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七つの厄災【悲哀編】:悲しみは積み重なるものらしいですよ
はじめましての挨拶はいらないらしいですよ
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宿屋に病人は三人いた。宿屋の店主とその奥さん――そしてエウリュアの妹メディ。
「またせてごめんね、アラーラ」
「大丈夫よ。約束通り両親の分まで薬を持ってきてくれたじゃない。さすがは英雄の娘ね」
アラーラは笑顔で薬を受け取り、すぐさま両親の部屋へ行った。アラーラはこの宿の店主の娘だそうだ。俺より頭二つくらい背が低く、同い年のエウリュアより幼く見える。
俺達はメディが寝ている部屋へ行く。寝込んでいた子は小さく幼い。顔色は大理石の様に白く呼吸も荒い。――話では高熱も出ているんだっけ。時折、うっ――と、苦しそうに呻く。
エウリュアがメディに石化病の薬をふりかける。すると苦しそうだった呼吸がすぐに落ちつた。こんな簡単に治るのに、貴族のせいで何日も苦しまないといけなかったのか。
「もともと、石化病は大した病気じゃないのよ。薬さえあればすぐに治まる」
エウリュアはホッとして言うと、優しくメディの髪を撫で続けている。別な部屋では、アラーラが両親に薬を使って、同じように回復している頃だろう。
「よかったな、エウリュア。これで俺の役目も終わりか」
「――! そ、そうよね。もう用事は済んだんだから、後はノゾムの自由にして」
お金も渡してしまったし、メディの容態も見届けた。つまり、俺がここにいる理由がなくなってしまったってことだ。エウリュアは一瞬戸惑った様だけど、落人の自由を保証する冒険者ギルドの意向に合わせるつもりのようだ。俺達は黙り込んだまま、お互いの顔を見つめ合っている。
俺は、こんな終わり方は嫌だ。
「エウリュア、俺……」
「あのさー」
意を決して俺が口を開きかけたその時、メディの体が緑の光に包まれた。
「これは回復魔法?」
いきなり光り始めたメディに驚いて、エウリュアがメディを抱きしめている。緑光は徐々に弱くなって、メディの体に吸い込まれていった。
「もう! 聞いててイライラする! お姉ちゃん!? せっかく彼氏ができたんだから離しちゃ駄目! メディも応援してるからね!」
「――えっ!?」
「――?」
俺はエウリュアを見る。エウリュアはメディを見てる。メディは、エウリュアを押しのけるとにっこりと笑った。
「ありがとう、お姉ちゃん。ノゾムお兄ちゃん」
「ノゾム――お兄ちゃん? いや、その前にどうして俺の名前を?」
「あー!! お腹空いた! ねぇ、お兄ちゃんあの熊肉まだ残ってるよね。メディも熊鍋食べたい!」
「――お、おう」
どういうことだ? 事態が飲み込めず、俺は思わず生返事をする。
「自分に回復魔法かけたんだよ。減ってた体力はこれでばっちり! でも、腹空は治らないからね。あ、そうだ、アラーラのお父さん達にも魔法かけてくるから皆で食べよーよ!」
「メディっ! よかった、こんな元気になって!」
元気に話すメディに感激したのか、エウリュアがメディに抱きつこうとする。しかし、メディは姉の抱擁をスルリとかわしてベッドを降り、そのまま廊下に出て行ってしまった。エウリュアはかわされると思っていなかったのか、勢い余ってベッドに倒れ込む。俺はそれを見て、吹き出してしまった。
「アハハハハ!」
みると、エウリュアも肩をプルプル震わせて笑っている。だが、その目には涙が溜まっていた。
「よかったな! エウリュア!」
「うん、ノゾムのおかげだよ!」
エウリュアの肩を抱きしめる。エウリュアも俺を抱き返してくれた。
「なぁ、俺もっとエウリュアと一緒にいたい。何かできることないか?」
「とりあえず、今はこのままでいて欲しい」
幸せそうに目をつぶるエウリュア――その顔をずっと見ていたい。俺は心からそう思った。
★☆★☆
「――全く! 私が居なくなったからって、すぐイチャイチャしちゃうなんて! あれで本当に別れる気だったんだから、本当に世話が焼けるお姉ちゃんだわ」
ドアの影で二人のことを愚痴って、私はアラーラのご両親がいる部屋に向かって行く。
私は病気で寝ている間、なんとか自力で治療できないか魔力でいろいろやってみたの。――そうしたら、魂が体から離れちゃったのよね。お姉ちゃんのことが心配だったから、魂だけであとをついていったんだけど、結局のぞき見だけで何もできなかった。
でも、――あの生真面目なお姉ちゃんが、彼氏つくるより先にあんなことにするなんて――思い出すとちょっと顔が熱くなってくる。悲しいことばかり続いていた私達にも、ようやく幸せがきたみたい。お姉ちゃんを傷物にしたノゾムお兄ちゃんにも、しっかり責任とってもらわないとね。
さてと、宿屋のおじさん、おばさんを回復させたら、近所の人達も治療してまわらないと――。私の情報網にも、石化病は広まっているし、もう少し薬がほしいかな。さっさとしないと、あの腐った貴族がどんな仕返ししてくるかわかったもんじゃない。
「ぐー」
あー、先になにか食べないと。お兄ちゃん――お姉ちゃんとイチャイチャし過ぎで、クマ鍋のこと忘れてないかしら? 二人ともすっかり色ボケしちゃったみたいだし、これからは私がしっかりしないとね。
「またせてごめんね、アラーラ」
「大丈夫よ。約束通り両親の分まで薬を持ってきてくれたじゃない。さすがは英雄の娘ね」
アラーラは笑顔で薬を受け取り、すぐさま両親の部屋へ行った。アラーラはこの宿の店主の娘だそうだ。俺より頭二つくらい背が低く、同い年のエウリュアより幼く見える。
俺達はメディが寝ている部屋へ行く。寝込んでいた子は小さく幼い。顔色は大理石の様に白く呼吸も荒い。――話では高熱も出ているんだっけ。時折、うっ――と、苦しそうに呻く。
エウリュアがメディに石化病の薬をふりかける。すると苦しそうだった呼吸がすぐに落ちつた。こんな簡単に治るのに、貴族のせいで何日も苦しまないといけなかったのか。
「もともと、石化病は大した病気じゃないのよ。薬さえあればすぐに治まる」
エウリュアはホッとして言うと、優しくメディの髪を撫で続けている。別な部屋では、アラーラが両親に薬を使って、同じように回復している頃だろう。
「よかったな、エウリュア。これで俺の役目も終わりか」
「――! そ、そうよね。もう用事は済んだんだから、後はノゾムの自由にして」
お金も渡してしまったし、メディの容態も見届けた。つまり、俺がここにいる理由がなくなってしまったってことだ。エウリュアは一瞬戸惑った様だけど、落人の自由を保証する冒険者ギルドの意向に合わせるつもりのようだ。俺達は黙り込んだまま、お互いの顔を見つめ合っている。
俺は、こんな終わり方は嫌だ。
「エウリュア、俺……」
「あのさー」
意を決して俺が口を開きかけたその時、メディの体が緑の光に包まれた。
「これは回復魔法?」
いきなり光り始めたメディに驚いて、エウリュアがメディを抱きしめている。緑光は徐々に弱くなって、メディの体に吸い込まれていった。
「もう! 聞いててイライラする! お姉ちゃん!? せっかく彼氏ができたんだから離しちゃ駄目! メディも応援してるからね!」
「――えっ!?」
「――?」
俺はエウリュアを見る。エウリュアはメディを見てる。メディは、エウリュアを押しのけるとにっこりと笑った。
「ありがとう、お姉ちゃん。ノゾムお兄ちゃん」
「ノゾム――お兄ちゃん? いや、その前にどうして俺の名前を?」
「あー!! お腹空いた! ねぇ、お兄ちゃんあの熊肉まだ残ってるよね。メディも熊鍋食べたい!」
「――お、おう」
どういうことだ? 事態が飲み込めず、俺は思わず生返事をする。
「自分に回復魔法かけたんだよ。減ってた体力はこれでばっちり! でも、腹空は治らないからね。あ、そうだ、アラーラのお父さん達にも魔法かけてくるから皆で食べよーよ!」
「メディっ! よかった、こんな元気になって!」
元気に話すメディに感激したのか、エウリュアがメディに抱きつこうとする。しかし、メディは姉の抱擁をスルリとかわしてベッドを降り、そのまま廊下に出て行ってしまった。エウリュアはかわされると思っていなかったのか、勢い余ってベッドに倒れ込む。俺はそれを見て、吹き出してしまった。
「アハハハハ!」
みると、エウリュアも肩をプルプル震わせて笑っている。だが、その目には涙が溜まっていた。
「よかったな! エウリュア!」
「うん、ノゾムのおかげだよ!」
エウリュアの肩を抱きしめる。エウリュアも俺を抱き返してくれた。
「なぁ、俺もっとエウリュアと一緒にいたい。何かできることないか?」
「とりあえず、今はこのままでいて欲しい」
幸せそうに目をつぶるエウリュア――その顔をずっと見ていたい。俺は心からそう思った。
★☆★☆
「――全く! 私が居なくなったからって、すぐイチャイチャしちゃうなんて! あれで本当に別れる気だったんだから、本当に世話が焼けるお姉ちゃんだわ」
ドアの影で二人のことを愚痴って、私はアラーラのご両親がいる部屋に向かって行く。
私は病気で寝ている間、なんとか自力で治療できないか魔力でいろいろやってみたの。――そうしたら、魂が体から離れちゃったのよね。お姉ちゃんのことが心配だったから、魂だけであとをついていったんだけど、結局のぞき見だけで何もできなかった。
でも、――あの生真面目なお姉ちゃんが、彼氏つくるより先にあんなことにするなんて――思い出すとちょっと顔が熱くなってくる。悲しいことばかり続いていた私達にも、ようやく幸せがきたみたい。お姉ちゃんを傷物にしたノゾムお兄ちゃんにも、しっかり責任とってもらわないとね。
さてと、宿屋のおじさん、おばさんを回復させたら、近所の人達も治療してまわらないと――。私の情報網にも、石化病は広まっているし、もう少し薬がほしいかな。さっさとしないと、あの腐った貴族がどんな仕返ししてくるかわかったもんじゃない。
「ぐー」
あー、先になにか食べないと。お兄ちゃん――お姉ちゃんとイチャイチャし過ぎで、クマ鍋のこと忘れてないかしら? 二人ともすっかり色ボケしちゃったみたいだし、これからは私がしっかりしないとね。
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