上 下
41 / 61
第四章

第12話 憎悪

しおりを挟む





 突然学校の寮に入れと言われ、僕の拒否する言葉を聞き入れることなく無理矢理寮で暮らすこととなった。父さんは僕の言葉を聞き入れてはくれない。僕が跡継ぎになるのに、何も聞かないなんておかしい。
 同級生に、突然寮に入った理由を聞かれて『大勢のものと生活することも勉強になる』と答えておいた。その回答には全員が納得したようで、それ以上追及されることはなかった。
 それなのに、父さんは突然帰って来いと学校に連絡をしてきた。いったいなんなのか。授業が終わり、寮に戻ろうと思ったところで担任から告げられた言葉。
 一度寮に戻り、着替えて宿題をすませて帰宅したのはこれから晩御飯だろうという時間だった。寮に入れと言ったり、戻って来いと言ったり勝手な父さんの部屋に帰宅の挨拶へと向かった。
 どうせ一時的な帰宅だろうから荷物は何も持って来ていない。それに、自宅なのだから何も持ってこなくても困ることはない。
 父さんの部屋の扉をノックして、返答を聞いてから扉を開いた。父さんは机を背に立ち、腕を組みながら窓の外を見ていた。何を思って外を見ているのかは分からない。
 扉を閉めて、机の前に立っても父さんは何も言わない。話すまで話しかけないでいようと考え、とあることが気になった。
 帰宅してから姉さんの声を聞いていない。姿も見ていない。喧嘩をして間もなく寮に入れられてしまったから、あの日が最後に見た姉さんの姿だ。今日は姉さんに会えるだろうと思っていたのに、声すら聞こえないということはおかしい。
 まさか、姉さんに何かあったのだろうか。それで父さんが僕を呼びつけた。いや、それはないだろう。姉さんが、事故にあったり何かの理由で亡くなったとしても父さんから連絡が来るはずない。そういう場合、連絡してくるのは母さんだろう。
 それなら、どうして連絡してきたのか。父さんが話しをすれば、理由はわかるだろう。それにしても、どうして父さんは嬉しそうなのか。背中を見ているだけでも伝わってくるが、窓に映る口元に笑みが浮かんでいて嫌な予感がする。僕にとって最悪なことが伝えられるのではないのか。
「喜べ、キース。これで我々も王族の仲間入りだ」
 どういうことなのか。王族の仲間入りができるから父さんは嬉しいのだとわかる。けれど、どうして王族になれるのか。それに、僕はべつに王族にならなくてもいい。
 王族になれば今よりは楽な暮らしができる。だから父さんは嬉しいのかもしれない。けれど、僕にはどうでもいいことだ。
 突然王族の仲間入りだと言う父さん。そして、姿を見ない姉さん。きっと、これは姉さんが関係しているのだろう。
「明日、国王陛下とロベリアの結婚式がある」
「え?」
「私達家族と、国王の信頼できる者の数人しか参加はしない」
 姉さんの結婚式。それは、姉さんの意思なのだろうか。姉さんは僕のことが好きなのに。
 ――……嫌、違う。
 姉さんは僕のことを弟としか見ていないと言っていた。好きだとしても、意味が違う。でも、この結婚は姉さんの意思だとは思えない。
「それは、姉さんの意思?」
「ロベリアの意思なんか関係ないだろ?」
 笑みを浮かべたまま僕を振り返った父さんに、僕は殴りかかりたくなった。姉さんの意思までを無視して王族になりたいのか。
 僕が言えることではないけれど、酷過ぎる。それでは、姉さんが可哀想だ。目の前で笑う父さんは、僕が睨みつけていることにも気がついてはいなかった。
 これ以上一緒にいたら本当に殴ってしまいそうだ。だから、何も言わずに部屋を出た。この怒りを何処に向ければいいのか。
 国王に向けることができるのならそうしたい。けれど、そんなことはできない。でも、姉さんを僕から取る者は許せない。
 僕が納得できる理由がない限り、たとえどんな者であろうと許せない。全員が、僕の憎悪を向ける対象となる。
 明日は姉さんの結婚式。その横に本当なら僕が立っていたいけれど、そんなことは無理だと理解はしている。だから、姉さんが納得しているならいい。もしも納得していなかったら、そのときは僕がどうにかしよう。
 そう思いながら自室に入り、明日の準備をすることにした。









―――――
久しぶりのキースです。
少しはまともに……なったのかな?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

きさらぎ
恋愛
テンネル侯爵家の嫡男エドガーに真実の愛を見つけたと言われ、ブルーバーグ侯爵家の令嬢フローラは婚約破棄された。フローラにはとても良い結婚条件だったのだが……しかし、これを機に結婚よりも大好きな研究に打ち込もうと思っていたら、ガーデンパーティーで新たな出会いが待っていた。一方、テンネル侯爵家はエドガー達のやらかしが重なり、気づいた時には―。 ※『婚約破棄された地味令嬢は、あっという間に王子様に捕獲されました。』(現在は非公開です)をタイトルを変更して改稿をしています。  お気に入り登録・しおり等読んで頂いている皆様申し訳ございません。こちらの方を読んで頂ければと思います。

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜

真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。 しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。 これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。 数年後に彼女が語る真実とは……? 前中後編の三部構成です。 ❇︎ざまぁはありません。 ❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

令嬢と5人の婚約者

さおり(緑楊彰浩)
恋愛
レーメンツ伯爵家の次女、アメリアには婚約者が5人いる。 獣人と半獣と人間。爵位もそれぞれ。 しかし、アメリアは5人のうちの誰かと結婚できなくても構わないと思っていた。 彼女には前世の記憶があったのだ。 『どんなことがあっても、キミだけを守る。たとえ、人間でなくなったとしても』 そう言った前世の相手。顔もわからない、その言葉とその瞬間の自分のことしか覚えていない前世。 前世のアメリアが死ぬ瞬間に言われた言葉。 アメリアはただその人物だけを探していた。それが誰かもわからないまま。 見ても前世の声をかけてくれた相手かはわからないかもしれないし、相手も覚えていない可能性が高い。 たとえその人物が人の言葉を話せない存在になっていたとしても、覚えているのであれば感謝の言葉を伝えたいと思っていた。 今月中に5万字を取り敢えず目指しておりますが、不定期更新となります。 学園、魔法、ファンタジー、恋愛ものです。 最初のころは恋愛は全くしておりませんが、恋愛はします。時間がかかるだけです。 ※1月17日 プロローグ 『レーメンツ公爵家』を『レーメンツ伯爵家』に修正しました。 次の更新は18日18時です。それ以降は2月中旬から下旬。 2020年2月16日 近況ボードをご確認ください。

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

処理中です...