上 下
15 / 17
一章 5人の婚約者

聞きたいこと

しおりを挟む



「こんにちは」

 そう言って私が入ったのはレイラ・ユバースの自室だった。
 今日は影の日。今は11時。レイラの自宅を訪ねたのは彼女に聞きたいことがあったからだった。
 影の日だからもしかすると彼女の両親がいるかもしれないと思ったけれど、どうやら出かけているようでいなかった。仕事は休みであっても、明日の準備などがあるために出かけているのかもしれない。
 出てきたメイドにレイラが退学してしまい心配で会いに来たと伝えれば、笑顔で案内をしてくれた。部屋の前でメイドが私が来たことを伝えると、レイラが部屋の扉を開いた。
 私が部屋へ入るとメイドはお菓子と飲み物を持ってくると言って部屋から離れて行った。そうして漸く私はレイラに挨拶をしたのだ。
 レイラと話をするのはこれが初めてかもしれない。それなのに、突然部屋に来られても困るだろう。けれどレイラは私を追い返そうとはしなかった。
 それどころか部屋の真ん中に置かれたテーブルへと向かい、床に座ってしまった。私は彼女の向かい側に座った。

「話すのははじめましてだけれど、どうして私のところに来たの?」
「貴方に聞きたいことがあったの」

 そう言うと驚いた様子もなく、「何を聞きたいの?」と問いかけてきた。ハイイログマということもあり、正直2人きりの空間は怖い。
 でも、何もされることはないとわかっているので私は聞くつもりだったことを聞くことにした。

「まず聞きたいのは、あの時どうして私を見て笑ったの?」
「あの時のことね。だって、私漸くあの学園から離れられるかもしれなかったんですもの」

 嬉しそうに話すレイラに首を傾げた。入学したくてあの学園の入学試験を受けたのではないのだろうか。入学できたのだから、魔法も使えるのだろう。
 それなのにどうして離れたかったのか。問いかける前に顔に出ていたのだろう。レイラが先に口を開いた。

「私はエルセント学園に残っていたかった。私の魔法は風魔法。でも、力が強くないからガラウェルド学園に入学するつもりはなかったの。それなのに、フレイが必ず入学しろって言うから。逆らえなくて。でも、退学になれば離れることができる。彼女の命令を聞かずに済むじゃない」
「でも、退学になったら」
「心配しなくても大丈夫。エルセント学園に編入できるようにしてもらったの」

 入学した理由をベルディア先生に話したところ、どうやらエルセント学園に連絡を入れてくれたようだ。
 2週間は自宅謹慎となったけれど、それからエルセント学園への投稿を許可されたとのことで、退学してからの多くは勉強をしているとのことだった。
 教科書は両親が学校へ向かい、購入してその時にクラスも聞いて来たとのことだった。

「エルセント学園に戻れるとは思っていなかったのだけれど、戻れてよかった」

 そう言うレイラは本当に嬉しそうだった。

「お菓子と飲み物を持ってきました」

 扉の外から先程のメイドの声が聞こえた。どうやら両手が塞がっていているようだ。レイラが立ち上がり、扉を開けるとメイドが部屋へと入って来てお菓子と飲み物をテーブルに置いた。そして「ごゆっくり」というと静かに部屋を出て行った。
 レイラがメイドの置いて行ったクッキーを食べるので私も1つ手に取った。それを食べると程よい甘さで私の好みのものだった。

「それで、まだ聞きたいこともあるんでしょ?」
「鋭いわね」

 私は一度、メイドが持ってきた飲み物――紅茶を一口飲んだ。すぐ話さないことにレイラは気にしていないようで私と同じように紅茶を飲んでいた。
 フレイ達がいないからなのか、レイラはとても落ち着いて見える。私を階段から突き落とすような人には見えない。犯罪をする人は周りからはこんなことをする人には見えなかったと言われるのだから、同じことなのかもしれない。

「一番聞きたいのはフレイの婚約者についてと、私をいじめる理由」

 紅茶の入ったカップを置くと、レイラも静かにカップを置いて私を見つめた。

「婚約者が誰かは知ってるの?」

 その言葉に頷いて、私は2人の名前を挙げた。どうして知っているのかを尋ねてくることはなかったけれど、レイラは「そう」とだけ呟いた。

「貴方がいじめられる原因は、婚約者に振り向いてもらうため」
「振り向いてもらうため?」
「そう。1人は貴方と婚約を破棄してフレイだけと婚約者になってしまえば結婚できるかもしれない。もう1人は、いじめという事実から守っていれば自分に振り向いて貴方と結婚できるかもしれないという考えから、いじめようという話しになったみたい」

 本当に思い通りになるのだろうか。レイラの話からすると、いじめの話を持ち出したのは1人のように感じる。フレイが結婚したいと思っている相手ではないのだろう。
 けれど、フレイがいじめることによってその相手と結婚できるかと言われたらできないだろう。私が結婚相手だったら絶対に結婚はしない。
 フレイは他の人が見てもいじめをしている。見られていても気にすることがなかったりするのだから、婚約者も知っているはずだ。たとえ他に婚約者がいないとしてもフレイと結婚する可能性は低いと言える。
 逆に、私はいじめから守ってくれているのであればその婚約者に惹かれる可能性はある。可能性はあるというだけで、今のように惹かれないことだってある。

「いじめは他の婚約者との婚約破棄をさせるためのものなのね」
「本当は守って、頼りにしてもらって、最終的に結婚できればいいって考えなんだよ」

 そう言われてみれば、婚約者の中で一番「守る」と言ってくれていたのは彼だった。もう1人の婚約者はフレイをできるだけ目に入れないようにしていた気もする。
 あれはどう考えても嫌っているのだろう。それがいつからなのかはわからないけれど、気がついた時にはすでにそうだったからもしかすると初めから嫌いだったのかもしれない。

「そう。私をいじめたくていじめているわけじゃないのね」

 それがわかっただけでも取り敢えず良しとしよう。

「じゃあ、明日このいじめを終わらせましょう」

 笑顔で言った私の言葉にレイラは少し驚いたようだったけれど、元々そのつもりで来たのだろうと思っていたのか微笑んで頷いた。

「それなら、成功することを祈っているわ」
「ありがとう。ところで、フレイとはどうなっているの?」
「退学になったからもう関係ないみたい。自宅に来ることもないわ」

 そう言うレイラはとても嬉しそうに見えた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...