11 / 18
おかえりなさい②
しおりを挟む
「和くん・・・」
声が掠れる、頭は真っ白になっていた。
失敗できない、そんな思いが私を包み込んでいた。
「ナナちゃん」
その声を聞いている和くんも少し枯れた声で答える。
「おい、遺産ちゃんと貰えるようにはなしせんかい!!」
知らない男が和くんの横で聞いているようだ。
本当に失敗できない、そう今は私は和くんの妹なんだ。
「お兄ちゃん、お父さんが、お父さんが昨日ね息を引き取ったの。
お兄ちゃんの名前も呼んでいたわ。
でもね、今大変なことになっているの。
お父さんの個人名義の銀行口座が凍結されてしまったのよ。
このままでは、お店の経営にも支障が出るわ。
帰って来て・・・」
『帰って来て』その言葉は自分の本当の気持ちだ。
言った瞬間に涙が溢れて来た。
その涙に近藤さんも浅野さんも驚いていた。
迫真の演技だと思ったのだろうが、演技では無かった。
「本当に大変だったな、ごめんなこんな時に居ないなんて。
悪いお兄ちゃんだ」
和くんは何かを感じているのだろう。
ちゃんと話を合せてくれた。
だが、泣いている暇はない。
肝心なことを話しなければならない。
「銀行は家族全員のハンコとか承諾なんたらとか必要だと言うのよ。
そこで弁護士さんを頼んで、必要な書類は揃えたんだけど。
お願い書類は自筆でなければならないから一度帰って来て」
この言葉が承認されるはずは無い、不当労働させられているのだから。
「あかんで、帰ることはでけへんから、こっちに来てくれと言うとけ」
和くんの横からそんな声が聞こえた。
和くんはその声に言われたように答えて来た。
「実は忙しくて今は帰れないんだ。
こっちに来てくれないか?」
電話の音声をピックアップで聞いていた近藤さんが手で丸を作る。
「OK」と言うことのようだ。
どうやら作戦は成功のようだった。
「分かったわ、どこに行けばいいの?」
すると横の男が何やら指示をして、その言葉を和くんが伝えて来た。
間違いが有ってはいけないからタブレットで地図を確認しながら場所を記入していく。
「じゃあ、明日10時にここに来てくれ」
「分かったわ・・・」
その言葉を言うと私の口から勝手に言葉が出始めた。
思いと言うのは勝手に口から出てしまうものなんだろうか。
「お父さんが私に和菓子の店を継げというの、でも私にはお兄ちゃんが必要なの。
お願いお兄ちゃん私を手伝って。お願い帰って来て・・・」
まだ言葉や話を続けたいにもかかわらず電話は非常にも切られてしまった。
「OKよ大成功、迫真の演技ね、よっ!!大女優」
と浅野さんが茶化すのだが、涙が本物だと知って「ごめんなさい、そうよね不謹慎でした」と謝った。
近藤さんはどこかから連絡を受けていた。
「本当にお手柄よ、さっきの通話履歴から『タコ部屋の場所』が分かったわ。
指定場所も近くのようね。
須藤君、明日の大捕り物に必要な人員を集めなさい、良いかな、分かったかな!!」
「はい、直ぐに準備します」
須藤さんは直ぐに部屋を出て行った。
浅野さんは流石に心配していた。
「そんな大捕り物ができるの、捜査令状とかないんでしょ?」
「先日の被害者は亡くなっているのよ。
その人の証言もあるわ。
殺人罪・・・その証言に基づいて捜査令状や逮捕状も準備できているわ。
後は『タコ部屋』に大勢いると言う不当労働をさせられている人たちの救出。
その人達の証言があればもう終わりよ。
それとこの犯人たちね余罪も多そうなのよね。
ふふふ大変だ!!」
近藤さんなんで「大変だ」って笑うの?
なんか不安で心配なんですが・・・
「その後、明日の準備や計画を話して準備があると言うことで、みんなは帰って行った」
最後に浅野さんが「一人で大丈夫」とか聞かれたが「一人じゃないです家族が居ます」と言って強がった。
でも布団に入るとやっぱり震えて来た。
さっき横で話されていた関西弁が恐ろしく思い出された。
そして、和くんの声を聞いて思い出すのだ。
庇いきれなかったあの出来事。
あの出来事の後、安さんと和くんは出て行った。
いや、追い出されたんだ。
そう二代目社長が専門家?とかコンサルタントだとかいう人たちを連れてきたあの時。
「効率化・改善」
あの人たちはそんな奇麗ごとをさんざん言っていた。
使うのはIE手法?
IEってブラウザくらいしか知らなかった私。
お父さんに聞いて「IE(Industrial Engineering)」と言うことを知った。
その手法は多岐にわたり多くの調査や調整に使うことが出来る手法であることも後で知った。
それは二人が去った後で知ったことだった。
そして店にやって来た専門家=コンサルタントという人たちである。
元はそれなりの大企業に勤めていて工場の改善に尽力していた人たちだそうだ。
その経歴にすっかり騙されたということだろうか?
彼らは科学的な手法で効率化するとか言っていた。
何が科学的だ・・・
ストップウォッチで人を虐める専門家たち。
作成される報告書はテンプレートの穴埋めのような報告書だった。
お父さんに聞いてから私もIEを勉強した。
二人が居なくなってがむしゃらに勉強した。
今ならあの人たちのやったことを否定出来る自信がある。
順番ややり方がおかしい、それに和菓子や職人というものが判っていなかったんだ。
科学的なんかじゃなかったんだ、なんであの時否定できなかったのか・・・
あの時、本当に何も知らなかった自分を恥じるばかりだった。
悲しい思い出が多く思い出された。
涙はもう良い。
(和くん無事に帰って来て)
心で祈る。
そのためにも明日の覚悟を決めよう!!
そうだ眠らないといけない。
眠いからと言って言い訳にはならない、そうだ失敗は出来ないだろ。
良いことを思いながら眠ろう。
そう、和くんを助け出し和菓子に囲まれた夢をみよう。
声が掠れる、頭は真っ白になっていた。
失敗できない、そんな思いが私を包み込んでいた。
「ナナちゃん」
その声を聞いている和くんも少し枯れた声で答える。
「おい、遺産ちゃんと貰えるようにはなしせんかい!!」
知らない男が和くんの横で聞いているようだ。
本当に失敗できない、そう今は私は和くんの妹なんだ。
「お兄ちゃん、お父さんが、お父さんが昨日ね息を引き取ったの。
お兄ちゃんの名前も呼んでいたわ。
でもね、今大変なことになっているの。
お父さんの個人名義の銀行口座が凍結されてしまったのよ。
このままでは、お店の経営にも支障が出るわ。
帰って来て・・・」
『帰って来て』その言葉は自分の本当の気持ちだ。
言った瞬間に涙が溢れて来た。
その涙に近藤さんも浅野さんも驚いていた。
迫真の演技だと思ったのだろうが、演技では無かった。
「本当に大変だったな、ごめんなこんな時に居ないなんて。
悪いお兄ちゃんだ」
和くんは何かを感じているのだろう。
ちゃんと話を合せてくれた。
だが、泣いている暇はない。
肝心なことを話しなければならない。
「銀行は家族全員のハンコとか承諾なんたらとか必要だと言うのよ。
そこで弁護士さんを頼んで、必要な書類は揃えたんだけど。
お願い書類は自筆でなければならないから一度帰って来て」
この言葉が承認されるはずは無い、不当労働させられているのだから。
「あかんで、帰ることはでけへんから、こっちに来てくれと言うとけ」
和くんの横からそんな声が聞こえた。
和くんはその声に言われたように答えて来た。
「実は忙しくて今は帰れないんだ。
こっちに来てくれないか?」
電話の音声をピックアップで聞いていた近藤さんが手で丸を作る。
「OK」と言うことのようだ。
どうやら作戦は成功のようだった。
「分かったわ、どこに行けばいいの?」
すると横の男が何やら指示をして、その言葉を和くんが伝えて来た。
間違いが有ってはいけないからタブレットで地図を確認しながら場所を記入していく。
「じゃあ、明日10時にここに来てくれ」
「分かったわ・・・」
その言葉を言うと私の口から勝手に言葉が出始めた。
思いと言うのは勝手に口から出てしまうものなんだろうか。
「お父さんが私に和菓子の店を継げというの、でも私にはお兄ちゃんが必要なの。
お願いお兄ちゃん私を手伝って。お願い帰って来て・・・」
まだ言葉や話を続けたいにもかかわらず電話は非常にも切られてしまった。
「OKよ大成功、迫真の演技ね、よっ!!大女優」
と浅野さんが茶化すのだが、涙が本物だと知って「ごめんなさい、そうよね不謹慎でした」と謝った。
近藤さんはどこかから連絡を受けていた。
「本当にお手柄よ、さっきの通話履歴から『タコ部屋の場所』が分かったわ。
指定場所も近くのようね。
須藤君、明日の大捕り物に必要な人員を集めなさい、良いかな、分かったかな!!」
「はい、直ぐに準備します」
須藤さんは直ぐに部屋を出て行った。
浅野さんは流石に心配していた。
「そんな大捕り物ができるの、捜査令状とかないんでしょ?」
「先日の被害者は亡くなっているのよ。
その人の証言もあるわ。
殺人罪・・・その証言に基づいて捜査令状や逮捕状も準備できているわ。
後は『タコ部屋』に大勢いると言う不当労働をさせられている人たちの救出。
その人達の証言があればもう終わりよ。
それとこの犯人たちね余罪も多そうなのよね。
ふふふ大変だ!!」
近藤さんなんで「大変だ」って笑うの?
なんか不安で心配なんですが・・・
「その後、明日の準備や計画を話して準備があると言うことで、みんなは帰って行った」
最後に浅野さんが「一人で大丈夫」とか聞かれたが「一人じゃないです家族が居ます」と言って強がった。
でも布団に入るとやっぱり震えて来た。
さっき横で話されていた関西弁が恐ろしく思い出された。
そして、和くんの声を聞いて思い出すのだ。
庇いきれなかったあの出来事。
あの出来事の後、安さんと和くんは出て行った。
いや、追い出されたんだ。
そう二代目社長が専門家?とかコンサルタントだとかいう人たちを連れてきたあの時。
「効率化・改善」
あの人たちはそんな奇麗ごとをさんざん言っていた。
使うのはIE手法?
IEってブラウザくらいしか知らなかった私。
お父さんに聞いて「IE(Industrial Engineering)」と言うことを知った。
その手法は多岐にわたり多くの調査や調整に使うことが出来る手法であることも後で知った。
それは二人が去った後で知ったことだった。
そして店にやって来た専門家=コンサルタントという人たちである。
元はそれなりの大企業に勤めていて工場の改善に尽力していた人たちだそうだ。
その経歴にすっかり騙されたということだろうか?
彼らは科学的な手法で効率化するとか言っていた。
何が科学的だ・・・
ストップウォッチで人を虐める専門家たち。
作成される報告書はテンプレートの穴埋めのような報告書だった。
お父さんに聞いてから私もIEを勉強した。
二人が居なくなってがむしゃらに勉強した。
今ならあの人たちのやったことを否定出来る自信がある。
順番ややり方がおかしい、それに和菓子や職人というものが判っていなかったんだ。
科学的なんかじゃなかったんだ、なんであの時否定できなかったのか・・・
あの時、本当に何も知らなかった自分を恥じるばかりだった。
悲しい思い出が多く思い出された。
涙はもう良い。
(和くん無事に帰って来て)
心で祈る。
そのためにも明日の覚悟を決めよう!!
そうだ眠らないといけない。
眠いからと言って言い訳にはならない、そうだ失敗は出来ないだろ。
良いことを思いながら眠ろう。
そう、和くんを助け出し和菓子に囲まれた夢をみよう。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる