黒い悪魔と銀のメス、金の盾

プロローグ

禁忌の技『医学』

　治癒や治療は神に選ばれた聖女様の仕事だそうだ。
　僕を始め多くの人はそう信じていた。

　そうそう、僕はレオン・ドリエル、まだ１４歳だ。

　僕の町にも教会があり、そこに聖女様が数名居られる。
　その中でも聖女マリアン様は僕にとって恩人だ。

　僕の両親は数年前の流行り病に掛り亡くなったんだ。
　その時も最後まで聖女マリアン様は両親のために治癒の力を使い続けてくれた。

　当たり前だが、『この世には聖女でも治せない病気や怪我』があった。

　最後まであきらめずに治癒の力を使った聖女マリアン様は本当に神様に見えた。
　そして、最悪の結果であったが両親への献身を感謝し彼女を尊敬していた。

　聖女マリアン様は気さくで優しかった。
　両親が亡くなって孤独だった僕を、他の子供達も一緒にサーカスに連れて行ってくれたりした。

　その時も村にサーカスが来ていた、サーカスは良いな、本当のワクワクする。

　だが悪夢は再び起こった。

　またしても流行り病が蔓延したんだ。

　最悪の状況が起こる……聖女マリアン様も感染してしまったのだ。
　絶望の中、それでも聖女マリアン様は大勢の病人を洞窟に隔離し治癒の力を使っていた。

（僕が聖女なら一緒に病魔と闘うだろう）
　僕はそんなことを思いながら、それを離れて見ているしかない自分を情けなく思った。

　『聖女様でも治せない病気』

　両親の墓の前で祈るしかなかった僕。　
　そして絶望のまなざしの中で、墓場荒らしを見つけてしまった。

　それは噂で聞く、黒い悪魔達と呼ばれる者達だろう。
　直ぐに見つかり彼らに捕まってしまった。

　その者達は黒いローブを羽織り恐ろしい耳まで避けた口が描かれた仮面をしていた。

　墓を荒らして死体を持って帰り、食べるためだろうか死体をばらしていた。
　なんて気持ち悪い奴らなんだろう。

　この状況で、僕はどうなるのだろう、生きたまま食べられてしまうのだろうか？

　聖女マリアン様を助けることも出来ない絶望的な状況を何とかしてほしいと涙が流れていた。

「男が泣くなよ……」
　どこかで聞いたような声がする。

　逃げるチャンスを伺うため、寝たふりをしていると、黒い悪魔達に変化が起こる。

　彼らは白いローブに着替え、笑い顔の仮面をする。

　その姿に思い当ることがある、そう噂は聞いたことがある。

『白き聖人たち』

　大聖女様の僕しもべと言われ、治癒の力を持つ聖人たち。

　僕は黒い悪魔がなぜ白き聖人なのか分からなかった。
　でも、すがる思いで泣きながら懇願していた。

『聖女マリアン様を助けて欲しい』

　僕は彼らに聖マリアン様の居る洞窟の道案内をした。

　そこで彼らは魔法や治癒の力を使うことなく、不思議な道具や薬で患者を治療していた。

　聖女マリアン様は彼らに助けられた。

　その日の内に彼らにより病は駆逐されて行った。

　僕は見た、聖女でなくても治癒することが出来ることを。
　僕は見た、禁忌を冒し病気の原因を追究する彼らを、黒い悪魔は彼等のもう一つの顔だったのだ。
　僕は見た、彼らがサーカス団の人だと言うことを。

　僕は男なので聖女には成れない。
　だから人を治癒する者には成れないことを知っていた。

　だが今は違う、ここなら、そうだここでなら。
　僕は将来人を助けることが出来る治癒の者になれるだろう。

　僕は村を出る決心をしサーカス団『マーレン』に入ることになった。