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一章 5人の婚約者
黒い机
しおりを挟むそれから何かが起こることもなく、1日が終わった。いじめの被害にあうわけでもなく、もしかするとユシアが綺麗な制服を着ていたことから教員に話されたのではないかと思ったのかもしれない。だから何事もなく1日が終わったのだろう。
私的にはよかったけれど、かわりに今日は何かが起こるのかもしれないと思うと少し憂鬱になってしまう。でも、今日は1時間目と2時間目が魔法学。だからいじめられるとしてもその後だろうと考えていた。
しかし、そうはいかなかった。私はなるべくチャイムが鳴る15分前には教室にいるようにしている。そうすれば、まだクラスには数人しかいないからだ。多くの人はチャイムが鳴るギリギリに登校してくる。
けれど、今日は違った。すでにクラスには多くの生徒が揃っていた。朝早くに集まらなくてはいけないこともなかったはずなのに、どうしてこんなに多いのだろうか。
しかも、フレイと取り巻きもいて私を見て笑っている。それだけではなく、私をいめることに関わっていなかった男子生徒も私を見て笑っている。嫌な予感がする。
取り敢えずフレイ達を睨みつけて私は自分の机に向かった。そして、机を見て立ち止まり盛大に溜息を吐いた。これには正直驚いたのだけれど、溜息が先に出てしまった。
そこにあったのは真っ黒な机。見てわかるけれど、人差し指でそれをなぞってみた。
――うん。真っ黒。
わざわざ猿臂腕机を真っ黒にするなんてご苦労なこと。他のことに時間を使えばいいのに、くだらないことにばかり時間を使って勉強はいつしているのだろうか。
まあ、帰ってからしているのだろうとは思うけれどここで努力を見せつけなくてもいいと思う。他にも頑張ることがあるのに。
取り敢えず、この上にカバンを置くこともできない。さて、どうするかと考えて私はこれを放っておくということにした。
普通なら消すという行動をするだろう。フレイ達もそう考えていたようで、私の行動に驚いたようだった。
私はカバンの中から小説を取り出して椅子に寄りかかる様にしてそれを読みはじめた。後ろの席はダンなので、多少寄りかかっていたとしても文句を言われることはないだろう。そう思ってチラチラと私を見る男子生徒や、何も行動しない私を不思議そうに見るフレイ達を私が気にすることもない。
こんなの消していたら消しゴムの無駄。雑巾で消すのもいいけれど面倒。だから私は、これに関しては任せることにしたのだ。
「おは……よう?」
「あら、ダン。おはよう」
「……消すの手伝おうか?」
「いいの。このままにしておいて」
「そうか。チッ」
最後に聞こえた舌打ちは誰に対してなのだろうか。横目でダンを見ると、周りを見ていることから誰がやったのかもわからないながら犯人がいるであろうと思い睨みつけているようだ。
少し乱暴に机にカバンを置くから私に振動が伝わってきた。痛くはないので何も言わずに本を読む。後ろから机の中に教科書を入れる音が聞こえ、前からは声が聞こえてくる。
「おお……凄いな」
「消すの、手伝う」
「このままにしているってことは消さないのでしょう」
「全く、お前という奴は」
一緒に登校してきたのか、それとも偶然会ったのかケビン達が教室に入って来た。4人とも私の席の近くなので、近づいて私の机の状況を見てケビンが半笑いで言った。
ウェルドはダンと同じことを言ったけれど、ハロルドが消していない様子を見てその必要はないと言う様に首を振って言った。そして、そんな3人を通り越してローレンが呆れたように溜息を吐きながら自分の机の上にカバンを置いた。
私は小説を読みながら、心配そうに私を見ている5人の視線には気がついていたけれど気がつかないふりをしていた。気にしたらきっと、これを消した方がいいと言われるに決まっているのだから。
もう少しの我慢。そうすれば、これは解決するはず。
チャイムが鳴る前に教室に入って来たユシアからも私の机が見えたようで、驚いたようだったけれど後ろから来たベルディア先生を見て自分の机へと向かって行った。
ベルディア先生は私の様子を見て盛大に溜息を吐いた。どうせ魔法で見ていたのだろうから、私は口元に笑みを浮かべて小説にカバンを仕舞った。
「さて、悪いが今回は黙っていられなくなった」
真剣な顔をして教卓に寄りかかったベルディア先生は腕を組んでそう言った。目を閉じているけれど、その声色はいつもより低いように聞こえる。
誰もが椅子に座り、黙っている。何かを言うような雰囲気ではないのだ。ただ、フレイ達の顔色はあまりよくなかった。
私が消さずにいるから黙っていられなくなったわけではないだろう。それなら、他の教員にばれたのかもしれない。
「探知魔法は俺以外も使える。普段は俺だけが学園中を見てるが、昨日は客が来てたから他の教員も見てたわけだ」
その教員に今回のいじめを目撃されたのだろう。名前を口にすることはなかったけれど、先程笑って私を見ていたフレイや男子生徒を見ている。
やはり犯人は笑っていた人達だったのだ。わかっていたことだけれど、ベルディア先生が隠すこともなく彼らを見ている。他の教員に何を言われたのだろうか。
本当はその時に止めに行けばよかったのかもしれないけれど、留めなかったということは止めろとは言われなかったのだろう。
「あえて名前はださない。でもな、お前ら。アメリアの机を綺麗にしろ。今日のこ教室は俺達探知魔法を使えるやつが使う。消すまで俺が見張ってる。いいか、常に見られていると考えろ。もしもいじめをするならばれないようにしろ」
ばれないようにすればいいのだろうかと思うけれど、まずばれないようにということは不可能に近いだろう。ベルディア先生がいつも見ているのだ。しかも、客がくると他の教師も見るのだから。
でも、今のベルディア先生の言葉で普段は見られているのだといじめをしていた所為とは気づいただろう。余程の馬鹿でなければ気がつく。
「いいか、場合によっては退学になる可能性もある。よく考えるんだ」
何をとは言わない。だからいじめを止めるのも続けるのも勝手。続けたとしても、ばれないように考えろということなのだろう。
「それじゃあ、手早く出席をとるぞ」
そう言ってベルディア先生は名簿を開いて1人1人の名前を呼んでいった。
この日から私に対するいじめが無くなったのかというと、かわることはなかった。けれど、今の私も思っていた。どうせいじめがなくなることはないのだろうと。
ここでいじめがなくなるのだとしたら、私と間違えてイリシスを階段から突き落とした時に止めていただろう。でも止めないということは、他の人が怪我をしても構わないということだったのだろう。
「じゃあ、移動する奴らはさっさと移動しろよ」
手を二度叩いてそう言うと、私は授業道具を持って教室から出た。ベルディア先生の前を通ると、「これだけ言ってもやめないんだろうな」と呟く声が聞こえ、私は小さく頷いた。
1人保健室へと向かって歩く私の頭の中はすでに魔法学のことを考えていた。何を教えてくれるのか、それだけが楽しみで学園に来ているようなものなのだから。
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