上 下
29 / 40

家族の時間(2)-2

しおりを挟む
「おはよう! みんな起きて!」
うるさい……なにごと?
「慶太……早くない?」
「だって、学校まで三十分はかかるだろ? もう起きないと」
そっか……八時前には出ないといけないから……って、まだ六時じゃん!
 慶太はすでに着替えていて、髪型もバッチリ。血圧高いのかしら。なんて早起きなの……
「凜、碧! 朝だよ!」
 慶太ったら、すっかりパパ気分ね。
 二人は目をこすりながら、渋々起きて、うふふ、かわいい! フラフラしながら、顔を洗いに行った。
「朝は俺が送って行くから」
なら、私はまだ寝てていかしら……眠い……
「真純も起きて」
「はーい」

 テーブルにはトーストと、ヨーグルトと、ミルクとオレンジジュース。
「食パン、あった?」
「朝買ってきたんだよ。昨日予約してたから」
えっ! 朝、わざわざ?
「焼きたてのパンはうまいからな!」
し、信じられない……いったい、何時に起きたのかしら……
「真純も食べるだろ?」
「私はコーヒーだけで……」
「ダメだなぁ。俺なんて、五キロほど走ってきたから、腹ペコだぜ?」
 五キロ! 朝からこのテンションの高さ……アドレナリンの塊ね……

 娘ちゃん達は、色違いのトレーナーに、ジーンズをはいて、テーブルに座った。
「いただきまーす」
「いっぱい食べなよ」
「おじさんが作ったの?」
「そ、朝はね、おじさんの担当なの。おばさん、お寝坊だからさ」
二人は顔を見合わせて笑ってる。もう、よけいなこと言わないで!
「おいしい、パン!」
「そうだろ? ここの店はね、材料にこだわっててね……」
そんな話、子供にしてもわかるわけないじゃん。
「朝ごはん、ちゃんと毎日食べるの?」
「うん、食べるよ。でも、いっつもね、パパはいないの」
「そうなんだ」
「夜勤の日は帰ってこないし、そうじゃない日は寝てるし」
「夕飯は?」
「パパはあんまりいない」
 ……もしかして……
「ねえ、パパ、優しい?」
「うん。でも……あんまりいないから……」
 凜ちゃんは寂しそうに言った。ヨーグルトをすくう手が止まって、俯いてる。
「パパは忙しいんだよ。みんなのために、一生懸命働いてるんだ」
「ママもそう言うけど、やっぱり寂しそうなの」
「ねえ、パパは、昔からそうなの?」
「うん。でも、お仕事変わる前のほうが、もっといなかったって、お兄ちゃんが言ってた」
「パパのこと、どう思う?」
 黙ってしまった凛ちゃんの代わりに、碧ちゃんが言った。
「……大好きだけど、時々、嫌い」
「どうして?」
「だってね、パパね……」
「碧、パパの悪口言っちゃいけないんだよ。ママに怒られるよ」
 俯く二人を見て、慶太が私の手をそっと握って、微かに首を横に振った。
「そろそろ、行こうか。忘れ物ない?」
 二人がランドセルを取りに行くと、慶太が言った。
「今は、そんなこと聞くな」
「だって、もしかしたら、将吾、あの子たちに……」
「体にアザはなかったし、無茶なことはしてないはずだ。今回のことも、今までなかったことらしいから、日常化してるとは考えにくい」
「でも、私、見たのよ。目の前で、凜ちゃんとのこと……」
「そのために離したんだ。知り合いに、専門のカウンセラーがいる。相談してみるから、焦るんじゃない」
 二人がリビングに戻って来ると、慶太は笑顔になって、手をつないだ。
「忘れものないかな? あっ、おじさん、ネクタイしてないや!」
 おどける慶太に、二人はちょっと笑って……
 不安にさせないように、慶太もちゃんと考えてるんだ……なのに私ったら、ダメね、ほんとに……
「おばさん、いってきます!」
「うん、五時までには迎えにいくから、お家で待っててね」
「はーい」
「いってらっしゃい! 気をつけてね!」

 三人を見送って、テーブルの片付けを始めたけど、どうしても、気になって手に付かない。

 あの子達は、父親の愛情に飢えてる。だから、慶太にあんなに懐くのよ……

 ねえ、将吾、違うよね……『虐待』なんて……してないよね……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約者を解放してあげてくださいと言われましたが、わたくしに婚約者はおりません

碧桜 汐香
恋愛
見ず知らずの子爵令嬢が、突然家に訪れてきて、婚約者と別れろと言ってきました。夫はいるけれども、婚約者はいませんわ。 この国では、不倫は大罪。国教の教義に反するため、むち打ちの上、国外追放になります。 話を擦り合わせていると、夫が帰ってきて……。

君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか

砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。 そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。 しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。 ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。 そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。 「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」 別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。しかしこれは反撃の始まりに過ぎなかった。 

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

聖女は妹ではありません。本物の聖女は、私の方です

光子
恋愛
私の双子の妹の《エミル》は、聖女として産まれた。 特別な力を持ち、心優しく、いつも愛を囁く妹は、何の力も持たない、出来損ないの双子の姉である私にも優しかった。 「《ユウナ》お姉様、大好きです。ずっと、仲良しの姉妹でいましょうね」 傍から見れば、エミルは姉想いの可愛い妹で、『あんな素敵な妹がいて良かったわね』なんて、皆から声を掛けられた。 でも違う、私と同じ顔をした双子の妹は、私を好きと言いながら、執着に近い感情を向けて、私を独り占めしようと、全てを私に似せ、奪い、閉じ込めた。 冷たく突き放せば、妹はシクシクと泣き、聖女である妹を溺愛する両親、婚約者、町の人達に、酷い姉だと責められる。 私は妹が大嫌いだった。 でも、それでも家族だから、たった一人の、双子の片割れだからと、ずっと我慢してきた。 「ユウナお姉様、私、ユウナお姉様の婚約者を好きになってしまいました。《ルキ》様は、私の想いに応えて、ユウナお姉様よりも私を好きだと言ってくれました。だから、ユウナお姉様の婚約者を、私に下さいね。ユウナお姉様、大好きです」  ――――ずっと我慢してたけど、もう限界。 好きって言えば何でも許される免罪符じゃないのよ? 今まで家族だからって、双子の片割れだからって我慢してたけど、もう無理。 丁度良いことに、両親から家を出て行けと追い出されたので、このまま家を出ることにします。 さようなら、もう二度と貴女達を家族だなんて思わない。 泣いて助けを求めて来ても、絶対に助けてあげない。 本物の聖女は私の方なのに、馬鹿な人達。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

空間魔法って実は凄いんです

真理亜
ファンタジー
伯爵令嬢のカリナは10歳の誕生日に実の父親から勘当される。後継者には浮気相手の継母の娘ダリヤが指名された。そして家に置いて欲しければ使用人として働けと言われ、屋根裏部屋に押し込まれた。普通のご令嬢ならここで絶望に打ちひしがれるところだが、カリナは違った。「その言葉を待ってました!」実の母マリナから託された伯爵家の財産。その金庫の鍵はカリナの身に不幸が訪れた時。まさに今がその瞬間。虐待される前にスタコラサッサと逃げ出します。あとは野となれ山となれ。空間魔法を駆使して冒険者として生きていくので何も問題ありません。婚約者のイアンのことだけが気掛かりだけど、私の事は死んだ者と思って忘れて下さい。しばらくは恋愛してる暇なんかないと思ってたら、成り行きで隣国の王子様を助けちゃったら、なぜか懐かれました。しかも元婚約者のイアンがまだ私の事を探してるって? いやこれどーなっちゃうの!?

処理中です...