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という夢を見た。
……ふむ。
どうやら俺はもう末期らしい。
だが変態がいなければ人類は滅びていく運命なわけだし、変態が歴史を作ってきたわけだし。
変態というのは世界平和と宇宙の存続のために必要不可欠と言っても過言ではないわけだし?
だから変態は避けられるよりむしろ賞賛されてしかるべきだし。
人類皆変態。
……お薬出しときますね。
えぇ、メガネって伊達だったのかよ?! 茶髪の声は階段まで響いていた。
俺はチャイムに急かされながら教室に入る。
まんじゅう!? まんじゅうの驚いた声が教室に響いている。
「おはよー」
俺は普通に普段通りにいつもみたいに、挨拶をした。
自然だった。
俺はまるで風景の一部になったかのように溶け込んでいた。
平和だった。
平和なはずだった。
「じゃあなんで眼鏡してんの?」
笑いながら茶髪が話す。
「まんじゅう?」
まんじゅうも言う。
自然すぎて違和感がないくらいに。
「……自我、ですかね」
「は?」「まんっじゅう?」
「おい」
俺は存在を主張するためだけに声を張る。
「自我の確立ですよ。眼鏡をかけることで私は自我を保っているのです」
「おいって!」
茶髪の肩を揺する。
茶髪は今日初めて俺を見たような目で見る。
なんだよ、その目。
「おお、どうした?」
どうしたじゃねーよ、と俺は呟く。
なんでそんなに平然としてられるんだ。
「つかさ、お前」
「……何」
伊達メガネとまんじゅうも無表情で俺を見ている。
「ウゼーんだよ」
は?
今、なんて
「ウゼぇ、クズが」
クズが。
クズがクズがクズが。
息が詰まりそうになっていた。
何か思い塊を、無理矢理胸の奥に押し込まれたみたいに。
「ってかメガネ? 自我って何なの」
茶髪は自然に会話に戻る。
「自我と言いますか、自己……自意識……」
「難」
「確固たる自分の維持、とでも言いましょうか」
わかんね、と茶髪が諦める。
ですから周囲との関係を築きつつも自分は失わない、といった自意識なのですよ、とメガネが余計にわからなくする。
まんじゅう、とまんじゅうが言う。
普通だ。
でも、其処に俺はいない。
俺は風景として背景として景色として、ただ突っ立っている。
輪の中に入れようはずもない。
「で、自我? がどうしたの?」
「眼鏡をかけると、世界と壁を作れるのですよ。そして世界と自分を区切ることで自我を保つのです」
「なるほどな」
世界との境界線、ですかね。
うんわかった、わかったから。
まんじゅう?
そう、まんじゅう、そういうことです。
やべ、まんじゅうので余計わかんなくなったわ。
1人と1眼鏡と1饅頭は輪を作って話す。
ああ、もう此処に俺の居場所はないんだな、と。
俺は何処か遠くから、彼らを見ている。
俺と彼らは別の生き物で。
ひとつになれるはずなんて最初からなくて。
今までの楽しかったはずの思い出も、結局は表面だけの関係で。
でも俺は、こんな関係に依存してて。
こんな関係がいつまでも続くんだろうな、って能天気に思ってて、何処にもそんな保証などないのに。
「要は、世界と自分をわけるのですよ」
「まんじゅう」
「は?」
「眼鏡をかけて自分と自分以外の世界を区別することで、明確な自我を保っているのです」
「ほーん」
まんじゅう、とまんじゅうが言う。
ゴミのようにゴミのようにゴミのように。
ゴミのような3つの生き物が俺の外側で動く。
俺はひとりだ。
……ふむ。
どうやら俺はもう末期らしい。
だが変態がいなければ人類は滅びていく運命なわけだし、変態が歴史を作ってきたわけだし。
変態というのは世界平和と宇宙の存続のために必要不可欠と言っても過言ではないわけだし?
だから変態は避けられるよりむしろ賞賛されてしかるべきだし。
人類皆変態。
……お薬出しときますね。
えぇ、メガネって伊達だったのかよ?! 茶髪の声は階段まで響いていた。
俺はチャイムに急かされながら教室に入る。
まんじゅう!? まんじゅうの驚いた声が教室に響いている。
「おはよー」
俺は普通に普段通りにいつもみたいに、挨拶をした。
自然だった。
俺はまるで風景の一部になったかのように溶け込んでいた。
平和だった。
平和なはずだった。
「じゃあなんで眼鏡してんの?」
笑いながら茶髪が話す。
「まんじゅう?」
まんじゅうも言う。
自然すぎて違和感がないくらいに。
「……自我、ですかね」
「は?」「まんっじゅう?」
「おい」
俺は存在を主張するためだけに声を張る。
「自我の確立ですよ。眼鏡をかけることで私は自我を保っているのです」
「おいって!」
茶髪の肩を揺する。
茶髪は今日初めて俺を見たような目で見る。
なんだよ、その目。
「おお、どうした?」
どうしたじゃねーよ、と俺は呟く。
なんでそんなに平然としてられるんだ。
「つかさ、お前」
「……何」
伊達メガネとまんじゅうも無表情で俺を見ている。
「ウゼーんだよ」
は?
今、なんて
「ウゼぇ、クズが」
クズが。
クズがクズがクズが。
息が詰まりそうになっていた。
何か思い塊を、無理矢理胸の奥に押し込まれたみたいに。
「ってかメガネ? 自我って何なの」
茶髪は自然に会話に戻る。
「自我と言いますか、自己……自意識……」
「難」
「確固たる自分の維持、とでも言いましょうか」
わかんね、と茶髪が諦める。
ですから周囲との関係を築きつつも自分は失わない、といった自意識なのですよ、とメガネが余計にわからなくする。
まんじゅう、とまんじゅうが言う。
普通だ。
でも、其処に俺はいない。
俺は風景として背景として景色として、ただ突っ立っている。
輪の中に入れようはずもない。
「で、自我? がどうしたの?」
「眼鏡をかけると、世界と壁を作れるのですよ。そして世界と自分を区切ることで自我を保つのです」
「なるほどな」
世界との境界線、ですかね。
うんわかった、わかったから。
まんじゅう?
そう、まんじゅう、そういうことです。
やべ、まんじゅうので余計わかんなくなったわ。
1人と1眼鏡と1饅頭は輪を作って話す。
ああ、もう此処に俺の居場所はないんだな、と。
俺は何処か遠くから、彼らを見ている。
俺と彼らは別の生き物で。
ひとつになれるはずなんて最初からなくて。
今までの楽しかったはずの思い出も、結局は表面だけの関係で。
でも俺は、こんな関係に依存してて。
こんな関係がいつまでも続くんだろうな、って能天気に思ってて、何処にもそんな保証などないのに。
「要は、世界と自分をわけるのですよ」
「まんじゅう」
「は?」
「眼鏡をかけて自分と自分以外の世界を区別することで、明確な自我を保っているのです」
「ほーん」
まんじゅう、とまんじゅうが言う。
ゴミのようにゴミのようにゴミのように。
ゴミのような3つの生き物が俺の外側で動く。
俺はひとりだ。
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