上 下
22 / 40

21.全員集合

しおりを挟む

「よかった。目を覚ましたんだな」
「声をかけても反応なかったから、心配してたんだからね!」
「フィンレー兄様が迷惑をかけてごめんなさい!」

 ソファに座る私を見つけて駆け寄ってくる三人だったけれど、グレンさんに「手を洗ってこい!」と怒られて、私が反応する前に離れて行った。
 服は汚れていなかったので、もしかするとブルーウルフだけではなく、モンスターに遭遇することはなかったのかもしれない。
 最初に戻って来たのはリカルドだった。怪我をしている様子もない。

「まず、これを返しておくよ」

 そう言って【無限収納インベントリ】から取り出したのはメモリーバットだった。
 そういえば、【無限収納インベントリ】に入れた記憶がなかった。フィンレーさんに攻撃されていた時もまだ映像が流れていたはずだ。
 角が折れてからの記憶がないので、メモリーバットが何処かに行ってしまわないように【無限収納インベントリ】に入れてくれたのだろう。
 私のメモリーバットは映像を完全保存してあの事件の出来事を消さないようにしているので、危険を感じると何処かへ飛んで行ってしまう可能性があるのだ。そのことを知っていたのかは分からないけれど、【無限収納インベントリ】に入れてくれていたことに感謝した。
 受け取ったメモリーバットは丸まって眠っている。優しく撫でてから、起こさないように【無限収納インベントリ】に入れた。

「アイがフィンレーさんに攻撃された時、羽ばたいたから逃げちゃうと思って捕まえたんだ」

 その判断は間違っていない。実際、逃げようとしていたのだろう。捕まえるのが少しでも遅ければ、手の届かない場所まで飛んでいただろう。
 何処かへ飛んで行ってしまっても、戻ってくる子もいる。けれど、この子が戻って来るとは言い切れない。逃げてしまう前に捕まえてしまうのが一番だ。

「アイ!」
「アイちゃん怪我はない!?」

 手を洗い終わったノアさんとノエさんが一緒にやって来た。
 それよりも、ノアさんに名前を呼ばれたのは初めてかもしれない。今までは呼ばれなかったか、『あんた』と呼ばれていた気がする。
 これは、完全に認められたと判断していいのだろうか。

「角も治してもらったし、何処も怪我してないよ」
「よかった……」

 ノアさんが声をかけても反応がなかったと言っていたから、ノエさんも心配していたのだろう。
 安心したように息を吐いた。

「フィンレー兄さんのことは、ごめんなさい。本人に謝らせたいんだけれど、エルフの村に帰っちゃって……」
「怪我してないから気にしないで」
「よかった。それなら、どうしてフィンレー兄さんとエルフたちがヤエ村にいたのか気にならない?」

 グレンさんの隣に座りながらノアさんが私に尋ねて来た。
 それは知りたい。魔族である私を討伐するために、あそこにいたとは思えない。それなら、大勢がタイミングよくあそこにいた理由を知りたい。
 リカルドも私の隣に座って、ノアさんの話を聞きたい様子だった。

「村を出る前に、フィンレー兄様がヤエ村の近くで魔族を見たっていう情報を入手したから仲間を連れて来ていたみたい」

 けれど、目撃された魔族は女性ではなく男性だったらしい。私が目撃されていた魔族ではないということはすぐに分かったようだ。でも、魔族の領地が欲しいと言う理由だけで、魔族は誰であろうと討伐するつもりだったらしい。
 だから、私が冒険者であっても構わなかったのだ。魔族という理由だけで討伐対象になる。
 なんか、冒険者になったばかりのことを思い出す。ついこの間のことなのに、懐かしいと思ってしまう。
 ノアさんも同じ考えを持っていたっけ。

「でも、見つからなかったみたい。それで帰ろうとしたら私たちが来たんだってさ」

 探していた魔族ではないけれど、魔族は魔族。
 もしも、私が討伐されていたとしたらギルドマスターであるルーズさんが何か言ったのだろうか。もしかすると、自分のギルドの冒険者を討伐したからという理由で問題が起こったかもしれないし、何も起こらなかったかもしれない。
 分かるはずもない。私がいない未来を見ることなんてできないのだから。

「俺たちも不審者の調査で昨日の夜に見て回ったけれど、不審な男はいなかった」

 そうだ。ルーズさんは『不審者の調査』を任せていたんだ。けれど、見て回ってもいなかったということは、すでにこの近くにはいないのかもしれない。
 だから、フィンレーさんも見つけられなかったのかもしれない。
 不審な男はきっと、魔族の男性だったのだろう。

「それで俺たちは、森に行ったんだけれど、ブルーウルフは見つからなかったよ。もちろん、魔族の姿もね」

 森にいなかったということは、倒したブルーウルフで全てだったのだろう。
 大きいブルーウルフが群れのリーダーとなり、ヤエ村を襲おうとしたのだろう。ただ、何故襲おうとしたのだろうか。食べ物に困って人を襲おうとしていたのだろうか。

「動物とか他のモンスターは?」
「小動物とか、人を襲わないモンスターとかはいたよ」

 ということは、食べ物に困って村を襲おうとしたということはありえないだろう。
 だとすると、他に原因があるのだろう。けれど、考えても分かるはずもない。
 もしかすると、この近くで目撃されたという魔族に関係しているのかもしれないけれど。

「大きいブルーウルフに関しては、ギルドマスターに調べてもらおう」

 レッドコウモリといい、どうして大きい個体がいるのだろうか。今まで目撃されていなかっただけで、本当は存在していたのだろうか。ただ、個体数が少なかったと言われてしまえばそれだけの話。

「パーティメンバーなのに手伝わなくてごめんね」
「何言ってるの! アイが一人でブルーウルフを倒したんだから、十分じゃない! 私たちで森に行って、ブルーウルフがいないか確認して、あんたが休んでいても問題はないの!」

 私としては、依頼を受けたのに手伝わずにいる気分だった。けれど、ノアさんからすると、記憶にはなくてもブルーウルフを倒しているのだから、休んでいても問題はないらしい。
 少し前のノアさんだったらそんな言葉は出なかったかもしれない。真実を知って、仲間として認めてくれたことが嬉しい。魔族が憎いという感情は消えていないかもしれないけれど、私という存在を認めてくれたことはとても嬉しく感じた。

「それで、二人はこのあとまたルクスの街を離れるの?」
「いや、助っ人の依頼も終わったからこのまま戻るよ」
「久々にお母さんにも会いたいニャ!」
「それじゃあ、これで『青い光』全員集合だね」
「全員集合?」
「あれ、聞いてない? 二人は『青い光』のメンバーだよ」

 思い出した。ゲームの記憶を手繰り寄せれば、獣人と鳥人がいた。そっか、それがこの二人か。
 たしかに、これで全員だ。
 私は聞いていないけれど、二人は私がパーティメンバーだということを聞いていたのだろう。驚いている様子はない。
 それともう一つ。シルビアさんのご両親はルクスの街にいるのだろう。何時から街を出ていたのかは分からないけれど、シルビアさんは嬉しそうだった。
 あれ、ちょっと待って……。

「あの、シルビアさんって、もしかしてマーシャさんの……」
「お母さんに会ったことあるのニャ!? 元気だったかニャ?」
「元気でしたよ」
「よかったニャ。家族はお母さんしかいニャいから、心配だったんだよ」

 家族が母親しかいないということは、父親とは別れたのか、それとも別の理由なのか。詳しく聞くわけにもいかず、嬉しそうに微笑むシルビアさんに相槌を打つだけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第六部完結】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。 「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。 魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。 ――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?! ――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの? 私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。 今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。 重複投稿ですが、改稿してます

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...