「一番聞きたいのはフレイの婚約者についてと、私をいじめる理由」
紅茶の入ったカップを置くと、レイラも静かにカップを置いて私を見つめた。
「婚約者が誰かは知ってるの?」
その言葉に頷いて、私は2人の名前を挙げた。どうして知っているのかを尋ねてくることはなかったけれど、レイラは「そう」とだけ呟いた。
「貴方がいじめられる原因は、婚約者に振り向いてもらうため」
「振り向いてもらうため?」
「そう。1人は貴方と婚約を破棄してフレイだけと婚約者になってしまえば結婚できるかもしれない。もう1人は、いじめという事実から守っていれば自分に振り向いて貴方と結婚できるかもしれないという考えから、いじめようという話しになったみたい」
本当に思い通りになるのだろうか。レイラの話からすると、いじめの話を持ち出したのは1人のように感じる。フレイが結婚したいと思っている相手ではないのだろう。
けれど、フレイがいじめることによってその相手と結婚できるかと言われたらできないだろう。私が結婚相手だったら絶対に結婚はしない。
フレイは他の人が見てもいじめをしている。見られていても気にすることがなかったりするのだから、婚約者も知っているはずだ。たとえ他に婚約者がいないとしてもフレイと結婚する可能性は低いと言える。
逆に、私はいじめから守ってくれているのであればその婚約者に惹かれる可能性はある。可能性はあるというだけで、今のように惹かれないことだってある。
「いじめは他の婚約者との婚約破棄をさせるためのものなのね」
「本当は守って、頼りにしてもらって、最終的に結婚できればいいって考えなんだよ」
そう言われてみれば、婚約者の中で一番「守る」と言ってくれていたのは彼だった。もう1人の婚約者はフレイをできるだけ目に入れないようにしていた気もする。
あれはどう考えても嫌っているのだろう。それがいつからなのかはわからないけれど、気がついた時にはすでにそうだったからもしかすると初めから嫌いだったのかもしれない。
「そう。私をいじめたくていじめているわけじゃないのね」
それがわかっただけでも取り敢えず良しとしよう。
「じゃあ、明日このいじめを終わらせましょう」
笑顔で言った私の言葉にレイラは少し驚いたようだったけれど、元々そのつもりで来たのだろうと思っていたのか微笑んで頷いた。
「それなら、成功することを祈っているわ」
「ありがとう。ところで、フレイとはどうなっているの?」
「退学になったからもう関係ないみたい。自宅に来ることもないわ」
そう言うレイラはとても嬉しそうに見えた。
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