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七つの厄災【不安編】:不安は心配からくるらしいですよ

英雄転生

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「話を聞こう!」

 食堂に戻った俺達はエイレーネに事情を説明した。プロタトスであった石化病のこと。隣国で改造された竜のこと。それらがすべて厄災でつながっていたこと。そして――デルフィニアが厄災かそれに従う者である可能性。

「なるほど。それで、なにか証拠は?」

「ない!」

 俺ははっきり答える。証拠はない――。あの日、モイラさんの部屋でやりあったのが全てた。デルフィニアの証言を記録するような魔道具も持っていない。エウリュアもメディも首を横にふる。

「わかった。ならば証拠探しから始めれば良いのだな。しかし、それでは時間が掛かるぞ」

「――俺達の話を信じるのか? 相手は王宮魔術師。妬んだ俺の嘘かもしれないぞ」

「ん?――あっはっはっはっは! ノゾム! お前の剣――太刀といったか? そいつを使って嘘はつけん。お前の太刀は、困難があったなら、その困難に真っ直ぐ叩きつける。そんな太刀だった。少なくとも妬むような性格はしとらん。違うか?」

 手斧の攻撃に対する俺の対応のことを言っているんだろう。命をかけたその瞬間にこそ、その人物の本性がでる――ってか? 本当に一二歳なのかよ。

「――ありがとう、エイレーネ! エウリュア、メディ、こんな人を見つけてくるなんて、お前らの母さんはすごいな!」

 こんな傑物はめったにいない。それこそどこかの英雄になるような人物だ。

「もちろん! メディのお母さんだもの!」

「そうね! 私も負けてられない!」

 俄然俺達のやる気があがってきた。全部エイレーネのおかげだ。実力だけじゃない。落ち着きといい、胆力といい、気概といい。どれも産まれて一二年じゃ身につけられるモノじゃない――あ、もしかして?
 俺は、今思いついた言葉を口にする。

「エイレーネ、もしかして転生者か?」

「くははっ――やっと気付いたか。私は前世で英雄と呼ばれていた。その頃の名前は――【ルセウス=レー】という」

――え? 驚いて固まる俺達。

「父さん!?」

「お父さん!?」

「お義父さん?」

――ブチッ――

「ほう、私をお義父さんと呼ぶかノゾム――死ぬ覚悟はできているんだろうなぁ!?」

 エウリュアとメディが驚く。だが、驚いて思わず出た俺の言葉は、エイレーネ――お義父さんの逆鱗に触れてしまったようだ。
 
 エイレーネの目が赤く光ったように見え、腰の剣が抜かれ――すでに抜かれている!? 抜くところ見えなかったぞ!?



「とりあえず、ノゾムのことは後にして! 今は母さんのことでしょ!?」

「うむむむむ。わかった。あとで覚えておけよ! ノゾム!」

 指差すな! ――まったく、さっきまでの威厳はどこに行ったんだ。俺の感動を返せ!
 あれから俺は、小一時間ほど、根掘り葉掘りエウリュアとの関係を聞かれ、それから嫁入りの娘に手を出すなと脅され、エウリュアの助けでやっと介抱された。
 まさか、エイレーネ――さんが元英雄で、元エウリュア達のお父さんで、今は宮廷騎士団の団長で少女とか、もう、わけがわかんねぇ!

「あれ? お父さん、今一二歳ってことは――、メディより二年早く産まれたんだよね。でも、メディが九歳までは一緒にいたはずだよ? どうゆうこと?」

 メディが疑問を口にする。確かに聞いた話だと、英雄が死んだのはここ半年くらいの事だったはずだ。

「詳しくは私にもわからん。ただ、前の記憶を思い出したのが丁度半年前だ。何か関係あるかもしれんな」

「うーん、何かお父さんと私達しか知らない思い出ってある?」

 メディ――まさか、エイレーネさんを疑っているのか?

「ん? ――そうだな。確か、メディがおねしょしなくなったのは五歳だったな。エウリュアは二歳ちょっと前、ステンが八歳。どうだ?」

「ちょちょちょっ!?」

「父さんやめて!」

「むぐぐ――」

 エウリュアとメディが慌ててエイレーネの口を塞ぐ。傍から見てると女の子三人で微笑ましい。

「で、答えはあっているの?」

「――、一応」

「ふえーん」

 恥ずかしそうに目をそらして答えるエウリュア。メディは半泣きだ。父親を疑った仕返しだな。とりあえず、エイレーネさんはエウリュア達のお父さんで間違いなさそうだ。
 それから、俺達はしばらく楽しい話を続けた。エウリュア達もエイレーネさんも嬉しそうだ。前世とはいえ親子だしな。ひと通り昔の話で盛り上がり、一息ついたところでエイレーネさんが真面目な顔になった。
 
「モイラを助けるには、宮廷魔術師デルフィニアをどうにかしないといかん。さっきの話でもそうだったが、それ以上に王がデルフィニアの言いなりになってしまっている」

「確かに見ました。デルフィニアが王に進言すると同時に目が赤く光り、その直後、王様の意見が変ってしまいました」

「ノゾムも見たか。おそらくあれはモイラと同じ古代魔術だ。そして、それを扱えると言うことは、デルフィニアは"古代人__ハイヒューマン__"――かもしれん」

 "古代人__ハイヒューマン__"。――今から一万年以上前、この世界に暮らしていた人達の総称。現代人より比べ物にならないくらいの魔力を操り、高度な文明を持っていて、その力を戦争に使い一夜で滅んだ人達。全部、メディからの受け売りだけど。

「でも、お母さんは封印されていたから別として、もう古代人なんて居なくなったんじゃなかったの?」

「うむ、それがずっと疑問だったのだが――ノゾムが見たという悲哀の厄災の記憶の中に、石像になった竜が復活したという話があっただろう?」

「えぇ――まさか?」

「そうだ、石になった竜を復活させられる厄災なら、死んだ古代人の亡骸で復活できるのではないか?」

――誰だよ。考え事は苦手そうだなんて言ったやつ。キレッキレの脳みそじゃねぇか。

「可能性は――あるよね」

 メディがそう言って、エウリュアも頷いている。

「実は、モイラが眠っていた遺跡に、デルフィニアの名前が残っていた――らしい」

 皆がエイレーネの話に息を飲む。まったく手が出せなかったデルフィニアに、対抗できる方法がその遺跡にあるかもしれない。

「私もモイラから聞いた話で、詳しくはわからん。だが、もしそこにデルフィニアが眠っていたのであれば、遺体がなくなっているはずだ」

「そこに行けば、他にもデルフィニアを失脚させる情報が残っているかもしれないよね」

「ノゾム――一緒に行ってくれる?」

 エイレーネとメディの言葉にエウリュアが不安になって俺に尋ねる。困難があったなら、その困難に真正面からぶち当たる。それが俺の性分なんだろ? 当然、デルフィニアからも逃げたりしない。

「行こう! デルフィニアに一泡吹かせてやろう!」
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