上 下
78 / 95
短編~一匹狼編~

短編09 エリスと図書館

しおりを挟む


※短編は本編を読んでから読むことをお勧めします。
ネタバレや、次の話へ関係ある内容のものもあります。









 エリスの仕事の多くは、怪我の手当てをしてほしいという依頼だ。治療魔法を使える者は数少ない。そのため、病院へ行かなくてもいい怪我をした場合は、手当てをしてほしいと依頼されるのだ。
 エリスへの依頼は直接家へ訪れることが多い。それか、手紙。エリスはどこかの組織に所属しているわけではない。そのため、連絡手段は少ないのだ。
 今日エリスは、エードから依頼を直接聞いた。珍しく、城に直接依頼をしに来た人物がいたのだ。エリスが、アレースの妹だと知っている人物は城が近くであれば城に依頼しに行くのだ。
 エードの話を聞いて、龍や黒麒がついて来ようとしていたが、いつも依頼は1人で行くので断りエリスは出かけた。
 家を出て向ったのは、城の近くに新しく家を建てた建てた夫婦の元。新しくと言っても、以前もそこに自宅はあった。しかし、スカジの炎により無くなってしまったのだ。
 だが、同じ場所に新しく家を建てたのだ。両親と1人息子の3人暮らし。父親は事故により足を悪くしてしまい、定期的に足が痛むのだ。病院に行っても痛みをとることはできない。
 そのため、エリスが治療魔法をかけて痛みをとるのだ。しかしそれは、体を騙していると言ってもいい。決して治るものではないのだ。それは、治療する時にいつも告げている。それでも、治療をしてほしいと言われるのだ。だからエリスは治療をする。頼まれたのだから、断る理由もないのだ。依頼主達の意思なら、それに従うまで。
 彼らの依頼をこなし、エリスは1人坂道を歩いていた。その先にあるのは図書館。以前住んでいたともいえる場所だ。依頼主がそこにいるわけではない。ただ、次の依頼主の元に行くまで時間ができてしまったのだ。だから、久しぶりに図書館に行こうと思ったのだ。そこにいる人物にも挨拶をしなければいけないだろう。その人物に会ったのはユキだけだったが、エリスも知っている人物だ。
 静かに図書館の扉を開けるエリスだが、相手はすでにエリスが来たことに気がついているだろう。敷地に入っただけでわかるのだから。
 図書室の扉を開くと、正面の椅子に座る女性が1人いた。正面の机には数冊の本が積まれていた。女性の右に積まれている本は、どうやら読み終わった物らしい。今読んでいた本を閉じてそこに重ねた。
「久しぶりね、エリス」
「久しぶり、リーヴル。来れなくて、ごめんなさい」
「構わないわよ。忙しかったのはわかっているもの。仕方がないわよ」
 リーヴルの言葉にエリスは微笑むと正面の椅子に座った。向かい合う様にして座ると、リーヴルが何か飲み物でも出そうかと尋ねてくるので、エリスは首を横に振った。
 時間があるからと立ち寄ったが、ここからはそれなりに距離が離れているのだ。暫くしたら出なくてはいけない。だから、あまり長居はできないのだ。
「ユキには会ったわよ。私は彼女が何を言っているのかはわからなかったけれど、ここの管理は私が引き受けたから安心して」
「ええ。貴方なら大丈夫だと思っているわ。それで、1人暮らしはどう?」
「楽でいいわね。文句も言われないし、ここなら本を読み放題」
 リーヴルは本が好きだ。本を読んでいると、食事をとることを忘れてしまうほど本が好きなのだ。食事をとらなくても、本を読むだけで満腹になればいいのにと本当に考えているくらいなのだ。
 今までは1人暮らしではなかったため、本を読んでいて食事をとらないでいると怒られていた。しかし、ここにいればそんなことはない。それでも、しっかりと食事をとってはいる。それは習慣になっているからだろう。
「エリスの方こそ大丈夫? スカジの件に関わってたんでしょ?」
「ええ。でも、大丈夫よ。あれを解決に導いたのは私じゃなくて龍だし」
「あの『黒龍』のこと? まさか、黒が不吉って言ってたのにここまで変わるなんて驚きよね」
 この間まで、黒は不吉と言われ誰もが龍を遠ざけていたというのに今では笑顔で話しかけている。リーヴルはそんな光景をどこかで見たのだろう。
 国を救った存在とはいえ、黒を嫌っていた者達が黒い存在に話しかけている光景は異様に見えたのだろう。最近では気にならなくなったが、始めはエリスも驚いた。だが、受け入れてくれる人達が増えたことは嬉しく感じていたのだ。
「まあ、変わるってことはこの国にとってもいいことなんでしょうけどね」
 そう言って本を読むリーヴルはエリスを見て微笑んだ。使い魔である龍が受け入れてもらえたというのは、エリスが一番嬉しいだろうと思ったからだ。
「それじゃあ、後のことはよろしくね」
「大丈夫。本があれば何があっても、ここは守るから大丈夫よ。まあ、ここに攻めてくるような人もいないでしょうけどね」
 笑うリーヴルにエリスは微笑んだだけで何も言わなかった。それは、過去に侵入者がいたからだ。これからも絶対に侵入者が来ないとは言い切れない。だから微笑んだのだ。
 次の依頼主の元へ行くことを告げて図書室を出て行こうとするエリスにリーヴルは「たまに顔を出してね」と声をかけた。それに軽く手を振り、エリスは図書室の扉を閉めた。
 次の依頼主はどのような人だったかと考えながら、エリスは目的の場所へと向かって行った。






短編09 エリスと図書館 終








―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
リーヴル(liver)フランス語で本。ビブリオの娘です。
しおりを挟む

処理中です...