上 下
8 / 17

8.暗転

しおりを挟む
 気付くと俺は砂浜に座り込んでいた。頭が割れるように痛み、ぼんやりとして何も考えられなかった。恐ろしく気分が悪かった。

 眩しい。手を翳す。

 どれくらい時間がたったのだろう?

 それは懐中電灯の明かりだった。チラチラと俺の顔を照らす。目を上げると、年配の男性が立っていた。辺りは明かり一つない浜辺だった。寄せ返す波の音だけが昼間と変わらず続いていた。

 「君、1人でこんな所で何してるの?」

 「友達を待ってるんです。海、入ったまま、出てこなくて…」

 答えると、男性の口調が厳しくなった。

 「君!それはいつ?」

 「…午前…お昼頃かな?…はっきりとした時間は…」

 男性は慌てた様子で、どこかに電話を掛けた。掛け終わるとすぐ、俺に詰問し始めた。

 「君、ちょっと!それはどの辺?」

 「…あの辺りで」

 俺は、今は何も見えない暗がりを指差しながら立ち上がった。体の血が一気に下がるのを感じて、よろめいた。俺は、男性に訊かれるままに答えた。

 全身がぶ厚い膜に覆われたような、外からの感覚がうまく伝わってこないような、自分の体が自分のものでないような気がした。

 「男です。身長が、僕より少し低くて…これくらぃかな?薄いピンクのシャツ、白っぽいジーンズ…着衣のままで…歳は18くらぃで…」

 そうしている内に、次第に思考が戻ってきた。それと同時に俺は、今日、俺達に起こったことを第三者にどう説明していいのかわからないと思い始めた。それどころか俺は、水音のことを何ひとつ他人に説明できないことに気付いた。名前と目で見てわかる程度の外見のことしか、俺は彼のことを知らない。身寄りがないこと、彼が出たという施設の名前すら俺は覚えていない。

 今日、目の前で起こったことを含めて、俺は水音の存在を、どう証明していいのかわからなくなった。なんとか混乱した頭の中を整理しようとしていると、不意に脈絡なく『そうだ。水音は先に家に帰ってるかもしれない』という考えが、電灯のように俺の頭の中に点った。

 「あの、すみません。僕、夢見てたかもしれない…多分…寝ぼけて…」

 「はあ?!」

 男性が、怒気を込めた批難がましい目で俺を見た。

 「すみません、本当に…」

 そう言い切らぬ内に、地面がぐにゃりと歪み始め、目の前が真っ暗になった。最後に感じたのは、何か重いものが砂の上に落ちるような音だった。
しおりを挟む
■ こんなものも書いています!! ■

    

  閲覧ありがとうございました!!
感想 0

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

メイドは淫らな本性のままにおねだりする

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...