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第二章 アクアセルシス王国

アクアセルシス王国4

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 白龍は1人だった。先ほどまではリシャーナとツェルンアイと一緒にいた。しかし、人混みの中を歩いていたため2人とはぐれてしまったのだ。もしかすると、2人もはぐれてしまっている可能性が高い。
 白龍ははぐれてしまった場所から移動することなく立ち尽くしていた。下手に移動をすると2人に会えない可能が高いと考えたのだろう。
 だが、10分ほど待っても2人が姿を見せることはなかった。周りにいる人達も白龍に声をかけようとしない。誰もが急いでいるのか、白龍に気がついていないようだ。
 ――どう、しよう……。
 姿を見せないリシャーナとツェルンアイを探すか。若しくは、エリス達を探すか。
「龍……」
 小声で名前を呼ぶが、白龍はすぐに首を横に振った。龍の助けを借りてばかりではだめだと思ったのだろう。周りを見回して2人がいないことを確認すると、白龍は歩き出そうとした。しかし、白龍は一歩足を前に出しただけで止まってしまった。
 その目線の先には1人の男性。髪は胸ほどの長さで黒に近い紫色をしている。
 何故か白龍は男性を見た瞬間に動けなくなってしまったのだ。他の人とは違い、男性は立ち止まり白龍を見ていた。
 お互いに何も言わず、動くこともなかった。
 そして、先に動いたのは男性だった。誰にもぶつかることなく、真っ直ぐに白龍へと向かって行く。白龍は近づいてくる男性に逃げることもなかった。危険だと思わなかったのだ。
 ――この人、不思議。龍に、似てる?
 どうしてそう思うのかは、今の白龍にはわからなかったようだ。男性は目の前で立ち止まると、白龍と話しやすいようにとしゃがみ目を合わせた。
「どうした? どうして白龍が1人で歩いてるんだ? 黒龍はどうした?」
 ――え?
 白龍は何も言わなかったが、男性の言葉に驚いていた。それもそのはず。何故なら白龍は、目の前の男性に会ったことがないのだから。龍と黒麒はもしかすると、白龍と出会う前に男性と会っていたかもしれない。だから、男性が名前を知っていたとしてもおかしくはない。
 しかし、龍と黒麒はこの男性には会ったことがない。だが、それを白龍が知るはずもない。
「はぐれたのか……。知らない人について行ったりするなよ?」
「うん」
 その言葉に白龍は頷いたが、目の前にいる男性も知らない人だ。白龍はそれを理解しながらも男性には警戒していなかった。
「ついて行かないとしても、子供は誘拐されたり……いや、やめよう」
 何を思ったのか、白龍の顔を見て男性はそれ以上言うことはなかった。かわりに数度白龍の頭を撫でた。もしかすると、白龍の顔色が僅かに変わったのかもしれない。
 男性は何も言わない白龍に、頭を撫でる手を止めて何かを考えるように目を閉じた。
 時間にして10秒ほどだろう。目を開き、ゆっくりと立ち上る。そして白龍の肩に両手を置くと、白龍の体を真後ろへと向けた。
「いいか。このまま真っ直ぐ進むと、黒麒麟がいる。いいか。たとえ誰かが目の前に来て道を遮られたとしても、横に移動して進まないこと。その場で立ち止まり、道が開くのを待つんだ」
「どう、して?」
 何故立ち止まらないといけないのか。立ち止まらずとも、言われた場所へ向かって歩けばいいのではないのか。そこに黒麒がいるのだから。
 しかし男性は首を横に振った。
「運命というのは、一つの行動で簡単に変わるものだ。もしかすると、立ち止まらなければ黒麒麟に会えないかもしれない。彼が仲間と共に移動してしまうかもしれない。そうならないために、白龍が黒麒麟と会えるように立ち止まらなければいけない。そうすれば、はぐれた者達とも黒麒麟とも無事に会える。だから、必ず立ち止まれ」
 そう言った男性の顔を見た白龍は何も言うことはなかった。何故なら、悲しそうな顔に見えたからだ。
 白龍には彼がどうしてそのような顔をしているのかはわからない。けれど、彼に何かがあったのだろうと理解することはできたようだった。
 白龍は一度頷くと男性に手を振り、言われた通りに歩き始めた。目の前を通る人はいるが、立ち止まらずとも真っ直ぐ歩けた。
「何やってるんだ? ローウェン」
 その時、後ろから声が聞こえて白龍は立ち止まると振り返った。そこには先ほどの男性と白髪の男性、金髪に近い茶髪の男性の3人がいた。
「ラン、シシ。買い物は終わったのか?」
「終わった」
「ローウェンは小さい女の子にナンパでも?」
「違う。それに白龍にはまだ性別はないだろう」
 男性――ローウェンはどうやら3人と買い物に来ていたらしい。ローウェンの問いかけに白髪の男性――シシが頷いて答えた。そしてランが口元に笑みを浮かべながら言った言葉は本心ではないのだろう。それをローウェンもわかっているようで小さく笑う声が白龍に届いた。
 何かを話す3人が歩き出したのを見て、白龍は振り返り歩き出した。すると、目の前を数人が通り、白龍は立ち止まり通りすぎるのを待った。
 そして、また歩き出した。ローウェンに言われた通りに進んで行くと、1軒の店の前で腕を組み立っている黒麒がいた。
「黒麒」
「白龍!?」
 白龍に名前を呼ばれて、黒麒は驚いたようだ。それもそうだろう。白龍は、リシャーナとツェルンアイと一緒にいたのだから。
 それなのに、何故ここに1人でいるのかと疑問に思ったようだ。
「人、いっぱい。はぐれた」
「そうですか。でも、無事でよかった」
「男の人、ここに黒麒、いるって」
「男の人?」
 ――この国に知り合いはいない。それなのに私を知っている人がいた? しかも、ここにいることを知っていた……。
 周りを見回しても、黒麒達を見ているものは誰もいない。白龍に黒麒がここにいることを告げた男性が誰かも黒麒にはわからない。
「知らない人について行ったりしては駄目ですよ」
「うん。あの人にも、言われた。それに……」
「それに?」
「不思議。龍、似てた」
「似てた?」
「うん。龍、似た感じ」
 ――それは、同じ『ドラゴン』ということ?
 黒麒にはわかるはずもなかった。1人1人気配は違う。白龍の龍に似た感じとはどういうことなのか。気配だったのか。それとも、見た目だったのか。
 だが、龍に似た顔だというのなら言うだろう。言わないということは、気配が似ていたのかもしれない。もしも、気配が似ていたのならその男性は『ドラゴン』。若しくは、『ドラゴン』に近い何かということになる。
『ドラゴン』達は人間や獣人とは気配が異なる。しかし、それぞれが似た気配をしているのだ。
「今ははぐれないように、ここで待ってましょうか」
「うん」
 エリスはユキも入れるお店を見つけ、白美も一緒に買い物をしている。もしかするとここにいればリシャーナとツェルンアイとも合流できるかもしれないのだ。
 ――それにしても、ここは不思議な国だ。さっきの擦れ違った男性も不思議だった。
 エリスとユキと白美と一緒に歩いていた時のことを思い出しながら黒麒は擦れ違った男性のことを思い出していた。
 そして、白龍と合流して5分ほどしてエリスとユキと白美が店から出てきた頃、リシャーナとツェルンアイが姿を現したのだった。











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