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七つの厄災【悲哀編】:悲しみは積み重なるものらしいですよ

はじめて気持ちが通じたらしいですよ

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 彼女のお腹の虫が訴えから、スープを薦めたが、やはり言葉は通じていないらしく、こちらを見て驚いた顔をしている。鼻筋が通っていて彫りは深めだけど、あどけない表情が、若いことを教えてくれる。デニムみたいな分厚い生地でできた水色のワンピースを、幅広の革ベルトで押さえ、打刀くらいの長さの剣を紐でむすびつけてある。下は白っぽいピッタリとしたズボンでブーツに入っている。露出の少ない服なのに盛り上がった双丘の形がはっきりわかるほどで、あぁ、これ乳袋ってやつか。
 彼女は、おっぱいばっかり見ている俺の視線にまったく気付く様子もなく、転身して飛び出してきた草むらのほうを警戒している。俺も慌てて気配を探ると巨大な存在感が一つこっちに向かってきていた。
 なんでわかるかって?小さい頃から親父に不意打ちされまくっていたら、嫌でもわかるようになるよ。
 彼女が剣を抜き、何やらモゴモゴ言っている。そして、剣の根本から切っ先にむけてゆっくりと手を這わせていくと、手に沿って剣が青白く光っていく。

「グギャオ!!」

 叫び声とともに、草むらからクマ……のような魔物が飛び出してきた。目玉が三つもあるんだから魔物だよな。多分。彼女はクマに向かって、まっすぐブレのない太刀筋で剣を振り下ろすとクマの魔物が真っ二つになっていた。

「あ、やべぇ!!」

 俺はすばやくステップを踏んで、彼女の胸元に飛び込んできたウサギの角をがっしりと二本掴む。

「ふぅ、あぶねぇ。大丈夫か?」

「▼○■◆□!!」

 彼女は慌てたようにバックステップして、俺から距離をとる。それから俺が持っていたウサギに気が付くと、みるみる顔色が悪くなっていった。そりゃ死にかかっていたんだから無理もないか。クマの存在感がでかくって、ウサギの気配が感じにくくなっていたんだよな。

「○■□◆△……」

 うーん、彼女、何言ってるかわからないけど、多分お礼だよな。
 俺は手に持ったうさぎを互いにぶつけて気絶させると、クマの死骸の方へ放り投げた。そして、温かいウサギのスープをコップによそって彼女にさしだす。もう一つコップ出してスープをそそぎ、俺が先に少し食べる。最後に彼女をみて、にっこり笑ってサムズアップ!どうだ!これなら言葉が通じなくてもなんとかなるはず!

「ウゥ……●■◆▼……ウゥアアアァァァァ■◆▼アアァァァァ!!」

 そんな俺の予想に反して、彼女は大粒の涙をこぼし大声で泣き出してしまった。

 言葉が通じない以上……いや、言葉が通じていても、こんな場合は落ち着くのを待つしかない。幸いに魔物はもう近くにいなかったのか襲ってくることはなかった。正直いって、俺はこんなときどうすればいいのか全くわからない。困ってしまって、ウサギの解体を始めると、彼女は泣きながら手伝おうとしてくる。悪い子ではなさそうだ。
 泣きながら刃物を振り回されるのは危ないので、ウサギは俺がやるとジェスチャーで伝え、落ち着くまでスープを飲んで座ってもらうことにした。
 ウサギの解体が終わりクマの解体もしようとしたとき、落ち着いてきたのか彼女が近づいてきた。解体用のナイフを使い、慎重にクマの瞳をほじくり出す。この魔物の特徴なのか、瞳は真っ赤な宝玉のようで美しい光沢と透明感があった。ただ、額の真ん中にあった三番目の瞳は、彼女の攻撃で真っ二つになってしまっている。二つに割れた瞳を見ながら、彼女がまた泣き出しそうな、息苦しそう表情になっている。

「もう泣くな。この瞳が必要なんだろ。俺が採ってくるよ。」

 言葉は通じないとわかっているのに、思わず声がでちまった。何があったのかわからないが、よっぽど辛い目にあったに違いない。
 覚悟を決めた俺は、指でクマを指さし、殴る真似をする。そして、自分の目を指さして、彼女に渡す仕草をした。理解してくれたのか、彼女は驚きながらも表情を緩めてくれた。
 俺は最後に自分の顔を指し、ノゾムと言った。彼女はノゾムと数度、繰り返したあと、自分の顔を指し【エウリュア】といった。

 はじめて気持ちが伝わったような気がした。
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