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8.暗転

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 気付くと俺は砂浜に座り込んでいた。頭が割れるように痛み、ぼんやりとして何も考えられなかった。恐ろしく気分が悪かった。

 眩しい。手を翳す。

 どれくらい時間がたったのだろう?

 それは懐中電灯の明かりだった。チラチラと俺の顔を照らす。目を上げると、年配の男性が立っていた。辺りは明かり一つない浜辺だった。寄せ返す波の音だけが昼間と変わらず続いていた。

 「君、1人でこんな所で何してるの?」

 「友達を待ってるんです。海、入ったまま、出てこなくて…」

 答えると、男性の口調が厳しくなった。

 「君!それはいつ?」

 「…午前…お昼頃かな?…はっきりとした時間は…」

 男性は慌てた様子で、どこかに電話を掛けた。掛け終わるとすぐ、俺に詰問し始めた。

 「君、ちょっと!それはどの辺?」

 「…あの辺りで」

 俺は、今は何も見えない暗がりを指差しながら立ち上がった。体の血が一気に下がるのを感じて、よろめいた。俺は、男性に訊かれるままに答えた。

 全身がぶ厚い膜に覆われたような、外からの感覚がうまく伝わってこないような、自分の体が自分のものでないような気がした。

 「男です。身長が、僕より少し低くて…これくらぃかな?薄いピンクのシャツ、白っぽいジーンズ…着衣のままで…歳は18くらぃで…」

 そうしている内に、次第に思考が戻ってきた。それと同時に俺は、今日、俺達に起こったことを第三者にどう説明していいのかわからないと思い始めた。それどころか俺は、水音のことを何ひとつ他人に説明できないことに気付いた。名前と目で見てわかる程度の外見のことしか、俺は彼のことを知らない。身寄りがないこと、彼が出たという施設の名前すら俺は覚えていない。

 今日、目の前で起こったことを含めて、俺は水音の存在を、どう証明していいのかわからなくなった。なんとか混乱した頭の中を整理しようとしていると、不意に脈絡なく『そうだ。水音は先に家に帰ってるかもしれない』という考えが、電灯のように俺の頭の中に点った。

 「あの、すみません。僕、夢見てたかもしれない…多分…寝ぼけて…」

 「はあ?!」

 男性が、怒気を込めた批難がましい目で俺を見た。

 「すみません、本当に…」

 そう言い切らぬ内に、地面がぐにゃりと歪み始め、目の前が真っ暗になった。最後に感じたのは、何か重いものが砂の上に落ちるような音だった。
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