上 下
47 / 48
七つの厄災【不安編】:不安は心配からくるらしいですよ

魔人再生

しおりを挟む
 何人かの冒険者が誰かの名前を叫ぶ。不幸の厄災に乗っ取らっれた男の名前だろう。その男はもう――俺が警告をあげる間もなく、厄災が右手を振るう。

「ぬん!」

 厄災と仲間だった冒険者との間に巨大な手斧が現れ、血の弾丸がいくつもの穴を穿つ。 

「気をつけろ! 乗っ取られている!」

 遅れて俺が警告するが、冒険者達はうろたえたまま。俺と英雄の差ってことか。

「皆、こんなに俺のことを思ってくれるなんて、優しいねぇ~」

 男の口調なんだろう。聞こえてくる声と口調にますます仲間の冒険者がうろたえる。だが、そいつはもう、不安の厄災だ。もう一度右手を振るう。今度は血の斬撃を飛ばし、斧ごと仲間たちを斬った。冒険者達が呆然とした表情で崩れ落ちる。

「てめぇ!」

 地上にいる今なら俺でも攻撃できる。ダッシュで一気に距離を詰め、不意打ち気味に太刀を振るう。金属音がして厄災が右手で――いや右手から薄っすらと滲んだ血が太刀を受け止めていた。滲みでる血の量が増え太刀から煙があがる。咄嗟に厄災を蹴っ飛ばして後ろに下がる。

「咄嗟に入った体だが。この野郎――たいした力を持っていねえじゃねえか」

 厄災が悪態をつく。まだ、あの男の体に戸惑っているようだ。だが、太刀は効かないどころか、下手すると喰われる。どうする? 

「スピニングアロー!」 

 俺が考えていると、エウリュアが矢を放つ。厄災は腰から短剣を抜き矢を弾く。

「おぉ! 飛び道具無効か! これは使えんじゃねーか?」

 厄災は戦闘そっちのけで喜び、品のない言葉で嗤らっている。
 飛び道具無効のスキル。以前、森で戦った冒険者が持っていた奴だ。対処法は――。
 俺は箱から滅魔封神の矢を数本取り出し、指の間から鏃が飛び出すように握り込む。

「また、手で矢を投げんのかぁ? もう俺に飛び道具は効かねぇぜ!」

 厄災が俺の手の矢を見て、また投げると思ったようだ。思考能力まで取り付いた奴のレベルになるみたいだな。残念――この矢は、ままぶん殴る為に使う! 投げなければ、飛び道具無効のスキルが発動しないのは、確認済みだ。余裕ぶっこいた厄災の表情を思いっきり殴り飛ばす。鏃で頬が切れたみたいだが、そのくらいは後で回復してもらってくれ。
 そして、――男の傷口から血が溢れ、飛び出してくる。予想通りだ!

「エウリュア! 魔法を!」

「光よ集いて刃となれ――ブーストエッジ!」

「受け取りなさい。ノゾム君」

「メディも! 神聖武器ホーリーウエポン!」

 俺が叫びエウリュアが魔法を唱える。モイラさんがエウリュアごと吹っ飛ばして、エウリュアの手が太刀を撫でた。青白く輝く刀身に、メディの魔法が届いてさらに輝きを増す。

「これで終わりだ! 厄災!」

 男の上に飛び出した血の球を、エウリュアと二人で斬る。さらに俺が流水歩で微塵切りにする。もう何もさせない。すばやく【箱】を開けると、血は光の粒に変わって吸い込まれた。
 冒険者達から歓声があがる。頬を切り裂かれた男が気が付き、仲間に回復魔法をかけてもらっている。仲間の方も斧が在った分、浅い傷で済んだようだ。

 厄災が全て箱に取り込まれると、俺の目にいくつもの映像が見えてきた。不安の厄災の記憶だ。
 遺跡の封印の部屋で、不安の厄災がネズミの姿で辺りを嗅ぎ回っている。封印されたデルフィニアの体に取り憑こうとしているようだが、うまくいかないらしい。
 ネズミがチロチロと首から流れ出る血を舐めた。次の瞬間、ネズミの体が弾け飛び、流れ出た血が球に成って、森まで飛ぶと、森の動物を手当たり次第に吸収していく。動物達を糧に増えた血が二つに分かれ、一つはデルフィニアに、一つは血のスライムへと姿を変えた。血のスライムはデルフィニアを一瞥すると、そのまま地面に潜って眠りについた。

「モイラ姉様、ご無事で何よりです」

 聞き覚えのある声が響き、俺の意識が急激に戻ってくる。空を仰ぐと瞳を潤ませたデルフィニアが両手を組み、しなを作って浮いていた。最初に会った時と同じく、赤い服に巨大な杖を手に持っている。

「封印のおかげで体は奪われずに済んだのですが、血を押さえられて、逆らうことができなかったのです」

 デルフィニアが身をくねらせて言う姿に、目を奪われそうになる。このパターンはやばい。金縛りだ――気づいたが一瞬遅く、デルフィニアの目が赤く光る。

「皆さん、騙されちゃ駄目よ。古代の都市を攻めて封印されたデルフィは――

 モイラさんの一言で金縛りが解ける。魔力を込めた言葉だったらしい。金縛りを破られ、デルフィニアがうふ、うふふと嗤う。

「デルフィはこんなにモイラ姉様をお慕いしておりますのに。姉様の言いつけ通り都市への攻撃はやめましたし、長い封印にも耐えたのに――」

 え? デルフィニアは滅魔封神の弓と矢で倒したんじゃないの? 俺が唖然としたままモイラさんを見ると、俺の表情を見て悟ったモイラさんが愚痴る。

「あんな弓と矢じゃちょっと痛いだけで、魔法を壊されるほうが嫌がってたわ」
 
「凛と戦う姉様の姿に心を奪われて、何の抵抗もできずに押し倒されてしまいましたの」

「紛らわしい言い方すんじゃねえ! デルフィ!」

「うふ、うふ、うふふ」

 怒りのモイラさんが、大量の魔法陣を展開させるも、すぐさま掻き消えていく。

「姉様の魔法陣はいつ見ても素敵! でも、もう構成を覚えちゃったから、消すのは簡単ですの」

「無駄に天才なんだから……」

 モイラさんの眉間を汗が伝い、淋しそうにつぶやく。消耗した体で魔法陣を展開させたのが堪えたらしく、肩で息をしている。そんなモイラさんから目を逸らし、今度はエイレーネに向かってデルフィニアが言う。

「エイレーネ。いや、英雄! モイラ姉様は必ず取り返します! 首を洗って待っていなさい!」

「はっ! できるものなら、いつでも来い!」

 エイレーネさんが鼻で笑い啖呵を切る。デルフィニアが、口が裂けたような微笑みを浮かべ――消えていった。

「行ったみたい」

 モイラさんが辺りを探ってホッとする。俺の力も抜けていく。エウリュアと目があってお互いに笑い合う。

「終わったな!――この国」

「えぇ、王も貴族も何もかも」

 俺とエウリュアがいい笑顔でうなずき合う。王城も王も貴族もいなくなったこの国が、これからどうなるかなんて、俺達の知ったことじゃないからな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

一人になってしまった回復術師は世界を救う

新兎丸
ファンタジー
勇者メルと一緒に旅をしていた回復術師テラはある町で強引に離れ離れとなってしまった。 お人好しの勇者メルと回復術師は強引に引き離され、勇者メルと回復術師テラは別々の道を歩む事になる。 勇者メルはパーティーを組んだ者達と魔王を退治に行き、一人になってしまった回復術師テラは1人で更なる強敵と戦う事になる。 テラの行く道には常に困難が待ち受けておりそれを乗り越えて1人で世界を救うために旅をしていく。 1話目だけ長いです。 誤字脱字等がありましたら修正しますので教えて下さい。

処理中です...