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第3章「正義のシスター」

第35話「私の婿になりなさい」

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「アラン、ライラちゃんが困ってるわよ?」

「え?」

 リリーに言われて見ると、彼女はまたブランケットに包まって体を隠し、僕をじっと見ていた。紫色の瞳が、じーっと何かを言いたげにしていた。

 そうだ。ライラのことも決めなければ。彼女が僕の復讐に協力してくれるのかは分からないけど、なぜあんなところに魔族の女の子がいたのか知りたい。もしかしたら、アーサーやナンシーを殺すのに役に立つ何かを知っているのかもしれないのだから。

「え、と。ライラ?」

 僕の呼び掛けに、ライラはぴくっと瞼を動かす。でも返答はない。

「色々と訊きたいことがあるんだけど――」

「アラン」

 唐突に名前を呼ばれ、僕は言葉が継げなくなる。パンくずを付けている小さい口が開く。

「あなた、私の婿になりなさい」

「は?」

「おおー、大胆な告白」

 リリーが視界の隅でニヤニヤとしてるのが分かる。僕だって言葉の意味は分からないわけじゃない。ただ、なんでそんなことを急に言い出したのか理解不能だった。しかも、僕は人間だというのに。

「えーと、なんで?」

「私は魔王なの。あのクソ勇者のせいで、私達魔族はバラバラになってしまった……。私はなんとか生き延びれたけど、このままじゃ、魔族が滅んでしまうの――だから、私と結婚して子どもを作らないといけない。きっと他の生き残っている魔族もそれを望んでいるはず」

 ライラは僕の目を見ながら、淡々と、しかし雄弁に話す。

「ほとんどの魔族は死んでしまった。生き残りにも会っていない。アラン、あなたは男でしょ。それに、ジェナとかいうあの忌々しい竜人を殺したのなら、強さは十分」

 だから、私の婿になって子供を一緒に作れ、と彼女は言う。言いたいことは分かったような気がするけど、突っ込みどころが多すぎる上に、斜め上の要求過ぎてどう反応していいか分からない。魔王って、本当か? ……まあ、確かにジェナあたりが強さ的な意味で好みそうだけど。魔王っていう強さは。

 僕が無言になってしまったのを、ライラは顔を真っ赤にしながら言う。

「それに、アラン。あなた、私の裸を見たでしょ。起きたら傷がなくなっているし、綺麗になっていた。……あなたでしょ」

「いや、それは……」

「アランー、隠し事はダメだよ。ちゃんと言わなきゃ。隅々まで自分が綺麗にしましたって」

「なっ、おいっ」

 余計なことを。しょうがないだろ、状況が状況だったんだから。それは、その色々見ちゃったけど……。大体、リリーだって、しょうがない、って言ってたのに。

「す、隅々まで……?」

「いや、違うんだ」

「何が違うの?」

「あ、いや……」

 顔が燃えるんじゃないだろうかと思う程、顔を真っ赤にした彼女は、じとっと僕を睨んでくる。事実見てしまったものはどうしようもなかった。

「見ました……」

 僕はがくっとうなだれた。これ以上変に言い訳すると色々失う気がしてならない。

「隅々まで?」

「いや、そんなには……。身体が汚れていたから、魔法で綺麗にしただけで。服を着ているとどこを怪我しているか分からないし……」

 おかしい。助けただけなのに、なんで僕がこんなに困るはめになっているんだろう。

「ふーん。わ、私の裸そんなに見といて、このまま私を放り出すの?」

「いや、そうとは言っていないけど……」

「でも、婿にならないということはそういうことじゃん。私、そんなに魅力ない……?」

 ああ、なんか変な方向にへこみ始めた。どうしたらいいんだよ。確かに僕は気にしてないけど、人間の国のど真ん中で魔族の子供を放り出すのは、危険な目に合う可能性が高い。ましてや、本当に魔王だとしたら放り出した僕まで巻き込まれかねない。だけど、今は婿どうの言っている場合ではない。

「魅力がないとかそうじゃなくて、今の僕はそれどころじゃないんだ。勇者パーティーの二人を殺さなきゃならない。だから、婿になれない」

「勇者パーティーを? ……じゃあ、それが終わったら婿になってくれる?」

 いや、なんでそうなるんだ。僕達、出会って一日くらいしか経ってないぞ。

「アラン、いいんじゃない? お婿さんくらい」

「リリー、お前、面白がっているだけだろ」

「そうだよー、くすくす」

「アラン、ところでこの女、誰?」

 今になって、ライラはリリーを剣のある顔で見る。リリーのことはっきり見えるのか。魔族も僕と近い存在なのかな。普通に聞き取れてるし、話してるし。

 それにしても、リリーは別に恋人とかそういうんじゃないんだけど……。説明したところでちゃんと素直に聞いてくれるだろうか。

「はぁー……、リリー。僕の復讐を手伝ってくれている精霊」

「精霊、これが……」

 ライラはしげしげとリリーを見る。リリーは調子に乗っているのか、僕から離れてライラに背後から抱き付いた。

「ライラちゃん、今アランが言った通り、私達は勇者パーティーへの復讐の真っ最中なの。アランもそれが終わらないと、お婿さんにはなってくれないんじゃないかな?」

「そうなの?」

「ああ。あと二人殺さないといけない。それなのに君の婿になんてなれないだろう」

 ライラはじっと僕を見る。なんだか、今日は見つめられてばっかりだな。

「じゃあ、私も手伝う。復讐」

「……本気か?」

「もちろん。私だって勇者パーティーに恨みはある。一度は全力で戦って負けてしまった上に、あのくそ竜人に何度もいたぶられた。シスター野郎には魔法を封印されたし。復讐で私のお婿さんになってくれるのなら、いくらでも手伝う。私に封印を掛けたシスターを殺せば魔法も使えるようになるし。ダメ?」
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