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記憶なんかいらない(1)

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 意識が戻ってくることを拒むように一心に心を閉ざそうとしていた。
 それでも意識が戻ってくると涙が溢れてきた。

「全て嘘だった、馬鹿だ・・僕は・・・なぜ思い出そうなんて」

 思い出した、そう思い出した、今までのことが全て嘘だと思い出した。

 自分が誘拐などされていないことを思い出した。 
 根本的なことが嘘だと思い出した。

 涙が止まらない。
「そんな・・・ずっと忘れたていたかった」

 忘れていたことが幸せであったことと思い知った。
 思い出したくないこと・・・を思い出した。

「セルマ」

 僕には小さな時から親友ともいうべき友達がいた。
 それは可愛がっていたパルムナルというペットだった。
 でもセルマのことを思い出すことはなかった。
 ただ過去の絵画や母や弟からセルマのことは聞いていた。
 そして母は僕が誘拐される以前に、セルマは事故で死んだと教えてくれた。

 でも、それは嘘だった、忘れていたいことを思い出した。

 大体、僕は誘拐なんかされていなかった。
 そして呪いをかけられて、恣意的に記憶を奪われたのではない。

 違う、そうじゃない。
 僕たちが忘れることを望んだんだ。

 誘拐されたというあの日。
 その時の僕は生きる気力を全て失っていた。
 僕は完全に抜け殻になっていた。

 そんな僕を心配したのか、それとも何か事情が分かっていのか父は行動を起こした。
 僕は父に連れられて、森の奥に住むという”不老不死の魔女”のもとに行くことになった。
 もっとも、どこにいるかもしれない”不老不死の魔女”に簡単に会いに行けるはずもなかった。
 それでも父は長旅すら覚悟していたので、父の弟であるアルジャン叔父さんに後のことを頼んだ。
 そこまでの覚悟をする父。

 だが、”不老不死の魔女”は不思議なことに僕たちが来訪するることが分かっていたようだった。
 僕たちが向かった森の少し入ったところで僕たちを迎えてくれた。

 ”不老不死の魔女”は不思議なことを言った。
「時代の主役が来るという予知夢を見たのだ、だから迎えにきた」

 でも僕うや父には、”時代の主役”がなんのことかは話からなっかった。
 父が事情を話そうとしてが、”不老不死の魔女”は「何も聞かなくても良い」というと僕にに「記憶喪失の呪い」を掛け始めた。

「記憶喪失の魔法とは違う、”呪いとして受ける”のだ。
 今度目が覚めた時お前は結界師の能力を失うだろう。
 もっとも今のお前には何も聞こえないだろうがな。
 ただ、これだけは覚えておけ、お前にはお前を支えてくれる多くの者達がいること」

 結果、僕は結界師としての能力の記憶とセルマのことを忘れることができた。

「なぜ思い出したんだ・・・」

 その時声が響く・・・

”小心者のお前のことだ。
 なぜ思い出したとか後悔しているかもな?

 簡単さ、「呪いを解いた」からさ。

 お前は自分を助けるための忘れる呪いを解いたんだ。
 だから私が掛けた別の呪いが発現したのさ。
 安心しな。
 大丈夫だ。たぶんお前には十分な時が与えられたはずだからな。
 思い出を胸に刻めそうして強くなれ”

「なんだよ。
 なんのことだ・・・
 訳が分からないよ」

 頭が割れそうに痛い。
 心が張り裂けそうだ。

 そして僕はさっき見ていた禁書を見つけた。

 すべてはその本から始まったんだ。

 セルマが居なくなったのは僕のせいだ。

 そうなんだ、セルマを殺したのは・・・

 そんな赦されることじゃない、セルマを”惨殺”したのは・・・・

 僕だ・・・・

「ごめん、セルマ・・・」
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