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第三章
第06話 真っ黒じゃない
しおりを挟む何も言わずに聞いていたロベリアさんは、俺の両親が血の繋がりのない他人だと知って驚いていたようだ。それもそうだろう。普通は産まれた子供は両親に渡されるのだから。
俺が産まれた病院は評判がよくなかったようで、何年も前に潰れてしまっている。誰が入院していたのかを調べようとしたが、それらは何も残されていなかった。
「産まれたときからずっと真っ黒で変わらない子供なんて、死神と言われてもおかしくはないよな。周りには俺みたいなのは他にいないし……」
ロベリアさんに言うのではなく、呟いた言葉だった。笑みを浮かべながら言った俺の言葉に、ロベリアさんは首を横に振って答えた。
「死神だなんて思いません。ギルバーツさんは真っ黒じゃないですよ。綺麗ですよ。紫や青、緑などに光ってとても綺麗じゃないですか」
意識して見たことがないから、気づかなかった。言われてみれば確かに真っ黒ではないかもしれない。左の翼を見て、紫に光っている。俺の体は真っ黒だと思っていたけれど、確認してみれば違うのだということがわかった。
ロベリアさんに言われなければ、ずっと気づくことはなかったかもしれない。自分の体をじっくり見ようと思ったこともないのだから。
「そう言えば、ロベリアさんから頂いたクッキーとても美味しかったです」
「本当ですか!?」
母親に教えられながら、全て1人で作ったのだと言う。今まで一度も作ったことがなかったため、味見はしたけれど美味しくなかったらどうしようと思っていたと言うロベリアさんは、俺の言葉に安心したようだった。
「サンドイッチも美味しかったですよ」
「私は包丁に触れることができないから、挟んだだけですけど、美味しかったなら、よかったです」
どうして包丁に触れることができないのか。疑問に思いながらも問いかけることはしなかった。言いたくないことかもしれないと思ったからだ。
誰にでも言いたくないことはある。俺の右の翼のように、できれば人に話したくはないことくらいロベリアさんにだってあるだろう。
「それじゃあ、私も話します」
「何を?」
そう思っていると、大きく息を吐いてから言ったロベリアさんの言葉に俺は首を傾げた。いったい何を話すというのか。
「ギルバーツさんが両親のことを話してくれたから、私もどうして『悪役令嬢』と呼ばれているのか……包丁に触れることができないのかを……」
この話の流れからしてそれしかないだろうということはわかっていた。けれど、俺が両親のことを話したから話してくれると言うのは、本当は嫌なのではないかと思った。
無理に話さなくてもいい。そう言おうとして口を開く前に、ロベリアさんが俺の目を見て口を開いた。
「ギルバーツさんは、私が『悪役令嬢』と呼ばれていると知っているんですよね」
「知ってるよ」
本人に行ったことは一度もないけれど、『悪役令嬢』と呼ばれていることは知っていた。けれど、ロベリアさんを知れば知るほど『悪役令嬢』とはかけ離れている気がしていた。
話してくれると言うのなら、どうして『悪役令嬢』と呼ばれているのかを知りたかった。
「時間の流れから、先に包丁に触れることができない理由から話しますね」
そう言ってロベリアさんは、学校に通っていたころの話しをはじめた。
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