43 / 61
第五章
第02話 結婚式
しおりを挟むあれからどのくらい経ったのかはわからない。スワンさんが扉をノックして、静かに入って来た。結婚式の時間になったのだ。行きたくはないけれど、行くしかない。
スワンさんに連れられて向かうのは『謁見の間』。そこで結婚式を行うのだという。私の家族と、城の関係者数人がそこで待っているという言葉に、嫌だと思う結婚式であっても緊張してくる。小さく震える手に、スワンさんの手が触れる。
何も言うことはなかったけれど、それだけで大丈夫だと言われているような気がして少しだけ震えは治まった。
扉の前で立ち止まると、中から話し声が聞こえた。そして、その話し声が途切れると扉の左右に控えていた国王騎士の2人がゆっくりと問いらを開いた。
開かれた扉から室内を見ると、集まっている人数はとても少なかった。左右に一列だけ椅子が並び、右側に父様、母様、キースと3人の国王騎士が座ってた。キースの姿を久しぶりに見たけれど、正面を向いているため視線が合うことはなかった。
左側には6人の国王騎士が座っていた。他にいるのは、玉座があった場所に立っている牧師様と国王だけ。
スワンさんに左手を引かれて、ゆっくりと室内へと入ると、背後で静かに扉が閉じられた。静かな室内に私とスワンさんの足音だけが響く。
数段ある階段の上には、玉座がない。邪魔になるから移動したのだろう。階段の下まで歩いて行くと、スワンさんは手を離した。これからこの階段を1人で上がらなくてはいけないのだろう。
すぐに上りきってしまうことのできる階段だけれど、今の私にとってはとても長い階段を上るような気持だった。
笑顔で待っている国王の顔が見たくなくて、私は俯いてゆっくりと階段を上る。背後に突き刺さる視線。その中に、まるで睨みつけているように感じるものがある。それは、父様だ。ここで失礼なことをしたら、結婚できなくなるから私を睨みつけているのだろう。
でも、今の私にはこの結婚を止めることはできない。今日は、いい日になりますようにと願ったとしても結婚を止めることはできないのだから。
階段を上り、国王の右に立つ。国王は私を見ているけれど、私は顔を上げて牧師様を見るだけ。国王の顔を見るつもりはなかった。
そんな私を国王は気にすることはなく、同じように牧師様をみた。私と国王、そして椅子に座る者達を見て牧師様は咳払いをして口を開いた。
「新郎ルード・リオニー、あなたはここにいるロベリア・アルテイナを妻とし、病めるときも、健やかなるときも、富めるときも、貧しきときも、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを誓いますか?」
「誓います」
はっきりと言った国王に、神父様は満足気な顔をした。本来、ここで誓わない者はいない。それでも、国王のような立場の者の牧師様をできることは嬉しいのだろう。きっと、彼は嬉しいに違いない。
国王の結婚式で牧師様をできるなんて、とても名誉なことだろう。
牧師様はゆっくりと国王から私を見て、同じような言葉を私に向かって言った。
「新婦ロベリア・アルテイナ、あなたはここにいるルード・リオニーを夫とし、病めるときも、健やかなるときも、富めるときも、貧しきときも、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを誓いますか?」
「……」
「新婦ロベリア?」
何も答えることができなかった。だって、私は国王と結婚なんかしたくないのだから。それに、どうして国王は私と結婚したいのか。私の本当の父親が、国王の両親を殺した責任を取らせるために結婚するのだとしても、国王が私と結婚する利益はないだろう。
それに、国王は私のことがどちらかというと嫌いだろう。今更ながら、国王が私と結婚する理由を聞いていなかったと思い左に立つ国王を見上げた。責任を取らせるために結婚するというのはおかしい。結婚ではなく、私を幽閉でもして罰を与えればいいのだ。
ここで結婚する理由を尋ねるのはおかしいことはわかっている。それでも、聞いておきたかった。しかし、口を開いたと同時に開かれた扉の音が響いた。
全員が驚き、扉を振り返った。そこにいたのは――。
0
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····
藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」
……これは一体、どういう事でしょう?
いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。
ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全6話で完結になります。
伯爵閣下の褒賞品
夏菜しの
恋愛
長い戦争を終わらせた英雄は、新たな爵位と領地そして金銭に家畜と様々な褒賞品を手に入れた。
しかしその褒賞品の一つ。〝妻〟の存在が英雄を悩ませる。
巨漢で強面、戦ばかりで女性の扱いは分からない。元来口下手で気の利いた話も出来そうにない。いくら国王陛下の命令とは言え、そんな自分に嫁いでくるのは酷だろう。
互いの体裁を取り繕うために一年。
「この離縁届を預けておく、一年後ならば自由にしてくれて構わない」
これが英雄の考えた譲歩だった。
しかし英雄は知らなかった。
選ばれたはずの妻が唯一希少な好みの持ち主で、彼女は選ばれたのではなく自ら志願して妻になったことを……
別れたい英雄と、別れたくない褒賞品のお話です。
※設定違いの姉妹作品「伯爵閣下の褒章品(あ)」を公開中。
よろしければ合わせて読んでみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる