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七つの厄災【悲哀編】:悲しみは積み重なるものらしいですよ

はじめて会う貴族の印象が悪すぎるらしいですよ

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 翌日、朝遅くにふたりで起きた。
 流されるままやっちまった俺と違って、エウリュアの顔は晴れ晴れとしている。

「この後、薬をとりにいってから妹のところに行くの。一緒に来てくれるでしょ?」

「もちろん」

 熊肉を薄く切りパンで挟んだ朝食を食べ、昨日、熊の瞳を渡したお店に向かった。

 店に近づくと何やらやりあってる声が聞こえてきた。入り口には私兵らしき男も一人立っている。

「ここに石化病の薬があることはわかっているんだ! さっさとだせ!」

「あれは材料をもちこんだ客のものだよ! 渡すつもりはさらさらないね!」

「まだそいつは代金をはらっていないはずだ! 材料代も出すしそいつより高く買ってやる! さっさと薬をよこせ!」

 交渉とは程遠いやり取りが聞こえる。俺が店に入ろうとすると私兵が邪魔をしてきた。

「平民よ控えろ! 今はアダマンティオス辺境伯様の使いが取引中で、ぐあぁあ!」

 俺は無言で私兵の肩を掴むと、思いっきり握りつぶした。やっとできた薬を横取りしようするとは――どんな奴でも許せる気がしねぇ。

「ノゾム!」

 エウリュアが止めようと声をかけた時、すでに俺はドアを開けて中に入っていた。

「な、なんだお前は! 辺境伯の使いで来ている私に逆らうとこの街にいられなくなるぞ!」

「知ったことか! こちとらこの世界に落ちてきたばかりなんでな!」

 喚き散らす辺境伯の使いとやらの、頭髪の薄い頭を鷲掴みにして、ドスを聞かせた低い声で怒鳴る。殺気を混ぜるのも忘れない。ドアの外ではさっきの私兵が、肩の痛みと俺の殺気で倒れたようだ。兵士の様子を見ていたエウリュアも俺の殺気で固まっている。辺境伯の使いとやらは、あわあわ何か言っているが、翻訳が機能していないところを見ると、もう言葉になっちゃいないようだ。

「さて、邪魔者はとっとと出ていって貰おうか? 薬を受け取ったあとも用事があるんでね」

 鷲掴みにした指に力を少し加え、ミシッと音をさせてから離す。辺境伯の使いとやらは振り返ることもなく逃げていった。――おいおい、私兵も連れてけよ。

「ノゾム! 大丈夫?」

 使いと入れ違いにエウリュアがで入ってきて、俺に抱きついてきた。ちょっと心配させすぎたみたいだ。店員さんが面白そうに見てる。

「面白い! あの堅物な剣と魔法の保護者ツインズナニーが男に惚れたか」

「――!」

 店員にからかわれたエウリュアが慌てて俺から離れる。この店員さん、やたら背が高く、あのギルドマスターよりさらに頭ひとつくらいでかい。細くて赤いフレームのメガネがよく似合っている。

「悪かったわね。私だってそんな相手ができるなんて思ってもみなかったわ」

「くっくっく否定もしないか。これはかなり入れ込んだみたいだな」

「――!」

 エウリュアをからかって黙らせると、店員は俺の方を向く。

「坊主がエウリュアを落とした落人か。私はメデイア。よかったら名を教えてもらえるかい?」

「俺はノゾム=トキサカ。迷惑かけてすまなかった。早速だけど薬をもらえるか?」

「迷惑だなんてとんでもない。久しぶりにスカッとしたよ。こんなに愉快なのは何百年ぶりかねぇ」

 メデイアがくっくと笑う。この感じだと俺の殺気も効いてなかったぽいな? 家の古武術を継いだときは、こんなもん、この平和な時代にいつ使うんだとか思っていたのに……。この世界では俺より強い奴が一体どれだけいるんだか。

「薬はできてる。――で、製薬代は集まったのかい? 結構な金額になるよ」

「このお金でいくつ買える?」

 俺はエウシュアをちらりと見てから、袋ごとメデイアにお金を渡す。

「どれ……、そうだなぁ。おまけして一二個ってところか」

「ありがとう。さっきの貴族が知ったらびっくりする安さね」

「材料代を引いてるから、ちゃんと適正価格だよ」

 エウリュアがお礼を言って、大事そうに薬を袋にしまう。

「これで、全員助けられるのか?」

「どうだろう。足りなかったらその時考える」

「その金はそこの男のだろう? そんな使い方でいいのか?」

「いいんだよ。前払いで報酬貰っちゃったからな」

「……馬鹿」

 俺の説明に顔を赤くするエウリュア。その様子をみて笑うメデイア。

「くっくっくっ、ご馳走様だね。胸焼けしてくるからさっさと、妹のところにでも行っておくれ」

 俺達はメデイアの言葉に背中を押されてドアを出る。さっきの私兵が、ひょろい男に介抱されて立ち去るところだった。

「確かクリスって言ったか。ギルマスによろしくな!」

「貴族にこんなことして済むと思っているのですか?」

「だったらその貴族を呼んでこい。俺が話をつけてやる」

「ひぃっ!」

 ちょっと殺気をこめて脅すと、クリスは私兵を落として一目散に逃げていった。慌てた私兵がクリスの後を追って走っていく。あっ、こけた。

「クリスが薬の情報を貴族に流したのね」

「迷惑な話だ。あとで私からギルマスに報告しておくよ」

 メデイアが後始末をしてくれるそうだ。ここはお言葉に甘えておこう。なにせ俺達には、これから大事な用がある。

「了解。俺達は妹のところへ行こう」

「そうだね」

 急ぐ程ではないとは言え、薬が手に入った今、はやく妹を回復させたいはず。俺はエウリュアの手をとって、妹のいるという宿屋へ向かって走り出した。
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