上 下
37 / 48
七つの厄災【不安編】:不安は心配からくるらしいですよ

遺跡探訪

しおりを挟む
 遺跡の場所はエイレーネが知っていた。
 十数年前、隣国との戦場だった国境付近で、隣国を守護するドラゴンが暴走した事件があった。ドラゴンは理性を失い、敵味方の区別なく攻撃、生き残ってたのは討伐した英雄のみとなっている。――が、エイレーネが教えてくれた真実は違った。そこには二人いたんだ。英雄と――古代魔術を使う古代人、モイラさんだ。
 その戦場に遺跡があったんだ。理由はわからねぇが遺跡に眠っていたモイラさんは、英雄とドラゴンの戦いの余波で目覚めた。どんな理屈かわからないが、モイラさんは目覚めた時点で状況を理解していたそうだ。
 モイラさんは英雄に力を貸したが改造されたドラゴンは強く、かなりの死闘の末ドラゴンを石化して倒した。それが『悲哀の厄災』に変ったのは――別の話だ。

 王都から遺跡まで一週間、エイレーネに紹介してもらった馬車で三日の距離。俺達は、馬車に堅固プロテクション、馬に肉体強化ブーストフィジカル速度増加スピードアップをかけて一日でプロタトスまで戻った。そこから更に一日、『悲哀の厄災』と戦った森のダンジョンより隣国に近い側、そこに遺跡がある。
 
 パルテノン神殿――古代ギリシャ時代に作られたドーリア式建造物。建物自体が芸術品。そんなことを思わせる見事な建物が、同心円状にいくつも規則正しく並び一つの都市を作っている。中央には神の像――ってことはパンドラか? ――があったようだが、ドラゴンの寝床になっていたようで潰れてしまって右手だけが転がっていた。今は誰もいないようだが、時々、冒険者が神殿を漁って、今の時代では製法が途絶えてしまった古代の魔道具を持ち帰り、一財産築いたり築けなかったりするらしい。

「結構広いな」

「地下があるはずだよ。お父さんが言っていた」

 端から適当に探索し、地下への入り口を探す。入り口自体はあちこちにあるらしいからな。
 
「あ、あれじゃない?」

 エウリュアが何かを見つけ指を差す。先には地下へ降りる階段が床にむき出しになっていた。覆っていた建物は壊れてしまったらしい。地下鉄の入り口みたいだな。
 エウリュアが、ふと、足を止めて上を見上げた。

「あれが母さんの眠っていた神殿なのよね」

 俺達の目の前の青空には、縦横200メートルくらいの巨大な岩が浮かび、その上に神殿が建っていた。遠目に見ても地上にある建物より更に装飾が施されているのがわかる。

「見に来たことないのか?」

「危ないからね。話に聞いていただけで来たのは初めて。立派な神殿よね」

「そうか――そうだな。凄い神殿だ」

「お兄ちゃん、お姉ちゃん!はーやーくー!」

 見るとメディが地下への入り口付近で待っていた。俺達は慌てて駆け寄り、三人で地下に降りていった。


 俺達が地下で探すのは、この都市の人々が埋葬されているネクロタフィオ墓地だ。なんでこんな言葉知ってるかって? ふにゃけ顔の同級生のおかげだな。
 地下は地上と同じく石組みで、道幅は地下とは思えないほど広かった。明かりの魔道具が設置されていたと思われるくぼみが、等間隔で壁に空いている。

光球ライティング!」
「光よ集いて標となれ……光球ライティング!」

 メディとエウリュアが明かりの魔法を唱え、光球が地下道を明るく照らす。道幅が広すぎて一つではほとんど役に立たない。

「ここまで大きい場所なら、案内用の地図とかないか」

「案内図ねぇ。戦争があったならもうないんじゃないの?」

「あ、お兄ちゃんこれ、地図じゃないかな」

「お、どれどれ? ん? ガラス――水晶の板かこれ? メディ? どうしてこれが地図だって思うんだ?」

「下に古代文字で書いてあるから。ここに指をあてて魔力を流すみたい」

 メディは水晶版の下にあった小さな丸い金属板に指を当てると、魔力を流し込んだらしい。魔力が感じられない俺にはわからん。
 一、二秒ほど待つと水晶板が青白く輝き出し、この一体の地図と区画の説明が浮かび上がった。

「どれが墓地だかわかるかメディ?」

「もちろん! この道を突き当たりまで行くと更に下に降りられる階段があるみたい」

 メディが指差す先をみると階段らしきものをを示すマークがついている。縮尺がよくわからない為、突き当りまでの距離はわからない。
 奥を眺めてみても、突き当りまでは光が届かず真っ暗だ。

「ノゾム、敵よ! 光よ集いて刃となれ――硬刃鋭化ブーストエッジ

 エウリュアの手が剣の表面を滑り、刀身が青く光輝く。

「どこからだ? なんの意識も気配も感じなかったぞ?」

「この道の奥! ライティング!」 

 メディが光球を操作して道の奥へ飛ばす。光球に照らされて現れたのは人――ただし、透けている。
 半透明になった人達が空中を漂いながら近づいてくる。俯いて長い髪に顔が隠されている女や、顔が半分吹き飛んでる男、片足を失った短躯の髭面と、遺跡に訪れて死んだ元冒険者達とひと目で分かるような格好だ。極めつけに――どいつもこいつも目が真っ赤に光ってやがる。

 こいつらってやっぱり――幽霊――だよな?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...