王女の恋は成就するのか?

魔茶来

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ある日

01.会社では秘密なんだ

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「クレームがまた来たぞ、相馬のプログラムを直ぐに調べて修正してくれ」
 社長のひとことが響くIT企業と言うのはブラック企業だとつくづく思う、今も先日退職した相馬のプログラムがバグっていた。
 人の作ったプログラムは分析から始まる、それも作り方が一人一人違うから大変だ。
 特にうちの会社は標準化が進まないからな、天才はみんな作り方が違うんだとか社長が言っているから問題だよ。
 よってこの解析に時間が掛かるのだ。でも顧客にとっては業務が止まってしまうから社長は「直ぐに」という言葉を必ず添えるのだ。

「今日も帰れないな」
 そう呟くと隣の佐伯さんがこちらを見ていた。

「今日もですか大丈夫ですか、差し入れしましょうか?」

「ありがとうございます、あとから黒田と一緒に夜食食べに行くから大丈夫です、帰れる時には帰ってください」

 嬉しくなる優しい言葉だった。

 佐伯翠(さえきみどり)、彼女は、某工学部を主席で卒業した、今年入社の才女だった。
 彼女は社長も一目置いており、社長は俺たちに渡すブラックな仕事では無く、新人なのに重要な難しい仕事を渡している、でも難しい仕事をこなしてしまうくらいの才女だった。

 だが才女と言うからには、少しくらい変わっているかと言うとそうでは無い。

 どことなく漂うお嬢様というか高貴というか不思議な雰囲気を持つ女性だった。
 多くの男性社員は彼女に気があるらしいが、俺は恋愛には興味はない、というか俺は結婚しないと決めていた。

 帰れないのは疲れるが、バグは処置が済めば少しの空き時間ができる。
 少しの時間で良いんだ、その時間にネタを考え執筆するのだ。
 実は俺は何を隠そうライトノベル作家もやっている。
 得意ジャンルはファンタジー系。

 但し今は新しい小説のネタを考えているので休止中だ、よって今は連載は無かった。

 プログラム分析をしようと画面に向かってると、横に佐伯さんがやって来た。

「矢崎さん、熊白モンタ先生って知っていますか?」

 熊白モンタ、知ってますとも俺のペンネームだ。

「知りませんけど、顧客に居たかな?」
 知らないふりをした。

「そうですか、社内報に矢崎さんが書いた文章がなんか熊白モンタ先生を想像させるので、もしかしてご存じかと思いまして」

「いや、ライトノベルは読まないので知りませんよ」

「ライトノベル?」

 しまった!!

「えっ、なんのことですか?」

「今、ライトノベルと言いませんでした?」

「いいえ、知りませんよファンタジー系は興味がないので」

 この会社はブラックだが、別に小説家は副業として問題があるわけでは無い。
 だが会社では小説家であることは隠している。
 もともと隠す気はなく気分転換に書きだしたのだが、誰にも言えないままファンタジー系を中心に執筆していた。
 
「ファンタジー系なんて言ってませんよ、隠しても無駄です、思った通り熊白モンタ先生ですよね」

 いけない、なんか反応がしどろもどろになる、執筆して居る時とは違い即答には弱いのだ。
 結果その後もボロを出しまくった、このままではヤバい!!

「ちょっと良いですか?」
 なんか大きな声で熊白モンタというのは、まずいので外に連れ出した。

「私が熊白モンタと認めますよ、会社では内緒なので秘密にしてください」

「はい!!」
 彼女は元気に返事をした。

 その後嬉しそうな顔のまま口を開き。
「やっぱり熊白モンタ先生でしたか、良かった実はお願いがあります」

 いや、その熊白モンタというのは止めて欲しい、ここは会社なんだからね。
「社内で熊白モンタというのは止めてください、矢崎でお願いしますよ」

「分かりました、以後気を付けます」
 そう言うと彼女は嬉しそうな顔のまま帰って行った、何が分かったのやら?

 デバッグを終わり黒田とコンビニに行ったのは夜中の3時だった。
 深夜食を食べた後、黒田は仮眠をしていた。

 デバッグを終えたので明日の段取りをメールしようとメールを確認すると佐伯さんからメールが入っていた。
 そう言えばお願いがあるとか言っていたな?

 ”矢崎様、先ほどは失礼致しました、少しお話したいことが有りますのでご都合をお知らせ頂ければ幸いです”

 デートの誘いか?はたまたサインでも欲しいのだろうか?彼女に限ってそんなことは無いだろう。
 とは言え社内のマドンナを連れてというのはなんか目立つから、少し離れたところの喫茶店で話をすることにした。

 結局そのまま仮眠もとらず顧客の所に朝一に入って、対処していた。
 終わったのは昼前で、急いで待ち合わせ場所に向かった。

「ごめん、ちょっと手間取ってね」

「大丈夫ですよ、こちらこそ申し訳ありません」

「それで何の話だろうか、まさか会社にバラすとかで脅迫するとか?」

「そんなことはしません、実は共作のお願いなんです」

 共作とはどういうことだろう?骨子でも作れと言うことかな、それとも原作者という話かな?
「共作って?」

「今度ファンタジー系の恋愛小説を書こうと思うんですが、ファンタジーに強い人の協力があればと思っていたんです」

「俺で良いの?どちらかと言うとアドベンチャー系だよ?」

 否定でない回答に嬉しそうな少女のような顔になる彼女。
「大丈夫です、題名は『王女の恋は成就するのか?』に決めているんですけどね、まだいろいろと詳細が決まってなくて、そこで幾つかの詳細部分の執筆までお手伝いとアイデアの提供をお願いしたいの」

「王女の恋って、素敵な王子様との恋愛かな?確かに今は連載は無いから大丈夫だけど、恋愛の話に俺で大丈夫?」

「熊白先生なら、大丈夫ですよ」
 その自信がなぜあるのか分からないが、秘密を社内に大々的にばらされても困るので共作のお願いは承諾した。

 まさかね、王女様を主役に恋愛作を共作であるとしても執筆するとは思わなかった。
 なぜなら、俺が一生結婚しないと誓った理由も王女様だった。
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