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第五章
第05話 一緒にいよう
しおりを挟む開かれた扉。そこにいたのはギルだった。どうしてギルがここにいるのか。もしかすると、私をここから救い出そうとしてきたのかもしれない。でも、ただ参加しに来たのだとしたら。
そう考えている私の隣で、国王が小さく笑い声を漏らした。きっと、隣にいる私にしか聞こえなかっただろうそれ。
「ようこそ、ギル。とでも言えばいいかい? 私は君を呼んでいないんだけれどね」
「ええ、呼ばれていません。それに、今日の私は休みです」
そう言いながらギルは左手に刀を持ち、ゆっくりと室内へと入って来た。誰もが何も言わずに歩くギルを見ていた。休みであり、武器を持っているギルに室内にいる国王騎士は誰も立ち上がらない。
呼ばれていないのに、どうして来たのかと疑問に思っているのだろう。だから、武器を手にしていても気にしていないのだろう。それに、ギルは彼らの仲間なのだ。武器を向けられるとは思わないだろう。
「お前達、何をしている? 相手は武器を持っているんだぞ。国王騎士ならば、私を守らないか!」
国王にそう言われて、慌てて国王騎士は立ち上がりギルの前に横一列で並んだ。ギルが刀を抜いていないからなのか、国王騎士の誰も刀を抜こうとはしない。けれど、全員の片手は刀の柄を握っている。
その姿に満足したのか、国王は口元に笑みを浮かべると突然私の肩を抱き寄せた。眉間に皺を寄せて、国王を見ると私を見てはいなかった。私に見られているということすら気がついていないのだろう。その視線はギルにしか向けられていない。
「それで、呼ばれてもいないのにここに何をしに来た?」
笑みを浮かべたまま言う国王に、ギルは目の前にいる国王騎士に視線を向けてからゆっくりと国王を見た。その目は、自分の守る国王に向けるものではなかった。
まるで、視線だけで殺すことができるのではないかという目つきをしていた。そんなギルをはじめて見たので驚いた。けれど、驚いたのは私だけではなかった。
国王、それに国王騎士達も同じだったようだ。目の前にいる国王騎士達は数歩後退りをした。ギルは後退りをする国王騎士達を見ることなく、国王を見つけたまま口を開いた。
「ロベリアを取り返しに来た」
国王から私に目を向けたギルの目は、先ほどの国王に向けたものではなくなっていた。とても優しいそれに、思わず涙が出てきそうになった。
こんなことをしたら、ギルはこの国にいることはできないだろう。それは、ギル自身わかっていることだろう。自分の使える国王の命令を無視してここに来たのだから。それだけではなく、敵意を見せたのだから。
「取り返しに来た? 何を馬鹿なことを言っている。この結婚は合意を……」
「ロベリア」
国王が話しているにも関わらず、ギルは私に声をかけた。それは、とても優しい声。私は無意識に抱き寄せる国王から離れて階段を一段下りた。
先ほどの睨みの所為で、国王の手から力が抜けていたから離れることができたのだ。
ギルは何を言おうとしているのか。それを一言一句聞き逃したくなかった。とても大切なことを言うような気がして、もう一段下りて立ち止まった。
父様がこちらを見て、私の名前を呼んだけれど声は耳に入らなかった。今の私にはギルの声しか聞こえていなかった。
「ロベリア、遅くなってごめん。あのときの返事を伝えに来た」
あのときの返事がなんなのかすぐに理解することができた。今ここでその返事を聞けるのだと思うと、どんな言葉でも嬉しかった。
室内に家族がいることも気にすることなく、私はギルの言葉を待った。
「俺は、ロベリアのことが誰よりも好きだよ。国王と結婚するくらいなら、俺と一緒にいよう。たとえ、この国を追い出されたとしても、ロベリアを守る」
そう言って、右手を差し出したギルに私は脇目も振らずに駆け寄った。階段から落ちなかったことが不思議なくらい。
ギルの目の前にいた国王騎士は何も言うことなく避けてくれた。差し出す右手を私は取ることもせず、勢いを殺すことなくギルに抱きついた。それが私の答えだった。
左手に持っていた刀から手を離したギルは、私を強く抱きしめ返してくれた。刀の落ちた甲高い音が室内に響いた。
その音によって正気に戻ったのか、国王は叫んだ。
「許すはずがないだろ!!」
今まで聞いたことも見たこともないほど取り乱している国王に、ギルは私を抱きしめたまま国王を睨みつけた。周り者は取り乱している国王に驚いていた。それもそうだろう。今まで取り乱した国王なんて見たことがなかったのだから。
「いや、許すよ」
突然聞こえたのは、知らない声。けれど、私はどこかで聞いたことのある声だと思った。
開いたままの扉から、国王騎士の2人が室内を覗いている。そんな2人を気にすることなく、1人の鳥人族の男性が入って来た。
声が聞こえたと同時に、国王が目を見開いたのをギルが見ていたことを私は知らない。私はギルに抱きついており、扉を見ていたのだから。
聞いたことのある声だと思った男性の姿を見て、私は思い出した。彼とは噴水のある広場で会ったことを。どうして彼がここにいるのかと、私は首を傾げた。
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