17 / 61
第二章
第09話 お弁当箱
しおりを挟む約束の広場。
あの日別れた場所の側には、2人で腰かけることができるベンチがある。まだギルバーツさんが来ていないことを確認して、私はベンチに座ることにした。
国王騎士だから、ギルバーツさんは忙しいのだろう。必ず決まった時間に休憩がとれるわけでもないだろう。それに、休憩時間がなくなってしまうことのあるかもしれない。
だから、もしかすると来ないということもある。けれど、それは仕方のないこと。そう考えて、歩く者達に視線を向けた。
獣人族、鳥人族しか歩いていないため、人族の私へ視線を向ける者が多い。中には私を知って見ている者もいるのだろうけれど、街に住む全員が私を知っているわけではないので人族が珍しくて見ている者もいる。
人族が全くいないというわけではないのだけれど、あまりいないため珍しいのだ。それに、人族は年々少数ずつ街から出て行っている。それがどうしてかなんて、何となくだけどわかる。
まるで、珍獣を見るかのような目をして見られるのが嫌なのだ。だから、人族も多く暮らしている街に引っ越してしまうのだ。見られるのは仕方ないとは思うけれど、それを耐えられるか耐えられないかはそれぞれなのだ。
――私は慣れてしまったから、気にしてないけれど。
そう思いながら見ていると、視界の端に待っていたギルバーツさんの姿が映った。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません」
「いいえ、大丈夫ですよ。気にしないでください」
謝り、隣に座るギルバーツさんは急いで来てくれたようだ。息を切らしているため、急いで来てくれただけでも私は満足だ。べつに謝られなくても構わなかった。
「急いできてくれただけで充分です。それに、忙しいんですよね」
「じつは、仕事が終わらなくて……」
「それじゃあ、持って行って食べてください」
「え?」
私の言葉にギルバーツさんは驚いたようだった。ギルバーツさんの言葉に私は、まだ仕事が終わっていないということがわかってしまったのだ。
仕事がどんなことなのかはわからないけれど、私と約束をしていたから仕事を中断してまで来てくれたのだ。約束を守ってくれた。
忙しかったのなら、約束をすっぽかしてもよかったのだ。来ないのなら、忙しいのだろうと思うのだから気にしなくてもいい。けれど、私もきっと忙しくても約束をしているのだから来るだろう。ギルバーツさんもそうだったのだ。
仕事をしながらサンドイッチを食べることができるのかはわからない。けれど、昼食を抜いては仕事に集中することができないだろう。
「これを食べながらできるのかはわからないので、休憩室で食べて仕事をしてください」
バッグからお弁当箱を取り出し、ギルバーツさんに差し出すと受け取ってくれた。受け取らないという選択肢はなかったようだ。
「持って行っていいのかい?」
「はい。お弁当箱の中身はサンドイッチです。私は野菜とか挟んだだけですけ」
「ありがとう。この埋め合わせはするよ」
「気にしないでください。お仕事、頑張ってください」
「本当にありがとう。お弁当箱は洗って返すよ」
そう言って頭を下げると、ベンチから立ち上がりお弁当箱を持っていない手を振ってギルバーツさんは足早に戻って行った。急いで戻るほど忙しいのだ。
次会う約束はしていないけれど、またすぐ会える気がしていた。何故なら、埋め合わせをすると言っていたから。それだけじゃなく、お弁当箱もあるから。
ギルバーツさんの姿が見えなくなると私もベンチから立ち上がって家へと向かった。とても気分がよくて、父様の存在を忘れていた。だから、帰宅して父様に声をかけられるとは考えてもいなかった。
空を見上げるといつの間にか、今にも雨が降りだ出しそうな雲に覆われていた。
0
お気に入りに追加
237
あなたにおすすめの小説
どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら
風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」
伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。
男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。
それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。
何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。
そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。
学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに!
これで死なずにすむのでは!?
ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ――
あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?
契約結婚の相手「愛人を作ってもいい!贅沢をしてもいい!だから、とにかくあらゆる言葉で俺の自尊心を保ってくれ!それが俺の条件だ!」
下菊みこと
恋愛
結婚して日が浅いのに夫の浮気で離婚した幸薄女性の二度目の結婚。
一度目の結婚に失敗したジゼル。ファビアンという男と契約結婚することに決める。…が、なにやらめんどくさい条件を突きつけられた。どうする、ジゼル!?
小説家になろう様でも投稿しています。
捨てられた令嬢と錬金術とミイラ
炭田おと
恋愛
ルシヨンの領主の娘、カロルは、婚約者を友人に奪われ、父を亡くした直後、今度は領地と財産を叔父に奪われて、絶望のどん底にいた。
そんな時、町では知らない人はいないと言われるほど有名だった女傑、アンティーブ辺境伯夫人が何者かに殺害されるという事件が起こる。
たまたま王宮を訪れて、自分の推理を話したカロルは、偶然、話を聞いていたノアム陛下に能力を認められて、アンティーブ辺境伯夫人を殺害した犯人を捜してほしいと頼まれた。
犯人を見つけることができたなら、見返りとして、ノアム陛下が領地と財産を取り戻す手伝いをしてくれると言う。
隠し部屋、錬金術、ミイラ――――次々と出てくる事実に戸惑いながらも、領地を取り戻すため、カロルは奔走する。
41話で完結です。
毎日、12時、18時、22時に一話づつ更新します。
一部暴力的、グロテスクと感じる表現があるかもしれません。
ごめんなさい、全部聞こえてます! ~ 私を嫌う婚約者が『魔法の鏡』に恋愛相談をしていました
秦朱音@アルファポリス文庫より書籍発売中
恋愛
「鏡よ鏡、真実を教えてくれ。好いてもない相手と結婚させられたら、人は一体どうなってしまうのだろうか……」
『魔法の鏡』に向かって話しかけているのは、辺境伯ユラン・ジークリッド。
ユランが最愛の婚約者に逃げられて致し方なく私と婚約したのは重々承知だけど、私のことを「好いてもない相手」呼ばわりだなんて酷すぎる。
しかも貴方が恋愛相談しているその『魔法の鏡』。
裏で喋ってるの、私ですからーっ!
*他サイトに投稿したものを改稿
*長編化するか迷ってますが、とりあえず短編でお楽しみください
溺愛されても勘違い令嬢は勘違いをとめられない
あおくん
恋愛
巷で人気が高いと評判の小説を、エルリーナ公爵令嬢は手に取って読んでみた。
だがその物語には自分と、婚約者であるアルフォンス殿下に良く似た人物が登場することから、エルリーナは自分が悪役令嬢で近い将来婚約破棄されてしまうのだと勘違いしてしまう。
「お父様、婚約を解消してください!」から始まる公爵令嬢エルリーナの勘違い物語。
勘違い令嬢は果たして現実を見てくれるのか。
そんな一冊の本から自分は第一王子とは結ばれる運命ではないのだと勘違いする令嬢のお話しです。
ざまぁはありません。皆ハッピーエンドです。
いつも一人称視点で書いているので、三人称視点になるように頑張ってみました。
楽しんでいただけると嬉しいです。
全7話
愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。
悪役令嬢は、初恋の人が忘れられなかったのです。
imu
恋愛
「レイラ・アマドール。君との婚約を破棄する!」
その日、16歳になったばかりの私と、この国の第一王子であるカルロ様との婚約発表のパーティーの場で、私は彼に婚約破棄を言い渡された。
この世界は、私が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界だ。
私は、その乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。
もちろん、今の彼の隣にはヒロインの子がいる。
それに、婚約を破棄されたのには、私がこの世界の初恋の人を忘れられなかったのもある。
10年以上も前に、迷子になった私を助けてくれた男の子。
多分、カルロ様はそれに気付いていた。
仕方がないと思った。
でも、だからって、家まで追い出される必要はないと思うの!
_____________
※
第一王子とヒロインは全く出て来ません。
婚約破棄されてから2年後の物語です。
悪役令嬢感は全くありません。
転生感も全くない気がします…。
短いお話です。もう一度言います。短いお話です。
そして、サッと読めるはず!
なので、読んでいただけると嬉しいです!
1人の視点が終わったら、別視点からまた始まる予定です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる